STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
(1)
世界線変動率
1.129848 → 1.382733
β世界線
2010年12月24日(金)
およそ4か月ぶりに、この世界が歪むような感覚を味わうことになるなんて。
誰だ⁉
いったい誰の手によって、世界線は変動させられた?
俺はなにもしていない。世界に対して干渉なんてしていない。なのに、どうしてまた世界は俺を翻弄するんだ⁉
目を開ける。
大粒の雨が降っている。豪快な水の音も響いている。どこからか大量の水が流れているのだろうか。
空はなぜか赤い。辺りは暗いはずなのに、そのおかげでライトなどなくても周囲が見えている。
どうやら川底らしい。川の水が枯れてむき出しとなった川底にいるらしい。周囲に見える壁は、川の護岸のようだ。
…どうしてこんなところにいるんだ?
「もう少しです。頑張って」
振り向くと、俺と同年代の精悍な顔つきの青年がいた。見たことはない。面識はない……はず。
その青年は自衛隊の迷彩服と装備で身を固めている。肩には自動小銃も担いでいた。周囲にいる7~8人の男たちが全員同じいでたちだった。よく見れば、俺も同じ格好をしている。
…さすがに俺が自衛隊になったわけではないだろう。もしや俺を護衛中?こんな人数に囲まれて護送されるなんて、俺はいつからそんなVIPになったんだ?
俺は自衛隊員に促されるままに歩き続けている。
「ここは…どこなんです?」
雨や水の音にかき消されないよう、半ば叫ぶようにそう尋ねた。
「大きな声を出さないで!」
厳しい声に俺は反射的に謝る。
「あと少しで都心を抜けます。練馬駐屯地の近くまで行けば車が用意されているはずですから、そこまでなんとか歩いてくださ——」
だが、彼の言葉はそこで止まった。全員が、これまで以上の緊張感を全身にまとわせた。
自衛隊員によって俺は護岸の方へ押しやられる。全員が壁に背を押し付け、息を殺した。遠くでヘリのローター音がする。しかも複数。こちらに近づいて来る。
俺を囲んでいた自衛隊のうち、数名が急に別行動をとった。俺たちから離れていき、護岸をひょいと登る。その後すぐに、激しい銃声が聞こえた。
「っ……!」
動悸が激しくなって収まらない。戦闘?銃撃戦?ここは日本だろう?なぜそんなものが起こっている?
だが、その銃撃音に誘われるようにして、ヘリの音もそちらへと遠ざかっていく。
鈴羽の言葉が頭をよぎった。
——第3次世界大戦。
それが現実のものとなったのか?
ふと視線を横に向けると、無造作に計3人の骸が転がっていた。全員がどす黒く固まった血にまみれ、まるで出来の悪いお化け屋敷のマネキン人形のように見えた。
「あ……あ……」
そして気づいた。これまで夢中になって歩いていたため分からなかったが、汚泥のあちらこちらに、似たようなマネキン人形らしきものが沈んでいることに。
「うぐっ…!」
悲鳴を上げそうになるのを手で押さえてこらえた。人の死が、こんなにもたやすく転がっている。
「今ですっ!壁に沿って進んで!」
「あ?」
「ルートを変えます。さぁ、立ってください」
身体をグイっと引き上げられた。あまりにも生々しいショックと疲労とで、膝が笑ってしまう。
「仲間がソ連のヘリ部隊を引きつけてますが、それほど持ちません。…早く!」
言われるがまま、引っ張られるがままに壁沿いを進んでいく。徐々に足にも力が戻って来た。壁沿いに進めば、目的地へとたどり着ける隠し通路のようなものがあるのだろうか。
「……?」
少し余裕を取り戻したことで、先ほどの自衛隊員の言葉に違和感を覚えた。
「ソ連?」
なぜ、ソ連?
1991年にソ連は崩壊したはず。この2010年に、ソ連が存在しているはずがない。
「ソ連ってどういうことですか!?どうしてソ連が存在して——」
「しっかりしてください!あなたを護るために、すでに何人犠牲になったと思ってるんですかっ!」
「俺を…護る?なぜ?」
「理由は聞かされていません。でも、命を懸けて護れと自分は命じられています。それが、この国の未来に繋がるのだと」
「………」
呆然としている俺を、苛立ちを隠そうともしない顔で強引に引っ張る。
「こっちへ」
そこは下水道の出口のようだった。人ひとりがちょうどかがんで歩けるほどの大きさだ。そこを躊躇いなく進んでいく。いくつも分岐があったが、自衛隊員は迷うこともなかった。