STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「私、紅莉栖のことになると、ついムキになってしまうの。彼女のこと、本当に好きだったのね」
「俺も、だよ」
「ええ。あたなのことを見ていれば、分かるわ」
「………」
「………」
俺たちの間に、重い沈黙が満ちる。
何か言わないと……と焦燥感にかられていると、さいわいなことにレスキネン教授が戻ってきてくれた。
「2人とも、よかったらこれから食事でもどうかな?」
俺と真帆はうなずき、ソファから立ち上がった。
「岡部さん。また、こちらでの紅莉栖の話を聞かせてくれる?」
「ああ、いつでも」
俺はかろうじて真帆に笑みを返すことができた。
ディナーの後、俺たちは恐ろしい事件に巻き込まれた。
なぜか高級車——本人曰く、国産車ではない海外の、スポーツカーっぽく見えるステーションワゴン——で迎えに来た井崎の車が襲撃されたのだ。
車に乗り込んだところで、カシュッという音が聞こえた。その直後、車の窓ガラスが粉々に砕け散った。銃撃。犯人を見つけると、手に握られていたのは変な形をした小さな拳銃。サイレンサーのようなものはついていなかった。
どこかで見たことのあるような男だった。その男は意味の分からない言葉をつぶやいていた。
『……つまずきを与えるこの世は忌まわしい。もちろんつまずきが起こることは避けられないが、つまずきをもたらす者こそが忌まわしいのだ……』
『もし、お前の手か足のひとつがお前をつまずかせるなら、それを切って捨てるがいい』
『両手両足そろっていて永遠の火に投げ入れられるよりも、それは、お前にとって間違いなく幸せなのだから』
『また、もしお前の片方の目がお前をつまずかせるなら、それをえぐり出して捨ててしまうがいい』
『たとえ片目であろうとも、ヒンノムの谷の炎に投げ入れられるより、ずっと幸いに違いないのだ』
意味は分からなかったが、異様な迫力と狂気を身にまとっていた。
唯一理解できたのは——。
『神の与えし魂とは、神の子である我々にこそ宿る……決してシリコンの上には宿らない』
というものだけだった。
後になって考えてみると、これは『Amadeus』のことを言っているのだと分かった。
こいつは、ATFのセミナーで批判的な意見を投げつけた男だった。俺が、“異議”を出した相手だった。そいつはどうやら、人工知能……人間に近い何かを嫌悪しているようだった。
その男が襲い掛かってきたことで、車の持ち主である井崎は我先にと逃げ出した。
それに男が気を取られているうちに、俺たちは井崎の車で逃走を図った。男は逃走する俺たちの車にも八方を繰り返してきた。そのうちの一発が俺の側頭部をかすめていた。だが、それでも逃げるのをやめない俺たちを見て、男はセダン車に乗り込み、追いかけてきた。
逃走中にスピンして止まってしまった俺たちの車に、男はノーブーレーキで突っ込んできた。すんでのところで俺たちは車から脱出したが、男はものすごい衝撃でぶつかり、二台の車はぺしゃんこになっていた。
男の身体もぐちゃぐちゃだった。
近寄ってきた警備員に頼んで警察に通報してもらっていた。俺の傷の手当てをしていると、ちょうど警察が到着した。
そのとき、死んだはずの男が車から這い出て来た。怨嗟の言葉を口にしながら、レスキネン教授に銃を向けた。
男の全身からは血が流れ、出てはいけないものが体内から出ている。まるでゾンビのような様相だ。
男が発砲するかというタイミングで——。
さきほどまでとは違う発砲音とともに、男の頭からパッと鮮血が舞い、体がはじかれるように跳ね飛ばされた。
そのまま男は倒れ、もう二度と動かなかった。
俺たちは絶句していた。
男が自分で撃ったわけではない。誰が撃ったのかとあたりを見回す。警官が近寄って来るが、彼らは拳銃を抜いていない。その他にも銃をもっていそうな人はいない。
謎は何も解決しないまま、俺たちは警察に保護された。
日が上ってきそうになった頃に俺たちはようやく解放された。