STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「結局、オカリンさんを目覚めさせることはできなかったね…」
かがりはがっくりと肩を落としている。
ふたりは8月21日へと跳んだ。狙いは空白の1分間。岡部が紅莉栖救出のために過去へと跳んだ、神の目のいない瞬間だ。観測者がいない世界。そこならば、過去を…未来を変えられるはずだった。
だが、ふたりの声は届かなかった。
「そうだな。でも、きっとこれも無駄じゃない」
それでも、ふたりは決して諦めなかった。
「諦めなければ、いつかはきっと、シュタインズゲートに辿り着ける。そこなら、こんな風にお前と過去になんて跳ばなくて良くて、もっと違う出会い方が出来るはずだ」
かがりの中に、シュタインズゲートを目指すことへの、迷いはもうない。母娘ではなくなったとしても、椎名まゆりと必ず出会うのだ。鈴羽とも出会う。
そんな夢のような世界こそが、シュタインズゲートなのだから。
「そのときはまた、おねーちゃんになってもらうからね」
「…ふ。もちろんだ」
2010年8月21日に跳んだことで、タイムマシンの燃料は切れた。厳密には、ほんの少しだけ残っていたが、もう一度安全にジャンプすることはできない量だった。だからふたりはタイムマシンを解体した。
2010年に留まることを決めたのだ。
「これから、どうするの?」
タイムパラドックスを引き起こしかねない部品は処分したが、それ以外のパーツは売って金に換えた。当面の生活費にも困らない。
「次の目的は来年の1月2日だ。その日なら、この世界線を変えられるはずなんだ」
2011年1月2日。
この世界線に岡部がリーディングシュタイナーで移動してきたのは、1月15日のことだった。それよりも前、ということになる。
「1月1日にラボが襲われたことは覚えてるか?お前は連れ去られそうになった…」
「うん」
「その翌日。オカリンおじさんは店長……天王寺裕吾に何も話さなかった」
「確かオカリンさんは、誰がラボを襲って来たのか聞かれてたんだよね?」
「ああ。でも、その前の世界線では、全てを話したらしい。タイムマシンの事も全て。その結果、店長はSERNに全てを報告した。そして、『Amadeus』から電話がかかってきて、おじさんはそれに出た。そのことで、SERNがタイムマシンを開発する未来が確定してしまった。α世界線へと変動したんだ」
「紅莉栖さんが生きていて…ママが死んじゃう世界線……」
「だから、あたしたちはそうならないように、この世界線のおじさんを導く必要がある」
「違う行動を取らせる、ってことだよね?」
「そうだ。店長に何も話さなければ、この世界線が維持される。話した上で電話に出た場合はα世界線へと飛ばされる」
「じゃあ、話した上で、電話に出ない……」
「そう。そうすることで、新たな世界線へと繋がるはずだ」
「どんな世界線になるかは……」
「うん。分からない」
ある程度の予想は立てた。
SERNの介入によって、かがりを狙う連中のパワーバランスを崩すこと。そして、岡部たちが『Amadeus』に干渉しやすい世界にすること。それがこのミッションの目的だ。
どうなるかは予想の範疇を超えないが、これに賭けてみる価値はある。
「時を見て、一度この世界線のオカリンおじさんにコンタクトを取ってみよう」
1月2日以前の岡部は、まだ前の世界線から移動してきていない、何も知らない岡部だ。鈴羽たちがコンタクトすることで、混乱するのは必至だろう。
「具体的にどうするかはこれから考える」
かがりは頷いた。
「…………」
「おねーちゃん…」
「うん、どうした?」
「これからふたりきりの生活だね」
「ああ。そうだな」
「………よろしくね」
「まったく……手のかかる妹だな。お前は」
「えへへ…」
ふたりは手を取り合った。そして固く結ぶ。
「楽しくなりそうだな、かがり」
これにて、番外編、相互再帰のマザーグースは終了となります。
これから、ここまでの解説と考察のパートに入ります。
もう少しだけお付き合いください。