STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「かがりちゃん。そろそろ、行くね」
まゆりがタイムマシンに乗り込もうとしている。
ゆっくりと、一段ずつタラップを上っていくまゆりの脚が震えているのが、下から見ても分かった。
まゆりの想いも、岡部の想いも、全部分かった。
かがりをなだめるための、適当な言葉じゃない。世界が変わっても、必ずまゆりと再会できる。ふたりはそれを本気で信じているのだ。だったら、自分もそれを信じなければいけない。
かがりは、この時代に逃げるためにやって来たのではない。
(私は……タイムトラベラーなんだ!)
鈴羽と共に、過去を変える使命を授かって、この時代にやって来たのだ。
「待って!」
かがりはまゆりの腕を掴んだ。
「…え?」
「ママの代わりに私が行く!」
「お、おいかがり!」
かがりはまゆりが持っていたスマホを奪い取り、戸惑うまゆりの手を強引に引っ張った。あまりの早業に、岡部も全く反応できない。
「わっ!」
まゆりがバランスを崩し、タラップから転げ落ちる。
それと入れ替わるように、かがりがマシンの中にその身を滑らせた。
「かがり、お前——正気か⁉」
驚く鈴羽に構わず、ハッチから身を乗り出して、かがりはまゆりに笑顔で告げた。
「ママ!オカリンおじさんは、私がなんとかしてみせる!だから、そこで待ってて!」
「かがりちゃん…っ!」
「おねーちゃん!ハッチを閉めて!」
「……いいのか?」
ハッチが閉まり始める。
まゆりと岡部が呆然とした顔でかがりを見上げている。
「ママ!私、ママの事、ずっと愛してる!過去も、今も、未来でも!」
「かがりちゃん……」
「まゆねえさん!オカリンおじさん!もうあたしたちはこのまま跳ぶ!かがりと一緒に過去を変えてくる!」
「鈴羽っ!」
想定外の事態に困惑した声で岡部が叫ぶも、もうハッチは完全に閉まってしまった。
「かがり」
かがりはもう、大好きなママの姿を見る事は出来ない。
「っ……!」
でも、後悔はない。かがりは涙を手で拭くと、黙って助手席に座り、シートベルトで身体を固定した。
「鈴羽おねーちゃん。出して」
その言葉に、向かいに座る鈴羽がニヤリと笑う。
「ふ。まさかもう一度お前と乗る事になるとは思わなかった」
あまりにも想定外の事態だったが、これも悪くないと、鈴羽は思った。
「一番最初に戻っただけだよ」
「最初とは大違いだ。あの時のお前は、ぴーぴー泣いてた」
「鈴羽おねーちゃんだって、ちょっぴり泣いてたくせに」
「ふ……だな」
お互いにニヤリと笑う。
「行くよ……かがり。過去へ」
「うんっ!」
もう、迷いはない。
世界が変わっても、必ずまゆりと出会うのだ。
かがりはいつか、まゆりが星空を眺めながら、話していたことを思い出した。
「探し物 ひとつ」
「星の 笑う声」
「風に またたいて」
「手を伸ばせば 掴めるよ」
「ねえ、かがりちゃん。まゆしぃは思うのです。この歌は、大好きな人を励ます歌なんじゃないかなぁって」
「励ます歌?」
「その人は、大切な宝物をなくして、悲しくて悲しくて、眠っちゃったの。どんなにゆさぶっても眠ったまま。それくらい、悲しかったから。でもね、その宝物は、実はなくなってないんだ。本当は、ちょっと手を伸ばせば、届くところにあるの。だけど、その人は、宝物がすぐ近くにある事に気付かないで、ずっと眠ったままなの。でもね、その人はきっと、本当は、誰かが起こしてくれるのをずっと待ってるんだ。だってね、その人は、そばにいるから。いなくなったわけじゃないから。それがいつになるのか分からないけど、それでも、いつかきっと目を覚ましてくれる。そういう歌なんじゃないかなぁって、思うんだ」
(私も、きっと掴んでみせる。だから……)
絶対にやり遂げてみせる。自分は、誰よりも強い椎名まゆりの娘。椎名かがりなのだ。
「まさかこんな事態になるとはな…」
タイムマシンが虚空へ消え去る瞬間、岡部はポツリと呟いた。驚きが消えていないが、それでも岡部は笑っていた。
「オカリン…」
「大丈夫だ。後の事は2人に任せよう」
マシンが完全に消え去ると同時に、世界はゆっくりと歪みだした。