STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
『今日、これから真帆先輩をディナーに誘いなさい』
「………は?」
俺と同時に、真帆までもが目を丸くした
「ちょっと“紅莉栖”!何を言い出すかと思えば!」
『今日は何の日か、ご存じないんですか、先輩』
「……クリスマスイヴ」
『そういうことです』
「どういうことよ!」
『さあ岡部さん。条件を飲むの?飲まないの?』
こいつ、なんでそんなに目をキラキラさせているんだ。本当に人工知能なのか?
「お前、相変わらずスイーツ(笑)だな…」
『だ、誰が脳内お花畑だ!』
「あ、あなたたちって、たまによくわからない言語で話すわよね……流行りなの?」
「これは@ちゃ——」
『知らない知らなーい!それより岡部さん!条件を飲むの⁉』
こいつ、知られたくないからって打ち切りやがった。ネラーであることくらい、知られても問題なさそうなのに。
真帆はそういうのに疎いだろうから、ドン引きされることもないだろう。
「…分かったよ。比屋定さん。さっき話したパーティ、正式に招待させてもらうよ」
『パーティ?』
「ああ。友達とクリスマスパーティを開くんだ。さっき誘ってみたんだが、断られてしまって…」
『そうじゃないでしょうが……。いや、でもいきなり二人きりだとハードル高いし、逆にいいか…』
「“紅莉栖”、それ以上からかうと怒るわよ。私はパーティなんて行かないわ」
『だったら、私も岡部さんを許しませんが?』
「ひ、比屋定さん!頼む!」
「どうしてこんな話になっているのよ……」
『先輩のために気を利かせてあげてるんじゃないですか』
「あなたねぇ…。そもそも、今日はこのあと教授が帰って来るのを待って、研究の報告をしないといけないし——」
真帆が断る理由を必死に探していると——。
「やぁ、リンターロ!マホ!何の話かな?」
絶妙のタイミングで、レスキネン教授が帰って来た。真帆は勝ち誇った顔をした。自分の机の上のファイルを開こうと手を伸ばす。
「おかえりなさい教授。これが今日、集計したデータなんですが——」
そこで教授が話を遮った。
「マホ、ストップ。2人とも今日は出かけないかい?せっかくのクリスマスイヴだ。仕事はもう終わりにして、食事でも行こう。それとも先約があるのかな?」
真帆の顔が絶望に変わった。
『教授、ナイス!』
“紅莉栖”が画面の中で親指をぐっと立ててサムズアップをした。
「“クリス”…どうしたんだい?」
これは好機だ。
「ええと、教授?俺の友達がクリスマスパーティを開くんですが、よかったらご一緒に——」
俺が言い終わるのが早いか、教授は飛び上がる。
「素晴らしい!ぜひ参加させてもらおう!」
即答だった。
「もちろん、マホも行くだろう?」
断るも自由だが、教授の子供のように嬉しそうな顔とキラキラした目。
「………はい」
真帆に断れる勇気はなかった。
『決まりですね?』
「まったく……」
“紅莉栖”が俺に向けていたずらげな笑みを向けてくれた。
許して、もらえたのだろう。
『ねぇ、岡部』
「っ!?」
急にその呼び方をされてハッとしてしまった。
『私なんかに、本気で謝ってくれてサンクス。嬉しかった』
「あ、いや…」
『気が向いたら、またいつでも話しかけてきて。暇つぶしぐらいには付き合うから』
「気が向いたら、な…」
『ええ。それじゃあ、また。真帆先輩をよろしく』
「“紅莉栖”‼」
“紅莉栖”は微笑むと、画面から消えた。
「満足したかしら…?」
真帆が俺を睨みつけながらそう言った。
「あぁ…ありがとう」
思った以上にホッとしている自分がいる。やっぱり俺は……心底、牧瀬紅莉栖という人のことを、好きだったんだな……と痛感させられた。
「でも、人工知能に謝るのは、そんなに変か?俺の友達——この前、メイクイーンで紹介したあいつなんか、いつも二次元の女の子に土下座してるぞ?」
「そ、そういう精神性は、私にはちょっと…」
たとえが悪かったか。
「と、とにかく、比屋定さんのおかげで助かった」
「“紅莉栖”の交換条件なんか、律義に守る必要はないわよ」
「まぁでも、教授も行く気満々みたいだし」
俺の言葉に、教授はにこやかに白い歯を見せた。
「それに、“紅莉栖”と、約束したからさ」
真帆は呆れたような、それでいてすこしだけ嬉しそうな顔で——。
「あなた、本当に変わっているわ」