STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
その後、“紅莉栖”の厳命により、レースゲームに夢中になっている真帆の代わりに俺がぬいぐるみを手に入れることになった。挑戦してみると、意外とあっさり手に入った。
それを持ってレースゲームの筐体に向かうと、人だかりができていた。真帆はレースゲームの達人らしい。この店のレコードタイムを叩きだしていた。
「おめでとうございまーす!当店のベストレコードでーす!」
周囲から歓声と拍手が起こる。それに気づいた真帆は顔を真っ赤にして目を泳がせている。
「え、あぁ…う」
これは助けた方がよさそうだ。俺は人をかき分けて真帆のもとまで行くと、手を掴んで店の外まで出た。
雑踏の中をしばらく歩き、ようやく店が視界から消えると、真帆は大きく息を吐きだした。
「ふぅ。迂闊だったわ…」
「何がだ?」
「つい熱くなってしまって、本気を出してしまったの…」
「これのせいか?」
俺は提げていた戦利品を渡した。
「なに?」
真帆はがさごそと袋を開けてぬいぐるみを引っ張り出した。
「これ、とれたの⁉」
「運が良くてな。君にプレゼントするよ」
「いいの?」
「俺が持っていても仕方ない」
「そ、そう?じゃあ遠慮なくいただくわ」
真帆はまるで幼い少女のように無垢な表情で、ぬいぐるみをぎゅっと抱いた。こっちまで嬉しくなる。
「紅莉栖が亡くなった後ね、お母さんから形見を色々ともらったわ。けど、これは紅莉栖がとても可愛がっていたからって、お母さん、自分のベッドルームに飾っていたのよ」
@ちゃんねるのキャラクターだと知らなければ、それなりに可愛い造形をしている。娘の形見として飾っておいてもおかしくはなそうだ。
「だけど、紅莉栖の実家がね、ああいうことになって…ぬいぐるみも燃えてしまったと思うの。きっと」
『先輩…』
“紅莉栖”が神妙な顔で聞いている。去年の3月を最後に、紅莉栖から派生した存在だとは言え、母親の記憶については変わらないはずだ。
“紅莉栖”はそういうことを一度も語ったことがないが、どう思っているのだろうか。
「だから、これはアメリカのお母さんにプレゼントしていいかしら?」
「もちろん。喜んでもらえるなら、それが一番いい」
「ありがとう」
“紅莉栖”も嬉しそうな顔をしていた。
「さてと、次はどうする?見てみたい場所はあるか?」
と、提案したところで、真帆の表情が変わった。
「……“紅莉栖”、悪いけど、しばらく岡部さんと二人きりにしてくれる?」
だがやはり“紅莉栖”は恋愛脳で——。
『先輩…ついに、自分の気持ちに素直になることにしたんですね……!岡部、ちゃんとしなさいよ』
それだけ言うと画面から消えていった。真帆も全く相手にしていなかった。
「行きたい場所。もうひとつあるんだけれど…」
俺たちがやって来たのは、ラジオ会館だった。
あれからも、ラジ館には何度も来ている。この間も屋上に足を運んだ。…そのときは鈴羽に銃を突き付けられたが。
だが、8階の、現場となった倉庫には、あれから一度も行っていない。行く気にはなれなかった。
あの日のことを思い出すだけで、強烈なフラッシュバックが起こるぐらいなんだ。紅莉栖の死んだ場所に足を運ぶなんて、とてもじゃないが無理だった。
「大丈夫?ずいぶん顔色が悪いけれど」
「………」
「紅莉栖のこと、思い出してしまうの?」
「そう……だろうな」
「辛いなら、ついてこなくてもいいわ。私一人で行くから」
そう言いつつ、真帆も顔色が優れない様子だ。真帆にとってもそこに行くのは辛いことなのだろう。
それでも真帆は、紅莉栖の死と向き合おうとしている。
「いや。一緒に、行くよ」