STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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世界線変動率

1.382733   →   1.129954

 

 

β世界線

 

 

世界全体が、色彩ごとグラグラと揺れている。

 

「オカリン?」

 

「………⁉」

 

目の前にまゆりがいた。ここはラボだ。見慣れた部屋だ。沖縄の景色なんて、影も形もなくなっていた。

 

「ええと、そんなに見つめられたら、まゆしぃ恥ずかしいんだけど……」

 

気づけばじっと、まゆりのことを見つめてしまっていた。

 

部屋の中を見回す。PCの前には、いつものようにダルが座っていて、猫背気味の背中を俺に向けている。

 

ソファでは鈴羽が週刊誌を読んでいる。開いたページには『あなたも危ない⁉新型脳炎が世界を襲う!』というアオリ文句が並んでいた。

 

いつものソファ、安物の冷蔵庫、ダルのPCデスク、開発室との間を仕切っている薄汚れたカーテン。ゴミ捨て場から拾ってきた壁掛け時計は、午後6時過ぎを指していた。

 

カレンダーを見ると、2010年はすでに過ぎ去り、2011年の1月になっている。

 

世界線が……また変わったんだ。

 

帰って……きた?

 

元の世界線に?

 

 

 

「………なぁ、まゆり、ここって秋葉原だよな?」

 

「……?」

 

「違う…のか?」

 

「秋葉原だよ」

 

「今日って、何日だっけ?」

 

「んーと、21日」

 

「ゴリバチョフ、知ってるか?」

 

「ごりばちょふ?どこかで聞いたことがあるような……」

 

まさか存在していないのか!?

 

「ペレストロイカっしょ。おそロシア。あ、でもゴリビーってソ連時代だっけ。やっぱロシアと言えばプーシンっしょ。目の前で睨まれたら、ションベンちびる自信あるね」

 

違う。まゆりがバカなだけだった。

 

「プーシンさんなら知ってるよー。ロシアの大統領さんだよね。実はワンコが好きなんだよ。秋田犬を飼ってるんだって。ニュースでやってた」

 

「大統領……」

 

その響きに半端ではない安心感を覚える。

 

「そう。大統領。大統領だ……!」

 

何度も繰り返す俺に、全員がポカンとした表情を見せる。α世界線で何度も経験した、世界線変動時の感覚。誰も変わる前のことを覚えていなくて、突拍子もないことを口走る俺を見る目。

 

うまくかみ合っていないことが、元の世界線に戻って来たことを実感させる。

 

安堵感とともに、疑問が湧いた。どうして世界線がまた変動したのか。

 

 

 

 

 

 

 

屋上に出て、スマホのウェブブラウザを起ち上げる。戦時下の状況とは違って、あっさりとネットワークに繋がった。回線の速さに驚く。戦時下ではネットに繋げるだけでも一苦労だったのに。

 

とりあえず『ゴリバチョフ』で検索してみると、すぐに結果が表示された。ペレストロイカ。ソ連の最初で最後の大統領。8月のクーデターとソ連の崩壊。俺が期待したキーワードがずらりと並んでいる。ソ連は20世紀末に解体され、すでに存在していないことを確認して、ブラウザを閉じた。

 

「ふぅ……」

 

ではなぜ世界線は再び変動したのか。俺はなにもしていない。世界線変動率に干渉する術なんて皆無だった。だとしたら、変動させたのは誰だ?

 

最初にロシアでタイムマシンによる過去改変実験を行った連中が元に戻したのか?1か月ほど世界の経過観察をして、満足したとでも?そんなふざけたことを今後も続けるつもりなんだろうか?

 

そのたびに俺は世界線変動に巻き込まれるんだろうか。

 

「………」

 

こちらの世界線に戻って来る直前。不可解なことがいくつかあった。

 

やはりひとつは由季さんに関することだ。

 

車内で見せた不審な動き。あれはやはり、誰かと連絡をとっていたのだろうか。急に行き先が変更になったことと、無関係とは思えない。

 

そして——。

 

 

 

「あの表情…」

 

俺だけが別の車に乗ることになり、まゆりのことを頼んだとき。彼女の表情はどこか晴れやかな顔をしていた。笑っていたわけではない。だが、あの場面で見せる表情ではなかったように思う。

 

…それだけで、怪しいと判断するのは早計だろう。だが、全く何もないとは思えない。

 

そしてもうひとつ。米軍が『Amadeus』を管理していたことだ。世界線が変動したのは、ロシアが行った過去改変をなかったことにしたからだ。

 

つまり、ロシア以外の勢力がタイムマシンを完成させ、過去に干渉したということ。そしてその鍵となったのが、リーディングシュタイナー保持者だ。あの世界線における歴史との相違点を捜し、元に戻すための手がかりを見つける。それ以外に世界線を元に戻す方法はないだろう。

 

だが、それらの動きと『Amadeus』の関係性を見出せない。なぜ『Amadeus』が必要だった?あれは所詮、人の記憶をベースに動く人工知能だ。世界線を変動させるような代物ではない。

 

 

 

 

「……これ以上考えても無駄だな」

 

答えは出ない。どれも推測の域を出ない。

 

上着も羽織らずに屋上に出てきたため、1月の冷気が俺を容赦なく貫く。

 

俺はラボに戻ることにした。

 

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