STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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2010年12月18日(土)

 

 

夜。秋葉原の街。

 

「具合悪いのか……あたし」

 

立っていられないほどの眩暈に襲われた鈴羽は、あれこれと考えていた。

 

岡部の言うリーディングシュタイナーの能力が自分にも発現したのではないか、など。冷静であれば考えないようなことまで考えていた。ぐにゃぐにゃと景色が歪んで見えたのだ。

 

実のところ、熱が出ていただけだった。

 

 

 

ふらつく体に鞭を打って、なんとかラボに帰還する。

 

未来では、大怪我を負って昏睡状態になるような経験は幾度もしてきた。だが、タイムトラベラーとなってから——この時代に来てからは、こうした状態になるのははじめてだった。

 

二階に明かりが灯っていることを確認して、父がいることに安心した。

 

靴を脱ごうとしてもたついてしまい、転倒してしまった。

 

「痛ったぁ……」

 

それに気づいた至が驚いた様子で駆け寄ってくる。

 

「鈴羽!どうしたん!?」

 

鈴羽は大丈夫と言って立ち上がろうとするも、またふらついて至の腕に寄りかかってしまう。

 

「だ、大丈夫か鈴羽!?」

 

その後ろから声が聞こえてくる。

 

「え、スズさん体調悪いの?」

 

まゆりの声だ。そしてそれに遅れて——。

 

「鈴羽さん?平気ですか?」

 

阿万音由季——母の声がした。

 

声がしてからようやく二人の存在に気づいた。油断した、と心の中で舌打ちをする。

 

もう会ってしまっているので今更なのだが、できることなら由季にはあまり会いたくない。いつボロが出るか分かったものではないからだ。だが、そんな鈴羽の事情など知らない由季は、ずんずんと鈴羽に近づいてきた。

 

「鈴羽さん。おでこ、貸してください」

 

由季は前髪をかきあげて自分のおでこを出すと、鈴羽のそれにピタリとあてがった。

 

「あ………」

 

鈴羽は戸惑いを隠せなかった。

 

遠い記憶。母にこういうふうにされた覚えがある。

 

「ひどい熱。大変だわ!」

 

それに反応して至がごつい手を鈴羽の頬に当てる。

 

「うぉっ!ほんとだ!」

 

「風邪、かなぁ」

 

まゆりまで心配そうに顔を覗き込んでくる。

 

「あぁ、平気平気。こんなのすぐに治るから」

 

適当にあしらおうとした鈴羽を、至がものすごい剣幕で見つめてくる。

 

「ちょ、無理すんなって!今すぐ横になるべきだろ、常考」

 

さすがに従わないとと思い、鈴羽はなんとかソファまでたどり着き、横になって目を閉じた。

 

「まゆしぃ、濡れタオルもってくるね!」

 

「橋田さん。鈴羽さんの着替えは?」

 

「えと、こっち。みんなこの中に。あ、もちろんボク、中を漁ってハァハァくんかくんかとかしてないから」

 

「………くだらないこと言ってると、風邪のウイルスを伝染させてやるよ、兄さん?」

 

目を閉じたままの鈴羽の睨みに、至は体をすくませた。

 

「あの、適当に選んで着替えさせてあげても?」

 

「頼むよ。ボクじゃそういうわけにもいかないから」

 

至と由季の会話をぼんやりと聞いていると、額に冷たいタオルが乗せられた。

 

「スズさん、どう?」

 

「……悪いね。まゆねえさん」

 

「気にしないで」

 

まゆりが優しく微笑んでいるのがなんとなく分かった。

 

「ボク、ちょっと風邪薬買ってくるからしばらくヨロ!」

 

 

 

 

なんとか鈴羽を着替えさせようとする由季にあらがいつつ、結局は押し切られて服を脱がされた。

 

ぐっしょりとかいた汗も強引に拭き取られてしまう。体に力の入らない鈴羽はされるがままだった。

 

由季が——母がこんなにも近くにいることで心が落ち着かない。

 

もちろん嫌いじゃない。大好きだった。未来で死別してしまった母に会えるのはうれしい。だが、それが同時に怖かった。

 

 

——この時代になじんでしまうことが。

 

 

 

水面下でタイムマシン論文を巡る争いは繰り広げられているだろう。だが、それがまだ表にまでは出てきていない。この時代は平和だ。常に銃を持って歩いているほうが怪しまれてしまう。

 

来たばかりの頃は生きにくさを感じていた鈴羽だったが、今ではもう慣れてしまった。

 

岡部とはあんなふうになってしまった。だが、何も事情を知らなかった至やまゆりは自分にとてもよくしてくれる。

 

年齢も同じ——まゆりに至っては年下であるにも関わらず、しっかりと父親として、姉として自分に接してくれる。とても居心地がよかった。

 

それが怖い。

 

至れり尽くせりで着替えさせられた鈴羽は、再びソファに寝かされていた。まゆりと由季がおかゆを作ってくれているのだ。

 

この二人との会話はどうもやりにくい。至になら遠慮なしになんでも言えるのだが。この二人には強く出られない。こちらから甘えれば、絶対に甘やかしてくれるという確信があるからだろう。甘えないように、弱さを見せないようにと思えば思うほど、空回りしてしまう。

 

「二人とも、優しいな……」

 

結局言われた通りにしてしまっているじゃないか。

 

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