STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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2010年3月28日(日)

 

 

「“魂” は神が人間に与え賜うたものである。そう考える人たちが多きことを忘れないで」

 

紅莉栖の顔が分かりやすく曇るのが分かった。

 

真帆と紅莉栖は研究所内では異端扱いだ。日本人であり、また女性である。それに、飛び級でこの位置まで来た。アメリカでは飛び級くらい珍しいものではないが、集団心理、というものは確かにあるのだ。

 

「ま、しばらく日本でリフレッシュしてくることね」

 

「それが納得いきません」

 

「どうして?向こうの生活も楽しいと思うけれど」

 

「留学するなら大学院ですよ。なんで高校なんですか?」

 

「仕方ないでしょう?日本では年齢的にあなたはまだ高校生なんだから」

 

紅莉栖はまだ17歳。真帆もまだ20歳とじゅうぶん若いが、それでもこの年代の3歳差は大きなものだ。精神年齢だってかなり違ってくる。それでも、こうして仲良くなれたのは、同じ日本人であり、肩身の狭い思いをしているという共通点があることが理由だった。

 

だが、紅莉栖としては、真帆と同じ年齢だったら、と思う。日本に飛び級の概念がないことが憎らしい。今20歳であれば、望み通り大学に留学する事ができたのに。

 

「教授の思いやりは、素直に受けておきなさいな」

 

というのも、やはりこの研究所の殺伐とした空気に押しつぶされてしまわないように、というレスキネンの優しさから、紅莉栖は留学することになった。菖蒲院女子学園という高校。制服はそれなりに可愛いため、絶対に嫌、というわけでもなかったりするのだが。

 

「それに、もともと7月になったら日本に行かなくちゃいけなかったんだから、ちょうどいいじゃない」

 

「はい。実はそれも憂鬱で…」

 

「アキハバラ・テクノフォーラム……だったかしら?」

 

「講演なんて慣れてないし、なにをどうしていいのか」

 

「サイエンス誌に論文が載った以上、これからもどんどん増えるわよ。練習しておかないとね」

 

「………やだな」

 

その気持ちは理解できる。大勢の人の前で何かをする、というのは真帆も苦手なのだ。だが、他者を蹴落として手に入れた栄誉に対する責務なのだ。嫉妬されるのも当然。

 

真帆だって、紅莉栖に対してそんな気持ちがないと言えば嘘になる。

それほどまでに、目の前にいる才女はあまりにも真帆とは違い過ぎた。どれだけ手を伸ばしても届かない存在。一瞬で自分を追い抜いていく存在。

 

天才。

 

誰よりも努力を重ねている紅莉栖を、安易にそう呼ぶのは憚られる。だが、天才なのだからしょうがない。

 

自分も、紅莉栖が研究所に入って来るまでは、天才だともてはやされたこともあった。それに胡坐をかいたことは一度だってない。だが、自分では敵わない存在を前にして、かつての栄光を取り戻したいと思う程には、その言葉に執着している自分を知っている。

 

自分の性格がひねくれているのだ、と真帆は自己嫌悪に陥っていた。

 

「…先輩?」

 

「え、ええと……日本でお父さんには会うの?」

 

「実は、父から招待状が届いたんですよ」

 

そう言う紅莉栖の顔はとても嬉しそうだった。

 

「夏頃、新しい理論の発表会をするそうです。それを見に行こうかと思ってます」

 

「新しい理論って?」

 

「えっと…」

 

その笑顔が少しだけ困った様子に変わった。

 

「まだ詳しくは聞いてないんですよね。相対性理論に関する事らしんですけど」

 

その理由は分からなかったが、歯切れが悪い事に真帆は触れなかった。

 

「ふーん。ま、とにかく気を付けて行ってきなさい。おみやげ、期待してるから」

 

「なにがいいですか?」

 

「そうね。せっかくアキハバラに行くのだから、なにか珍しいものがいいわ。——アキハバラ、詳しいんでしょ?」

 

「え、どうしてです?」

 

「休憩時間によくそういうサイトを見てるじゃない」

 

「なっ…まさか『Amadeus』が喋ったんですか?」

 

「あの子がそんなことしないわ。あなた、私が後ろにいるのに、動画に夢中になってて気づかないことがあるわよ?」

「はううっ!まさかバレていたなんて……自分の迂闊さが憎い…」

 

珍しい事に紅莉栖が頭を抱えている。

 

「先輩。お願いです。どうかそのことは他の人には内密に……」

 

「別に隠すことでもないと思うけれど……」

 

あの紅莉栖にも、こうしてうろたえるようなことがあるのだと知って、嬉しくなった。

 

「分かった分かった。誰にも言わないでおくわ」

 

秘密を共有することで、遠く離れた追い付けない存在から少しだけ近づけたような気がした。

 

「助かります……」

 

安堵した顔を見せる紅莉栖に、真帆はそう思った。

 

「ねえ、紅莉栖。日本から帰ってきたら、『Amadeus』がひとりごとをつぶやけるかどうか、ふたりで検証してみましょうか」

 

「え……は、はいっ!」

 

心底嬉しそうに応えてくれた。

 

ふたりで研究する、ということに喜びを見出してくれる可愛げを持ち合わせているのだ。その才能に嫉妬しつつも、頼ってくる後輩には、頼もしい存在でいてやるのが先輩のつとめなのだから。

 

だが、しかし。真帆と紅莉栖。ふたりの交わした約束は、結局果たされることはなかった。

 

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