STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
下山はまだ何かを聞いてきていたが、俺はあることに気づいて、それに答えなかった。
隣に座る由季さんの動きがおかしい。前にいる下山たちからは見えない位置。なにやら手を動かしている。
「?」
何をしているのかは分からない。だが、確実に手を……指を小刻みに動かしている。
「岡部君。聞いているのかい?」
「え?」
「君たちには本当に他の世界の歴史が見えているのか?私にはとても信じられない。頭のおかしい学者どものたわごとにしか——」
そこで車内にケータイの着信音が鳴り響いた。
「ちっ……!」
下山が舌打ちをして、ポケットからケータイを取り出す。
「下山だ。……ああ、今、防衛局へ……なに?どういうことだそれは?くそっ、これだからバカどもはっ……あいつらどこの国の政治家だ……っ」
下山は電話の相手にそう吐き捨てると、怒りの表情を隠さぬまま、壊れそうなほど強くボタンを押して通話を切った。
「行き先変更だ。嘉手納基地へ迎え。第2ゲートだ」
やってられないとばかりに投げやりな口調で運転手にそう告げる。
行き先変更だって?今の電話の相手は誰だ?
困惑していたら、下山は今度は自分でどこかに電話をかけはじめた。
「下山だ。行き先を変更する。嘉手納基地の第2ゲート前で落ち合う」
それだけ言って電話を切った。
「あの……どういうことですか?」
おずおずと由季さんが訪ねる。
「状況が変わった。これから岡部君には米軍基地に行ってもらう。そのまま米軍機でアメリカ行き、なんていう楽しい旅行が待っているかもしれんな」
「なっ…アメリカ?」
「せめてファーストクラスを準備するよう要求しておくが、期待はしないでほしい。あいつらは我々の言うことなど、飼い犬の吠え声としか思っていない」
「なんでアメリカに!?」
「CIAかNSCか知らんが、君の即時引き渡しを求めているそうだ」
「だからなぜ⁉」
「そんなことは、あいつらに直接訊け」
そしてもう何を聞いても答えようとせず、真正面を向いたきり押し黙ってしまった。
嘉手納基地に着くまでの間、俺はいろいろと考えていた。
気になることは2つ。アメリカと日本の関係、そして由季さんの行動だ。
下山が電話の様子から、アメリカと日本の関係は良好とはいえないように感じた。協力体制はとっているが、アメリカの言うことには従わざるを得ない、というところだろうか。目的が俺のようなリーディングシュタイナー保持者を集めることなら、それをアメリカに横から奪われたことになる。
つまり、日本もアメリカとは別に、ロシアのタイムマシン実験に対して独自に対抗策を練っていた、ということだろう。そこに関してアメリカとはうまくいっていない、と考えられる。
……タイムマシンが絡んでいるんだ。どこの国だって、自国に優位になるように過去を変えたいと思うのは当然だ。
そして由季さんの行動だが、下山が俺もリーディングシュタイナー保持者だと気づいた後、由季さんはしきりに指を動かしていた。それも下山たちからは見えない位置で、自分の身体に指を押し当てるように動かしていた。
……何かのボタンを押していた?服の中に通信機かなにかを仕込んでいて、どこかとやりとりをしていた、ということだろうか?もしかしてダルたちと?と思ったが、確かめることはできなかった。
だが、それにしても下山のケータイに電話が入ったタイミングがおかしい。俺がリーディングシュタイナー保持者だと判明してすぐに、電話が鳴った。アメリカ側が俺のことをそもそも把握していたのなら、わざわざ沖縄防衛局に向かうことなく、最初から嘉手納基地に連れて行くはずだ。
俺は由季さんを怪しいと思い始めている。
敵だとは考えていない。だが、何かを隠している。そんな気がしてならなかった。