STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
まゆりはそれから、3日以上経っても死ぬことはなかった。
萌郁たちラウンダーが襲撃してくることもなかったし、ブラウン管工房の店長もまったく動きを見せずひたすら暇そうにしているだけだった。
俺はその間に、ダルにこの世界線での経緯を聞いていた。
俺がα世界線にいた間も、このβ世界線はなくなってしまっているわけではない。アクティブになっていないだけで、続いてはいるのだ。
やはりことの発端は7月28日。俺が血まみれで横たわる紅莉栖を目撃し、ダルにメールを送ったことから始まる。そのメールは過去に送られるDメールとなり、7月23日にダルのケータイに届いていた。
そしてそのメールも、SERNのエシュロンに傍受されていたのだ。β世界線でも、SERNはタイムマシン研究を続けていた。だが、エシュロンに保管されたデータを精査するのはまだもう少し先のことだったようだ。
俺たちはそんなことはつゆ知らず、電話レンジ(仮)の改良にいそしんでいた。どこから知ったのか、SERNに辿りつき、IBN5100の独自のプログラミング言語が必要なサーバーを発見。俺が柳林神社から見つけてきたIBN5100を使って解読。そこで俺がダルに送ったDメールを発見したらしい。
ビビった俺はそれを即刻削除するようダルに指示し、8月17日。俺がα世界線でエンターキーを押したのと同じタイミングでSERNのサーバーからデータを消したのだそうだ。
β世界線で俺たちがSERNに目を付けられないことは確定している。これはそのつじつま合わせということだろう。どうして柳林神社にIBN5100があったのかは分からないが、そういうふうに収束するのだと適当に納得している。考えてもしかたのないことだ。
その経緯だけ聞き、俺だけが、ぽっかりと心に穴が開いたように、なにをする気力もなく、ただただぼんやりと過ごし続けていた。
「ふう、これで最後だな」
まゆりが死なない、という確信が昨日になってようやく得られた。
「はぁ、もったいねぇなあ。IBN5100は売ればプレミア付くのに」
「それよりね、ラボから電子レンジがなくなっちゃったよー、まゆしぃはもう、ジューシーからあげナンバーワンを食べられないのです……」
「電子レンジくらい、拾ってくればいいだろ」
電話レンジ(仮)は、もういらない。
あのマシンがあったことで、俺は紅莉栖と出会えた。けれど、あのマシンがあったことで、たくさんの人が傷ついたのも事実だ。
…だからもう、あのマシンは使わない。使ってはいけないと思う。
時空を支配した狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真が死んだように。
電話レンジ(仮)にもまた、死んでもらわないと。
『これまでの自分を否定したくないの。たとえ失敗ばかりだったとしても、それを含めて今の自分があるんだから』
Dメールもタイムリープも、人には過ぎた力だ。生きることは本来、やり直しなんてきかないことだから。
これでいいんだ。なぁ、そうだよな紅莉栖——。
『過去にだって今すぐ行けますよ。夜になったら望遠鏡で空をのぞいてみてください。何万年も前の光を見ることができるでしょう』
俺たちは、普段何気なく過ごしていながら、タイムトラベルに近いことをしている。
紅莉栖はそう言っていた。
そんな言葉の一つ一つを。
ゆっくりと、心に刻んでいこう。
これから俺が生きていく中で、決して記憶からこぼれ落ちてしまわないように——。