STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
2011年1月23日(日)
「こ、これは……まさに“Paradise”……!」
秋葉原の街で、真帆は異常なまでにテンションが上がっていた。
秋葉原と言っても、いわゆる萌えの街ではなく、電気街の方を案内していた。およそ女の子を案内して見られる反応ではない。そもそも電気街の方なんて案内なんてしない。
それからもジャンクパーツを見ては大声を上げて感動している。正直ついていけない。
『真帆先輩は、実はこういう人なのよ』
「俺も、ここは何度か来たことがあるが、あんな顔をしてパーツを愛でる人間には、これまで1人しかお目にかかったことがない」
『分かった。橋田さんのことでしょう?』
「ああ…」
『さすがにあの人と同類扱いするのは、先輩がかわいそうよ。あんたの話を聞く限り、橋田さんってとんでもないHENTAIだから』
レスキネン教授と真帆の帰国が数日後に決まった。もうすぐ日本を離れることになったので、以前約束した秋葉原案内を頼みたい、と真帆から連絡があったのだ。
だから俺は真帆と“紅莉栖”を連れて、秋葉原の街に繰り出していた。
そろそろ昼食でも、と思い駅前の方に出ると、真帆がある店の前で足を止めた。
「ちょっとだけ、覗いてみてもいいかしら?」
それはゲームセンターだった。
真帆はわき目もふらず、クレーンゲームに近づいていくと、ガラスにへばり付いて中を覗き込んだ。
そこには、@ちゃんねる生まれのキャラクターを商品化したぬいぐるみが色々と入っていた。
もしや真帆も紅莉栖と同じように、隠れ@ちゃんねらーなのだろうか。
「おい、“紅莉栖”。比屋定さんもお前と同じく@ちゃんねらーなのか?」
こういうものに興味を示すのが意外過ぎて、俺は“紅莉栖”にそう尋ねた。
『ちょっ!おま…っ!わ、私、そんなの知らないわよっ!あっとちゃ…?なにそれ?』
分かりやすく焦っている。隠すつもり、ないだろコイツ。
「隠さなくていい。お前が生粋のねらーであることは把握済みだ」
『ちょっとあんた!勝手なこと言ってんじゃないわよ!どこにそんな証拠が……』
「ぬるぽ」
『ガッ………あ、しまった』
コイツ、『Amadeus』でも変わらないな。
そんな“紅莉栖”は無視して、比屋定さんに声をかける。
「比屋定さん、そのぬいぐるみがほしいのか?」
「え、ええ。これ、かわいいじゃない」
“紅莉栖”と同じことを試してやる。
「ぬるぽ」
「………?」
引っかからない。さすがに違ったか。
「ぬる…何?それは何なの?」
「いや、“紅莉栖”の好きな——」
『うるさいうるさいうるさーい!真帆先輩に余計なこと吹き込んでんじゃないわよ!』
「?」
必死になる“紅莉栖”に、真帆は首を傾げる。
「でも、比屋定さんがそんなぬいぐるみに興味を示すなんて、意外だな」
「ああ。これね。紅莉栖のベッドルームに置いてあったのよ」
「へぇ。そうなのか」
『ちょっ!真帆先輩?』
アメリカまでわざわざ取り寄せたのだろうか?
「紅莉栖はそれがなんのキャラクターなのか教えてくれたか?」
「いいえ。何度か訊いてみたけど、延々とはぐらかされたわ」
「ははは。だろうな…」
「だからずっと気になっていたのよ。岡部さんは知っているの?」
「うーん。まぁ」
『お~か~べ~……!』
「お、俺も知らないんだ。ははは…」
そこまでして隠さなくてもいいだろうに。まぁ、その界隈に明るくない人の反応は刺さるからな。何も知らない真帆には知られたくないというのも分かる話だ。
「そう…」
名誉は守ってやったぞ。感謝しろ、“紅莉栖”。
それから真帆はそのクレーンゲームに挑戦した。クレーンゲームは初めてのようで、意気揚々とチャレンジしたのだが。
「ちょっ、これ、どうなってるのよ!アームが弱すぎるんじゃないの⁉」
商品を取らせないために弱く設定してあるアームに怒っていた。次々と100円玉を投入しては撃沈している。そして——。
「むぅぅっ……」
真帆は唸ると、残った300円を握りしめたまま、ゲームセンターの奥へと歩いていった。
…かつて偉い人は言った。クレーンゲームは貯金箱であると。