STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
俺たちはフェイリス邸にお邪魔していた。秋葉原で最強のセキュリティを備えている場所と言えば、やはりここになる。鈴羽に連絡は取れなかった。彼女がいないのなら、ここより安全な場所は存在しない。
真帆はフェイリスに勧められて湯船に浸かっている。ダルは鈴羽を待つと言って、ラボに残った。
「た、た、大変だニャー!」
リビングでくつろいでいると、フェイリスの悲鳴が聞こえた。急いで声の方へと走る。
「死んじゃう!真帆ニャンが死んじゃうー!」
何が起こった!?まさか襲撃がっ!?
場所は脱衣所だ。俺は躊躇することなく飛び込んだ。
「どうしたんだフェイリス!」
「ひっ!」
「あ…」
「ニャ……!」
目に飛び込んできたのは、後ろから真帆を抱きかかえるフェイリスと、一糸纏わぬ生まれたままの姿でフェイリスに身を預けている真帆だった。
「あ、ああ……」
俺は死んだ。
「本当に済まなかった。この通りだ」
「あ、謝らなくてもいいわ。さっきのは、あくまでも事故なんだから」
極度の緊張と緩和により、筋肉が弛緩してしまい、真帆は体に力が入らなくなっていたのだ。あられもない姿を見られたにもかかわらず、自分では動けなかった真帆を、お姫様抱っこでベッドまで運んだ。
……恥ずかしくて顔を見れない。
「身体は平気なのか?病院に行かなくても?」
「もう少し休めば、回復するとおもう。心配かけてしまったわね。みっともないわ」
「みっともないもんか。今日みたいなことに巻き込まれれば、誰だって怖い。具合だって悪くもなる」
「あなたでも、怖い?」
「ああ」
「…そう」
俺の言葉に安心したのだろうか。真帆の表情に色が戻って来たような気がする。
「今夜はもう休むといいニャ。事件のこととか、これからどうするかとか、難しい話は元気になってから考えるといいニャン」
「そうね。ええ…そうするわ。ありがとう」
真帆が目を閉じたのを見て、俺とフェイリスは電気を消して部屋から出ていった。
「オカリン。これからどうするのニャ?」
リビングに戻ると、フェイリスがそう聞いてきた。
「まだ、なんとも言えないな」
敵の目的であったノートPCは破壊された。これで狙われることはなくなったはず、と思いたい。
紅莉栖の書いたタイムマシン論文は、中鉢論文を除いて全て葬られた。他の連中がそれを手にする術は失われたはずだ。とはいえ、俺たちがデータのバックアップを持っていると考える可能性はある。油断はできない。
「真帆ニャンはずっとここにいてもらって構わないニャ。オカリンも…」
「ありがとう。でも、俺は夜が明けたら一度ラボに戻るよ。ダルからも連絡がない。鈴羽とも話したいしな」
「自警団にも街を警戒するように言っておくのニャ」
「いつもいつも済まないな…」
「水くさいことは言いっこなしニャン♪」
フェイリスの存在はいつもありがたかった。去年の夏以来、俺たちの話を疑うことなく全て信じ、全面的に協力してくれている。ラジ館の屋上だって、フェイリスが借り上げてくれなければタイムマシンは誰かに発見されているだろう。フェイリスには頭が上がらない。
「それじゃあフェイリスももう寝るニャけど、オカリンも早めに寝た方がいいニャ。もし寝れなくても、ベッドには入っておいた方がいいニャ」
「……ああ。そうするよ」
俺のために用意してもらった寝室へと向かう。俺は言われた通りにベッドに入った。だが、やはり眠れない。興奮が冷めていないのだ。
このβ世界線でも、SERNが裏で動いているのは予想通りだった。エシュロンでDメールを捕捉できていないため、タイムマシンの技術を独占することはできないが、それを狙っていることは分かっていた。だが、α世界線のときとは違い、絶対的な力を振るえているわけではないようだ。
今日もロシアに横やりを入れられ、目的を果たせなかった。ラボにいるのは危険だが、すぐに手を出してくるとは思えない。それも、俺たちを狙ったというより、真帆が紅莉栖の遺産を持っているということを知ったという感じだ。
ラボが目を付けられているわけではない、と思う。
それよりも、最初にコスプレショップを包囲した連中の方が気になっている。
俺はやつらを十中八九、アメリカの…米軍関係の人間だとにらんでいる。そう思うのはやはり、ロシアの過去改変実験による世界線で、米軍が『Amadeus』を管理していたことだ。
ダルの裏バイトのスタッフルームで、“紅莉栖”からの電話があった。“紅莉栖”から俺に掛けてくることはまずない。
やはりあの電話は罠だった、ということだろうか。だが、この世界線においても、『Amadeus』は米軍の管理下にあり、俺の位置を特定するために電話を掛けてきたのだとすれば……?
考えすぎかもしれない。“紅莉栖”に何か急用があったのかもしれない。だが、どうしてもその疑念が払しょくできない。
「比屋定さんのオフィスとホテルが荒らされた、か」
考えれば考えるほど、全てが怪しく思えてくる。