STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「だから、めりーくりすますだよ!スズさん!」
「めりーくりすます?」
鈴羽は部屋を見回すも、ピンと来ていない様子だ。パーティなど初めての経験なのだろう。飾りつけや料理、コスプレなどを見ても理解できていない。
「…パーティ?」
「ごめんなさい。びっくりさせようって言い出したの、私なんです…」
鈴羽の腕の中で、由季が申し訳なさそうにそう言った。
由季はようやく鈴羽から離れる。
「鈴羽。えっとこれは、なんつーか、サプライズってやつを演出してみたわけで!みんな決して悪気があったりとかじゃなくって!」
「…………」
今思えば、鈴羽にクラッカーの破裂音はまずかったかもしれない。ラボが銃で襲撃されたと取ったのだろう。
「す、鈴羽…?」
「父さ……兄さんも知ってたの?」
「う、うん」
「そっか。だから今日はなんか変だったんだ」
ダルの不審な挙動を思い出したのだろう。
「ごめんね、スズさん…驚かせちゃって……」
まゆりが心の底から申し訳なさそうな顔を見せる。
「やだな、まゆねえさん。あたし、そんなにいつも怒ってる?」
鈴羽は改めて部屋を見回す。
「ふーん。すごいね。いつものラボとは思えないや」
「でしょう?みんなで飾りつけしたんだよ。えへへ~」
「うん。本当にすごい。きれいだ」
そう言うと、鈴羽は困ったように笑いながら、ゆっくりと後ずさって外へ出て行こうとした。
「ど、どこ行くのっ?」
「え、どこって…まゆねえさんたち、パーティするんでしょう?邪魔しちゃ悪いからさ。もう、兄さんってば、気が利かないよなあ。こんなところにあたしがいても仕方ないじゃないか」
本当に困った顔をしている。自分がいることが、本当に邪魔だと思っているのだろう。
「そんなことないニャ!一緒にパーティしようニャ!」
「え?でも…あたし、こういうのしたことないし……」
「楽しくご飯食べたり、おしゃべりしたりするだけだよ~。だから、ね?」
まゆりは絶対に逃がすまいと、鈴羽の腕に抱き着くように自分の手を絡めた。
「ま、まゆねえさん……」
「ほら。鈴羽の席も、ちゃんと用意できてるのだぜ」
「…けど、本当にどうしたらいいのか………あたし…」
「いいから。座れっつーの」
「スズさ~ん……」
「うぅ……」
促され、半ばまゆりに引っ張られるようにして、鈴羽は俺の隣に着席した。
「………」
鈴羽は気まずそうにしている。テーブルを挟んだ向かい側に由季がいるからだ。由季は気にしていない、という顔で鈴羽に微笑んでいるが、鈴羽は目を逸らしている。
そういえば、さっきの騒動で由季さんが倒れそうになったときに、彼女のつけていたウイッグがずれた。その下から覗いたのは、赤みがかった栗毛色の地毛だった。くせっ毛はダル、髪色は由季さんからの遺伝だと思っていたが、髪色もダルからのものだったようだ。
そんなどうでもいいことを考えていると——。
「はいはい、みニャさ~ん!これで全員揃ったニャ♪」
フェイリスが司会を始める。各々が飲み物をグラスに注いでいる中、鈴羽が困惑した顔で俺を見た。
「おじさん……」
「事情を知らない人がいる前でおじさんはやめろ…」
「っ…ごめん。でも、あたしやっぱり、こういうの向いてないよ…」
「どうして?」
そう言いつつ、俺は鈴羽にグラスを渡し、ノンアルコールのシャンパンを注いであげた。
「だって、遊ぶためにこの時代に来たわけじゃない…」
それについては、俺には何も言う資格はない。鈴羽が足踏みしている理由は、俺がタイムマシンに乗らないからだ。
でも、それでも——。
「たまには、いいんじゃないか?」
「え?」
「鈴羽は考えすぎだっつーの」
ダルが会話に加わってきた。
「みんなとご飯食べるだけだって。どのみちお腹はすいてるっしょ?」
「それは……」
言われて意識したのか、グゥ…と鈴羽のお腹が鳴る。
「ほれみろ。みんなが色々作ってくれたんだから、ありがたくいただけばいいんだって」
「………うん」
さすがは父親だ。鈴羽もしおらしく言うことを聞いた。
と、そこで司会進行がフェイリスから、今日の企画者であるまゆりに移った。始まりのあいさつをしろというご使命だ。想定していなかったのか、まゆりは慌てふためいている。
「まゆりちゃん。落ち着いて」
隣に座るルカ子に励まされている。
「えー、今日はクリスマスイヴなのです」
話し方がぎこちない。今でこそ、まゆりの人見知りも治ってきたが、昔はひどかった。その頃を見ているようだった。
「どこもりあ充さんでいっぱいだけど、今年はまゆしぃたちもパーティをして、りあ充さんになろぉ!」
リア充の意味をはき違えている気がするが、まぁ、クリスマスに友達とパーティをしているヤツは、十分リアルが充実していると言えるだろう。彼氏彼女のいるいないではない。
「えーと、うーんと……とにかく!みんなが楽しんでくれれば、まゆしぃは嬉しいな」
鈴羽が、リア充って何?と聞いてきたが、適当にぼかしておいた。
「終わりです」
締まらない挨拶だったが、これで終わった。
言い終わってからまゆりは鈴羽に向けて微笑みかけた。
鈴羽は、笑顔ともなんともいえない曖昧な表情でそれに応じていた。