STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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「……………」

 

日本にやって来てから、こうして紅莉栖のことを思い出す機会がますます増えた気がする。

 

その理由が日本に来たからなのか、あるいは『Amadeus』の“紅莉栖”と話すことが多くなったからなのか。いや、そうではない。岡部倫太郎——亡くなる前の紅莉栖を知る、あの青年と出会ったからだ。

 

「私の知らない紅莉栖を知っている人、か……」

 

思えば、はじめて会った日に、彼の前で涙をこぼしてしまっていた。恥ずかしくはあったが、彼はそれを茶化すことなく、我が身の事のように受け止めてくれていた、と思う。

 

彼には、言葉では言い表せない何かを感じている。哀愁、というのも適切ではないかもしれない。紅莉栖を亡くした悲しみ?いや、それ以上の何かが彼にはある。

 

(紅莉栖の死の真相を、何か知っているのかしら…)

 

詳しい情報は何も教えてもらえなかった。彼に近づけば、何かを知れるのではないか。そんな打算が自分の中にあることに、自己嫌悪に陥ってしまいそうだった。

 

 

『さては岡部さんのことを考えていましたね?』

 

「…っ⁉」

 

ギクリとしてPCモニタを見た。

 

『フフフ』

 

真帆はちょうど、“紅莉栖”と対話中なのだった。

 

「え、ええ…そうね」

 

真帆は肩を竦め、“紅莉栖”のいたずらげな笑みを受け流した。ムキになって否定する方が面倒なのだ。

 

「不思議だと思わない?レスキネン教授が、岡部さんのことをあそこまで買っているなんて。二度しか会った事のない相手なのに、あなたのアクセス権も渡してしまったし。あそこまで信用していいのかしら?」

 

先程まで考えていたこととは裏腹に、研究者としての真帆は、岡部という青年に対しては懐疑的だった。

 

『誠実そうな人でしたが』

 

「そう?向上心があるのかないのか、少しつかみどころのない人だったわ」

 

『好きなんですか?』

 

「はぁ……」

 

二言目にはこれだ。

 

『別に、取り繕う必要はないでしょう?昨日は本人の目の前だったから仕方ないにしても、今は私たち2人きりですし』

 

紅莉栖は堅そうに見えて、こういたゴシップ……というよりもガールズトークが好きなのだ。昨日、岡部を交えて話していた時にも、たびたびそんな話を振ってきた。

 

岡部には、スイーツ(笑)、とか、恋愛脳のお花畑、とか言われていた。その言葉の意味は分からなかったが、岡部と紅莉栖の間では通じ合っているようだった。岡部も秋葉原界隈に生活圏があると言っていたし、秋葉原に詳しい紅莉栖とは分かり合えるのかもしれない。

 

「本当にそんな感情はないわ。岡部さんがどんな人なのかさえ、まだ良く分かっていないのだし」

 

『なるほど、まあそうでしょうね』

 

“紅莉栖”はあっさり納得した。いちいちからかわれるのも面倒だが、この反応は反応で、少し釈然としないものがあった。

 

「気になるのはそれよりも——」

 

『なんです?』

 

「……いえ、なんでもないわ」

 

昨日からずっと考えていたことがある。それは、岡部と紅莉栖の関係だ。紅莉栖は死までの日々を、どんなことを思いながら過ごしていたのだろう。それを岡部に訊いてみたいところだ。

 

『先輩。私のオリジナルと岡部さんは、知り合いだったんですか?』

 

まるで心を見透かされたような気がして、ハッとした。

 

「……どうして分かったの?」

 

『岡部さんの話や、先輩の反応などを聞いて、判断しました。状況証拠を積み上げただけですが、証明しましょうか?』

 

げんなりする物言いだ。どこまでも研究者脳だと思う。

 

「別にいいわ。あなたのことだから、反証の余地もないでしょうし」

 

『…相手だけが一方的に“私”との記憶を持っているのでは、対話に齟齬が出てしまう可能性が高いです』

 

それは確かにそうだ。事前に共有できる情報ならば、必ず共有しておくのだが。岡部については真帆もほとんど何も知らない。

 

「彼と話していく上で、どうするのかはあなたに任せる。岡部さんの方から切り出してくるかもしれないし、なんならあなたから聞いてみてもいいわ」

 

そもそも、岡部自身がアクセスしてくるかも分からないのだ。対話を強制しているわけでもない。

 

『ふむん。知らないフリをする、というのは嘘をついているのと同じことになりますよね。興味深いデータが取れそうな気がします』

 

「………」

 

確かに、興味深いと真帆も考えている。だがそれは、『Amadeus』を研究している側の意見だ。

 

だが、彼にとってはどうだろう。おそらく、彼は胸の奥にとんでもなく深い傷を抱いている。自分がそれを知りたいという打算を持っていることを認めたばかりだが、さすがにその傷に塩を塗る行為には忌避感がある。

 

「やっぱり、日本に来たせいかもしれないわね…」

 

自分の中でも整理がついていないのに、他人の気持ちに土足で踏み込んでもいいものか。来日したら、献花に行こうと考えていたのに、1週間が経ってもまだ、紅莉栖が亡くなった場所にも行けていない。

 

——ラジオ会館に。

 

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