STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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2011年6月25日(土)

 

 

「ねえスズさん。まゆしぃを……まゆしぃを、タイムマシンであの日に連れて行ってほしいのっ!」

 

鈴羽はまゆりに呼び出され、そう言われた。

 

「まゆねえさん…?どういうことだ?」

 

あの日、とはおそらく、8月21日——牧瀬紅莉栖の救出に失敗し、鳳凰院凶真が死んだあの日だ。

 

鈴羽は岡部と、その日に向けてタイムトラベルする計画を立てていた。まゆりが同じことを言い出したことに、鈴羽は驚いていた。

 

「あの日、まゆしぃがオカリンを庇っちゃったの。どうしてオカリンばっかりが辛い思いをしなきゃいけないの、って思って……。それでオカリンを守れるって、そう思ってたの。でも……」

 

岡部と計画を立てていることは、まゆりには話していない。理由は、まゆりを心配させないためだ。

 

直接、過去に行くのは鈴羽だが、過去を変えて岡部を別の世界線に送り出すことになる。そうすれば、いやおうなしに岡部はまた、苦しむことになるだろう。だから、まゆりには何も言っていなかったのだ。

 

「結局、オカリンはずっと苦しんでた。紅莉栖さんを救えなかったことを、ずっとずっと悔やんでた。もう、そんなオカリンは見ていたくないの」

 

「まゆねえさん…」

 

「それに、かがりちゃんにも、ずっと辛い思いをさせちゃってたもん。未来からこの時代に来て、ずっと一人ぼっちだった。そんなの……可哀想だよ」

 

気持ちは分かる。今、記憶を取り戻したかがりは、幸せな日々を送っている。だが、それだっていつまでも続きはしないのだ。2036年になれば、また幼いかがりは過去へと跳び、捕まって、記憶を消されてしまう。

 

その原因を根本から解決しない限り、この地獄から抜け出すことはできないのだ。

 

「まゆねえさんは、あの日に行って、どうするつもりなんだ?」

 

「……私…ね。鳳凰院凶真に会いたい。あの高笑いをもう一度聞きたいの。だから…」

 

目的は、鳳凰院凶真の復活。

 

きっとまゆりは、自分が岡部を庇ったことが原因でそうなってしまったと、自分を責めているのだ。

 

「まゆねえさんが悪いんじゃないよ」

 

「でも……」

 

「…………」

 

岡部との話を、まゆりにも話すべきかどうか迷う。

 

岡部は、まゆりだけは絶対に巻き込みたくないはずだ。まゆりを守るために、紅莉栖を犠牲にしてこのβ世界線を選んだのだから。

 

あれからも、岡部と至の三人でいろいろと話し合った。

 

やはり、改変するのは1月2日の岡部の行動だ。だが、あの日の岡部が、未来からやって来た鈴羽の指示に従ってくれるかどうか。だから、サブプランとして8月21日にも干渉する。まゆりが言った通り。鳳凰院凶真を復活させることができれば…。

 

「まゆねえさん。ずっと黙っていて悪かった。あたしは父さんと、オカリンおじさんと三人で、今日までずっと話し合いをしてきたんだ」

 

「話し合い…?」

 

三人で立てた計画は、もう細かなところまで詰めている。だが、どうしても一抹の不安が残る。

 

鈴羽に、岡部を変えられるのか、という不安。

 

牧瀬紅莉栖を救えなかったあの日の岡部は、深い絶望の淵に立たされていた。そんな岡部に、鈴羽の声が届くとは正直なところ思えない。だが、まゆりの声ならば……。

 

 

(まゆねえさんの声なら、きっと届く……。あたしには無理でも、まゆねえさんなら……っ!)

 

 

結局、鈴羽はまゆりに全てを話すことにした。

 

 

「そっかぁ。オカリンは、がんばるって決めたんだね」

 

全てを打ち明けると、まゆりは嬉しそうに、切なそうに笑った。

 

鈴羽は、未来のまゆりを知っている。この表情を知っている。

 

いつも優しく、どんなときでも笑顔を絶やさないまゆり。由季が亡くなってからは、鈴羽にも母親のように接してくれていた。そんなまゆりが、時折見せる悲しげな顔。鈴羽はその顔を見るのが嫌いだった。

 

鳳凰院凶真がいれば、未来は違っていたのかもしれない。雲に隠れてしまった星空を見ながら、そう呟くまゆりを見ていられなかった。この人に、こんな思いをさせる世界が嫌いだった。

 

鈴羽はタイムトラベルを決意した日の事を思い出す。

 

(あたしが過去を変えようと思ったのは、まゆねえさんのこんな悲しそうな顔を見たくなかったからだ…)

 

結局、今になってもそれは変えられていない。

 

「まゆねえさん。このことは、オカリンおじさんには秘密にしておくよ」

 

「え…」

 

「おじさんが知れば、きっと止めるだろうからさ」

 

「スズさん……まゆしぃを、あの日に連れて行ってくれるの?」

 

「まゆねえさんに、ちゃんと覚悟があるのなら、悪くない選択だと思う」

 

「かく…ご?」

 

「…このタイムマシンは、もうこの時代には戻って来られない。片道切符なんだ。オカリンおじさんにも、かがりにも、もう会えなくなる。それでも……あの日に行く覚悟があるのなら、あたしは止めない」

 

「…………」

 

「一応さ、あの日には行こうと思ってたんだ。でも、きっとあたしじゃオカリンおじさんを変えられないような気がしてた。たぶん、まゆねえさんじゃなきゃ、おじさんには届かないと思うんだ」

 

「そんなこと……」

 

「ううん。絶対にそうだよ」

 

鳳凰院凶真が生まれるきっかけを作ったまゆりでなければ、きっと。

 

「まだもう少しだけ時間は残されてる。そうだな。期限は7月7日。その日まで、じっくりと考えてほしい」

 

まゆりがあの日に行くにしても、行かないにしても。少なからず世界線は変わるだろう。

 

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