STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「鈴羽っ!オカリンっ!何やってんだお⁉」
唐突にダルの声が響いた。
声のした方を見ると、会談へ続くドアを開けたダルの巨体が、ちょうど姿を現したところだった。
「父さん……⁉どうして……」
「まゆ氏と阿万音氏からメールがあったんだ。なんか、鈴羽がオカリンを呼び出したって言うからさ。嫌な予感がして、捜してたんだお。あと、差出人不明のメールがあった」
「差出人不明…?」
「この場所のマップのURLを送りつけられた。もしやと思って、真っ先に来てみたわけ。そしたら銃声がしたから、びっくりしたっつーの」
ダルは全身汗だくだった。話している間にも、額に大粒の汗がどんどんにじみ出てきている。相当急いで来たらしい。
「んで、鈴羽、その銃はなんなん?」
「あ、いや、鈴羽は別に何も——」
「何もなかったら、銃なんて撃たないっしょ、常考。ほら鈴羽。話してみるといいのだぜ?」
「………父さんだって、本当は分かってるくせに」
「何が?」
「世界線が変動したことだよ。ロシアがタイムマシンの実験を始めたんだ」
「それって確定なん?」
「だから焦ってるんじゃないかっ。このままじゃ、何もかも終わりなんだっ。シュタインズゲートに到達できない。第3次世界大戦も防げない。おおぜいが死んで、母さんも死んで、なにもかも回避できない!」
「それは困るお…。でも、だからってさ、オカリンを脅して無理矢理過去へ連れて行ったとして、それでうまくいくわけ?」
「………」
ダルが、いつもの呑気そうな顔から一転、すっと真面目な表情になった。
「タイムマシンや世界線のことを研究し始めて、なんとなく分かってきたんだよね。オカリンの言う通り、普通のやり方じゃ、何度やっても牧瀬氏の命を救うことなんて出来ないんじゃないかって」
「と、父さんまで何を言って……」
「世界線のルールや因果律がそんな簡単に変えられるんなら、オカリンの言うα世界線で、まゆ氏の命だって救えたはずっしょ」
「じゃあ、どうしたらいいって言うんだ⁉」
ダルは自分の胸をこぶしでポンと叩いた。
「どうすべきかを、ボクらは研究してるわけっしょ」
「で……でも……っ、もう時間がっ!」
「大丈夫、ボクに任せとけって。絶対になんとかしてみせる」
「………」
「たまには、父さんの言うことも素直に聞いて欲しいのだぜ」
ダルは、日頃の彼からは想像もつかないほど凛々しく、そして優しいトーンで言うと、鈴羽の手からそっと銃を取り上げた。
鈴羽は、抵抗しなかった。
「ほら、銃なんかよりもっと大切なものを忘れてるお。今日みたいな寒い日にこそ、これを使うべき」
ダルがポケットから何かを取り出す。銃の代わりにそれを鈴羽の両手に握らせた。
それは手編みの手袋で。クリスマスパーティの日に、由季さんからもらったプレゼントだ。俺も、それをよく覚えている。
「……あ、あたし……あたし……」
手袋を渡された途端、鈴羽の目からジワリと涙があふれ始めた。
「どうしていいのか、分かんない……分かんなくなっちゃった……」
「うん」
「助けて、父さん……助けて……お願い……」
あの鈴羽が肩を震わせ、ポロポロと涙をこぼした。
俺はなんとなく、暗闇の中にたたずむタイムマシンへと目を向けた。
「俺は……もう乗らないって、決めたんだ……」
ダルにどれだけ説得されたって、鈴羽にどれだけ脅されたって、俺はもう、過去には戻らない。
振り返っては、いけないんだ……。