STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「ええっと、中瀬克美さん?君には別に聞きたいことがあるんだ」
ここでフブキに質問が移る。
「わ、私?」
「いやいや、そんなに緊張しなくていい。大した事じゃあない」
だが、フブキは明らかに怯え始めた。その態度もおかしい。度が過ぎている。
これまで、順当に保護してくれていたわけではないのだろう。
「先週、中瀬さんに受けてもらった健康診断だが…」
「何か、悪いところでも見つかったんですか?」
「いや、体調には問題がなさそうだ。でも、ストレスがひどいようだね。まぁ無理もない。あれだけひどい空襲を潜り抜けて来たんだ。今やほとんどの民間人にPTSDがあると言ってもいい。ただ、君の場合、他の人とは少し違うようだ」
「違う…って?」
「ときにおかしな夢を見ることがあるとか。ひどいときには…白昼夢、と言うのかな。現実と夢の区別が付かなくなることもあると聞いている」
「だから、それがPTSDってことじゃないんですか?」
フブキが何かを言うより前に、由季さんが遮るように答えた。
…由季さんは下山を信用していない。明らかに敵視している。
「いや、それが実に奇妙な話なんだが…。中瀬さんと非常に良く似た白昼夢を見る人たちがいる。しかも、ひとりやふたりじゃない」
「…え?」
「もちろん程度の差はあるが、国内だけでもすでに十数名ほど見つかっている。どうやら海外にもいるようだ。まぁ、西側諸国の情報しかないがね……」
同じような夢…。
「それってただの偶然じゃ…?」
フブキの怯え方がひどい。だから俺はつい口を出してしまった。
「プーシンを知っているだろう?」
それを契機に下山は再び俺の方を向いて質問してきた。
「プーシン?」
ロシアの大統領だ。だが、この世界線ではロシアではなくソ連のまま。
「ソ連の、書記長…ですよね?」
基地にいるときにそう言っていたのを聞いた。ソ連が存続しているから、大統領ではなく、書記長という肩書に変わっているのだ。
「そう。だが、中瀬さんは興味深いことに、プーシンがロシアの大統領と答えたとか」
なんだって?
「……すみません。なんか寝ぼけてたんです。それに、私、勉強とか全然ダメで…」
「いや、そうじゃない。白昼夢を見る人たちの特徴の一つなんだ。みな一様にそう口にする。プーシン大統領、とね」
「っ……」
「ゴリバチョフやレリツィンのことも大統領と呼ぶ者ばかりだ。そのおかげで、研究者たちは陰で“大統領病”とか読んでるそうだが……センスのないネーミングだな」
まさか、それは…。
リーディングシュタイナー、なのか?
クリスマスパーティのときのフブキの挙動から、彼女のリーディングシュタイナーは疑っていた。程度の差はあるようだが、これでフブキのそれは確実になった。
リーディングシュタイナー保持者を集めている、ということか?ロシアのタイムマシン実験からはじまったこの世界線を、元に戻すために集められている。タイムマシンに関係するダルたちも手に入れようとしている。そういうことだ。
「ゴリバチョフ?レリツィン?」
だが、由季さんはその名前を知らないようだった。
「知らないのかね?世界史の授業でやったことだろう?」
「私、高校時代からずっと理系だったもので…」
「常識だと思っていたが…今の若い子は知らないのか?最近の学生がここまで不勉強だとはね」
今の受け答えから、由季さんはリーディングシュタイナーを持っていない。フブキについては下山ももう確信しているだろう。これは…隠すべきだろう。下山を信用することはできない。自衛隊を、信用することはできない。
「岡部君は知っているだろう。ゴリバチョフやレリツィンくらい?」
「え、ええ…まぁ」
「ベルリンの壁崩壊や、ペレストロイカも?」
「はい。それも教科書で——」
そこまで答えて、自分の愚かさに気づいた。
ソ連が存在しているのなら、ベルリンの壁が崩壊するのか?ペレストロイカなんて実施されるのか?
これは罠だ!
「…ふぅん?君もそうだったのか」
だが、気づいたときにはもう遅かった。
「そしてそれを、故意に隠そうとしたね?」
「………」
「やはり情報通りなんだな。君は何か重大なことを知っている。なぁ、岡部君。教えてほしいんだが」
下山はなぜかいきなり自嘲気味に笑った。気味が悪いくらいの嫌な笑みだった。
「ゴリバチョフ?レリツィン?君たちが口にするそれは、いったい誰なんだ?我々はもちろん、アメリカのあらゆる情報機関にも、そんな人物のデータは存在しないんだ」
存在しない?俺は隣に座る由季さんはの顔を見た。
「………」
その表情から、彼女は別に不勉強だったわけでもなんでもなく、本当にそれらの人物を知らなかっただけなのだと分かった。