STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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ラジオ会館、屋上

 

鈴羽はあの日のことを思い出していた。

 

1998年.

 

 

『……ダメなんだよ、鈴羽おねーちゃん。そんなことしちゃ、いけないんだ。世界を変えちゃいけないんだ!おねーちゃんはおかしいコト言ってる!この世界を消すなんてダメだよっ!絶対にやらせないからっ!』

 

 

そう言ってかがりは、銃の引き金を引いた。

 

 

 

「かがり…」

 

タイムマシンの内部に刻まれた銃創。それを指でなぞる。

 

あれがかがりと話した最後だった。それっきり、見つけられていない。どうしてあんなことになってしまったのだろうか。

 

「鈴羽?どしたん、ボーッとして?もしかして、まだ体調悪い?」

 

「え?」

 

至の声で我に返る。鈴羽の顔を覗き込み、手に持ったボトルを差し出してきている。

 

「ああ。ごめん…大丈夫」

 

ボトルを受け取る。

 

「…………」

 

だが、至は不満そうな顔をしている。体調が悪いのを隠しているとでも思っているのだろう。だがあんなにも休んでいたのだ。問題ない。だがきっと、何を言っても心配させてしまうだろう。

 

至は…鈴羽の父はそういう人なのだ。

 

寒風吹きすさぶラジオ会館の屋上。ライトに照らされながらタイムマシンの背面、動力部分に頭を突っ込んでメンテナンスをしている鈴羽のまわりを、さっきから至がウロチョロしている。

 

タイムパラドックスを考慮して、普段は絶対に至をタイムマシンには近づけさせないのだが、今日はどうしても一緒に付いて来るといって押し切られてしまった。

 

 

『病み上がりの娘を心配しない親はいないっつーの!』

 

 

そんなふうに言われれば弱い。この時代の至は、まだ親としての自覚もないだろうに。ふとしたときに見せる父親としての顔にドキッとさせられる。

 

「なぁ。時空間の転移とか重力制御とか、ヤバそうな装置は絶対にいじらないからさ、ボクにも手伝わせてくんない?」

 

「…駄目」

 

「機械のメンテなら、たぶん鈴羽よりボクの方が詳しいのだぜ?」

 

「それは分かってる。けど駄目」

 

「うう…」

 

背中越しに、至がしょんぼりしているのが分かるが、鈴羽は相手にしなかった。

 

「なぁ鈴羽―?今日はもう暗いしさ、寒いしさ、続きは明日にするべきだって。そろそろ帰ろう?」

 

「父さん一人で帰ればいい。あたしはまだやることがあるから」

 

かがりを探すつもりだろう。至としては、岡部にも協力してもらえることになったのだから、鈴羽一人でそこまで無理をしないでほしいのだ。

 

「かがりたんの捜索は、もっと体調がよくなってからにすべき」

 

その言葉に反応して、鈴羽がムスッとした顔になる。

 

「かがりのこと、オカリンおじさんに勝手に言ったでしょ。あたしにも相談くらいしてほしかった…」

 

「うっ……」

 

かがり捜索の人手は多いに越したことはないが、岡部との微妙な関係が続いている中、これでまたタイムマシンに乗ってくれと頼み辛くなってしまった。自分を思ってのことだろうから、鈴羽もこれ以上は強く言わないが。

 

「つーか、さっきからずいぶん苦戦してね?」

 

「締めにくい角度にボルトがあるんだ」

 

「どれ?ボクが代わるお。それくらいならいいっしょ?」

 

「…うん」

 

鈴羽は動力ユニットから頭を出す。

 

「顔中、油だらけじゃん。せっかくの美人が台無しだ」

 

「…そういうことは母さんに言ってあげなよ」

 

「それは、ハードル高すぎ…」

 

至は機械と機械の間に顔を入れ、中を調べ始めた。

 

 

 

 

このタイムマシンはメンテナンスのことをあまり考慮に入れていない。そのことに文句を言いつつ、楽しそうに作業をする至の背中を鈴羽はじっと見つめていた。

 

子供の頃を思い出す。鈴羽は父がタイムマシンを作っているのを眺めているのが大好きだった。懐かしい気持ちになる。だからだろうか。つい、隠していた本音がこぼれたのは。

 

「……父さん?」

 

「うん?どしたん?」

 

「あたし……最近、なんだか、自分でも自分が理解できなくなってきてさ……。その、こんなこと考えるなんて…おかしいんだけど……。この世界をなくしてしまって、本当にいいのかなって」

 

脳裏に浮かぶのは、かがりの言葉だ。——この世界を消すなんてダメ。

 

あの時の少女の目が、どこからかずっと睨んでいるような、そんな感覚がずっと付きまとっている。

 

「あたしのミッションが成功するとさ、牧瀬紅莉栖は死なずに、シュタインズゲートへの門が開くんだ」

 

「うん」

 

「そしたら、今のこの世界……父さんも母さんも…まゆねえさんもルミねえさんも、るかにいさんも…オカリンおじさんも。みんなみんな、なかったことになってしまう」

 

「…うん」

 

「今のあたしが、今の父さんに会ったことも……なくなってしまう……」

 

「ん?これって告白シーン?セーブしとくべきとこ?」

 

「…………」

 

無言の圧力。

 

「真面目な話をしてるんだ。今度ふざけたら、蹴るよ?」

 

「フヒヒ。サーセン」

 

そう言いながら至が振り向いた。

 

「…迷っているのか?」

 

「…………」

 

至の顔を直視できない。怒られるんじゃないかと不安になる。

 

「ま……その、なんだ。別にいいんじゃね?」

 

「え?」

 

「“今”が消えても、いいんじゃね?だってこの先、おおぜいの人が死ぬんだろ?そんなのイヤじゃん」

 

「父さん…」

 

「鈴羽はいろいろと考えすぎなんだお。戦争なんてイヤだ、だから世界を変えるんだ——そのくらい単純でいいんと違うん?つーかさ、ボク、戦争なんて行きたくないし。鈴羽と違ってこんな人間だから、戦場なんかに連れて行かれたら3日ももたないね」

 

「だらしないな……幻滅だよ」

 

鈴羽はため息をつくと、そのまま背中を向けて歩き出した。

 

「あれ?どこ行くん?」

 

「顔、洗ってくる。油でべたべただ。……そのボルトを締めたら、カバーも閉じておいてくれる?父さんの言う通り、今日はかがりを捜すのはやめておくよ」

 

「お!それがいいお、一緒に帰ろう!」

 

「……うん」

 

鈴羽の返事に、満面の笑みを見せる至。

 

「父さん」

 

「うん?」

 

「幻滅とか……嘘だから」

 

「お、おう…」

 

「父さんは、銃を持って戦争する人じゃない。未来でもそうだった。いつもいつも、逃げ回るのが仕事」

 

「ええ?未来のボク、ダメ人間すぐる」

 

「けど、それでいいんだ。父さんには“別の戦い”があるし、そのためにあたしたちが付いてるんだから」

 

「鈴羽…」

 

「だから、父さんこそ、変に頑張ろうとしないで…。日本は安全だなんて思い込みは捨てること。この前、オカリンおじさんだって襲われたんだ。いつ、父さんが標的になってもおかしくない。戦争前夜なんだよ。今はね」

 

半月ほど前に何者かが鈴羽とタイムマシンを監視していた。なにか、大きな力が蠢き始めているのは間違いない。

 

「…オーキードーキー」

 

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