STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「たたいまだおー!」
ドラッグストアから至が帰って来た。ちらりと目をやると、冬だというのに汗だくだ。
「はぁ、ふ、ひぃ、疲れたー」
かなり息切れしている。わざわざ走って行ってきたらしい。
「………」
普段から運動しないからその程度でバテてしまうんだ、と内心呆れた。
けど…そんな父の息切れしている様子が嬉しいことに気づいて、あわててかぶりを振った。
至は二人といくらか話すと、鈴羽のもとへと寄って来た。
「具合はどうなん?」
「……良くない」
「やっぱ疲れがたまってたんだなぁ。鈴羽が休んでるとこ見たことないし」
心配そうに鈴羽の顔をのぞき込む至。
「……我ながら情けないよ」
普段、ふざけてばかりの至が、父親の顔に急変わりする。ごまかすように自嘲気味にそう言った。
「ほら。薬買ってきたから、後でちゃんと飲むんだぞ」
自分と同い年なのに、こうして父親としての役目をさせてしまっている罪悪感に胸がチクりと痛む。だからだろう。こんなことを口走ってしまったのは。
「あたし…ここにいない方がいいかもしれない」
「ええ?」
「どこかで気が緩んでたんだ。父さんがいて、まゆねえさんがいて、ルミねえさんがいて、るかにいさんがいて……いつの間にか母さんまで……」
至は黙ったままだ。
「そのせいで、時々任務を忘れそうになる。なんだか、この温かい時間がいつまでも続くんじゃないかって、錯覚しそうになったり…。このまま戦争なんて起きないんじゃないかって、ふと考えてしまったり…。普通の女の子と同じような暮らしに……憧れてしまいそうになったり……」
一度口に出すと止まらなくなる。使命の仮面を被って、気を強く持って戦ってきた。だが、そんな鈴羽を受け入れてくれるこの温かい空間が、まるで罠に誘う悪魔のように、鈴羽を堕落させる。仮面を外してしまいたくなる。
「それのどこが悪いって言うん?」
そう答えた至は、先ほどから見せる父親としての顔よりも、さらに凛々しくまっすぐに、鈴羽の目を見ていた。
「ここを出て、どこへ行くつもりなんだよ?」
「それは、マシンの中とか……」
強いまなざしにおもわずたじろいでしまう。
「あんな所に、ずっといられるわけないだろう?」
「でも……」
「あんな所に……娘をずっと置いておけるわけ、ないだろう?」
「父、さん……」
一瞬、涙ぐみそうになった。それをこらえるため、必死に毛布を内側からギュウっと握りしめる。
と——。
「うぉっと!なんかマジレスしちゃったお」
凛々しい父親の顔から一転、ダメな橋田至の顔に戻った。
「とにかく、ボクは可愛い子と一緒にいられるのが嬉しくて、こっそりハァハァしたりクンカクンカしたりするのが楽しみなのだぜ。特に、風邪で汗まみれになってる女の子は大好物です」
「う……やめて」
鈴羽の反応を見て、至はにやけた顔を引き締める。
「だったら早く治すといいお。ボクにハスハスされるのがイヤだったらね」
「………分かったよ」
こうまで言われては引き下がるしかない。
「お?もしかして今のボクの言葉でトラウマ解消しちゃった?好感度アップ?」
頼もしい父の姿にうるっときたとたんにこれだ。
「バカなこと言ってると、治ってからひどい目に遭わせるよ」
「ブーツ履いて、ゴリゴリ踏んづけるとかそういう?」
なぜそう言いつつ嬉しそうなのだ…。
「指とツメの間にいろいろ刺す」
「それだけはマジで勘弁してくださいスミマセン………」
そんな話をしていると、キッチンの方からいい匂いが漂ってきた。おかゆができたのだろう。
「な、鈴羽。前は聞こうと思って、タイミングを逃しちゃったけど、そろそろ教えてくんないかな?毎日、何をしに出かけてるん?」
「………」
「まさか……おとk———いや。ボクにも手伝えること、あるかもしんないし」
言い切らなかったのでここは見逃すことにした。
「……あとで。2人きりになったら話すよ」
「あ、うん。それでもいいけど…」
「……まゆねえさんには、聞かせられない話なんだ」
「え?」
そう、かがりの件は、まゆり本人にはとてもじゃないが伝えられることではないのだ。