STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
結局、その日のうちにフブキのお見舞いに行くことになった。
フブキが入院している医学部付属の総合病院があるのは御茶ノ水。秋葉原からなら歩いても行けるほどの距離だから、来るのは簡単だった。
俺ひとりでいきなり訪ねても変な誤解をされそうなので、まゆりに一緒にお見舞いに行こうと促し、俺はついで、という形で同行した。
が、少し大事になった。まゆりがお見舞いに行くことを聞いた由紀さんとカエデが一緒に来ることになったのだ。
ナースステーションの前を通ると、40代くらいの女性が怒鳴り声を上げていた。いつになったら退院できるのか、という内容だった。押し問答を繰り返した後、その女性はどこかへ連れて行かれた。
フブキの様態が心配になり、病室に急ぐ。
入院している4人部屋に辿りつくと、中からフブキの泣き声が聞こえてきた。まゆりが慌ててカーテンの仕切りを開ける。
「フブキちゃんっ!」
その瞬間、フブキは珍妙な声を上げて振り返った。
よく見ると、備え付けの小さな液晶テレビでドラマを見ているところだった。目を真っ赤にして泣き腫らしていたようだが、口にお菓子をくわえているところを見ると、単にドラマに感動していただけらしい。
「あ、れ?」
「お、おお!みんな。また来てくれたんだ!」
涙を拭くなり、いつもの笑顔に戻って出迎えてくれるフブキ。
…なんともなさそうな様子だ。
皆が口々に安堵の声を漏らす。フブキもお見舞いに来てくれたことが嬉しいようだ。
「オカリンさんまで来てくれるとは思わなかったなー」
そう言いつつ、フブキはじっと俺を見つめている。これまでにフブキにこんなにも見つめられたことはないから、自分の顔に何か変な物でもついているのかと気になった。
「俺と同じように倒れたと聞いたからな。心配してたんだよ」
「ありがとう!でも全然平気だよ!毎日検査するだけで、それ以外はずっと暇なの!全然退院させてくれそうにないしさ~」
不平不満を口にできるほどだから、身体は心配ないのだろう。
「オカリンさんは、大丈夫なの?」
「ああ。まゆりにも言ったが、この通り、なんともない」
「そっか。良かったぁ」
フブキは心底ホッとしたように息をついたが、視線はなおも俺のことを見つめたままだった。
俺に何か言いたいことがあるのだろうか。
「………オカリンさん。2人で話、できないかな?」
「ええっ?やっぱり!」
その提案に最初に反応したのは、俺でもまゆりでもなく、カエデだった。
…やっぱり?
「カエデさん?急におっきな声出して、どうしたの?まゆしぃはびっくりしたのです」
心配そうにしているまゆりにも答えず、カエデはモジモジとし始めた。
「きょ、今日、お見舞いをしたいって言い出したの、オカリンさんですよね?さっきから二人とも、愛おしそうな目で見つめあってるし……その……」
そういうことか。
「な、なにを言い出すんだ!俺は別に愛おしそうに見つめてなんて……」
「か、カエデちゃん!何言ってるのさ!そんなわけないでしょ!」
「で、でも…」
「オカリンさんはマユシィのものなんだから、手を出すわけないでしょ!」
これまたいらんことを——。
「はわわ!ふ、フブキちゃん!なにを言ってるのかな?別にオカリンはマユシィのものじゃないよ!まゆしぃがオカリンの人質なので——」
まゆりもまゆりだ。人前でその話をしてくれるな。あのときは必死だったからとっさに出た言葉なのであって、別に人体実験をしてやろうなんて俺はこれっぽっちも思っていない。
「あのな……」
カエデもまた恋愛脳なんだろう。彼氏さんと喧嘩ばかりらしく、他人の恋愛に興味津々なのだ。
「フブキちゃん。真面目な話なの?」
そこで助け舟を出してくれたのは由季さんだ。
「うん。ちょっとリアルな夢を見ちゃって」
「リアルな夢……?」
ギクリとした。もしかするとそれは、俺が確かめたかったことなのかもしれない。
「今日の夕方くらい、かな。少しウトウトしてたんだ。やることもないしヒマ過ぎちゃって。そしたら、なんかね……あんまり詳しくは覚えてないんだけど……私とオカリンさんと由季さんが、怖い人に車に乗せられてどこかへ連れて行かれる夢を見ちゃったんだ」
「私も出てくるの?」
「うん……」
同じだ。俺があの世界線で経験したことと同じ夢を、フブキは見ていたことになる。しかも今日の夕方ということは、俺が体験していたのと同じ時間だ。
「みんな。悪いが……」
さきほどのフブキの提案を受け入れさせてもらおう。
「病気のことで話がしたい。少しだけ…」
またも由季さんがが気を利かせてくれた。カエデは最後まで目にハートを浮かべていたような気がするが——。