STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「父さんは心配しなくてもいいよ。それより………」
そこまで言いかけて、鈴羽は口を噤んだ。
「どしたん?」
それを見て、至は首を傾げる。
「…なんでもないよ」
「隠しても無駄なのだぜ」
さっきまでふざけていた至が、急に真面目な顔に変わる。
「鈴羽のなんでもないってのは、話を聞いてほしいって意味っしょ?」
「え?」
「ほら、話してみるといいのだぜ」
「父さん……」
こういうところが、鈴羽は大好きなのだ。未来でも、こんなふうにふざけて由季に怒られては、急に真面目な顔になって、こちらの心を見透かしてくる。そして励ましてくれるのだ。
「鈴羽の悩みはボクの悩みだ。ボクじゃ頼りないかも知れないけど、相談くらいしてほしいわけだが」
「…………」
そこで鈴羽は気づいた。
「エッチなゲーム……」
「はい?」
「その台詞。この前やってたぎゃるげーにあったよね?」
「うっ!」
至の身体がビクンっと跳ねた。
「それでフラグが成立するんだっけ?あの女の子、可愛かったもんね?」
「そ、そんなことは……」
この時代に来て3か月ほどが経過した。2010年のアキバ文化にも、少しは明るくなってきたところだ。
至のような人間をオタクというらしい。そして、オタクはぎゃるげーを通して、女の子にアプローチするための方法を学ぶのだ。
エッチな女の子ばかりが登場することに、最初こそ戸惑っていたが、それが由季に対してのものだと知った。鈴羽は安心したのだ。由季を射止めるために自分を磨いているのだと。
だが——。
「そんなゲームをいくらしたって、母さんが好きになってくれるはずないだろ!ましてや、それを娘に向かって言う⁉」
「ぐはっ!」
「こっちは真面目に悩んでいるっていうのに……。まさか、あたしを落とそうなんて、思ってないよね?」
「ね、ねーよ‼実の娘にそんなことしないって!」
「どうだか…」
至としては複雑な心境なのだ。鈴羽が自分の娘であることは疑っていないし、それなりに父親としての自覚も芽生えてきた。鈴羽のためなら、力になってあげたいとも思っている。
だが、こんなエロゲでしか見たことのないシチュエーションは、もっと萌えるはずだと思っていたのだ。
というのも、幼くパパ大好きっ子だった娘が、思春期とともにパパと呼んでくれなくなり、会話も少なくなる。だが実はパパのことが大好きで、照れ隠しのためにそうしていた。そしてその気持ちに嘘がつけなくなって……。
という流れがあってこそ、萌えることができるのだ。だが、至と鈴羽の関係はそうではない。
その過程が全て吹っ飛んでいるのだ。ある日突然、目の前に自分の娘だと言う美少女が現れた。その娘は自分と同い年で、いきなりそれなりに好感度が高い。好感度を育む期間すら与えられていないのだ。
実の父子の禁断の……というテンションにはなかなかなれなかったのだ。
「…ひとつ疑問なんだけどさ、鈴羽はどうしてそんなにパパっ子なん?鈴羽って、今18歳なんっしょ?それくらいだと、父親なんて大嫌いって年齢じゃないん?」
好意を持ってくれていることは嬉しいのだが、そんな好意を向けてもらえるほど、自分は立派な存在ではないと思っている。タイムマシンを作るのかもしれないが、世界を変えるために娘を過去に行かせるなんて、親としてどうなのか、という思いがあるのだ。
「…父さんはいつも言ってたよ。ここは最低最悪の世界線だけど、あたしが誕生したことだけは最高だって」
「…………」
「未来の父さんは、すごくかっこよかったんだ。あ、もちろん、今だってすごいと思ってるよ」
「鈴羽…」
「あたしさ、未来の父さんを失望させたくないんだ」
「し、失望なんて絶対にしないお!未来のボクのことは知らんけど、鈴羽に失望するなんてありえないって!」
この時代に来てから、鈴羽が一日も休まずに頑張っているのを知っている。何をしているのかは分かっていないが、使命を果たすために一人で頑張っているのだ。
休めと言いたいが、鈴羽の気持ちを考えると、そう言う事も出来ない。
「うん。ありがと。でも……あたしはオカリンおじさんを説得出来なかった…」
鈴羽は目を閉じた。慰めてくれているのだろう。それは嬉しかったが、期待に応えられていない自分が嫌になる。それと同時に、鈴羽は強烈な睡魔に襲われた。
こんな無防備な状態でウトウトしかかっている自分に驚きつつも、誘惑を立ち切れそうにない。
と、いきなり首元に、身震いするほど冷たくて固いものが押し付けられた。
「ひゃぁああぁあ!」
一気に意識が覚醒する。その後の反応は迅速だった。瞬時に飛び上がると、目の前に立っていた巨体の背後に素早く回り込み、その腕を捻り上げつつねじ伏せる。
自分の腰に携帯している銃を引き抜こうとして、手は空を切った。
そこでハッと我に返った。今は銃を隠してあって、携帯していない。ここが2036年ではないことにようやく気付いた。
「いててててててーっ!」
床にドクペの缶が2つ、音を立てて転がった。鈴羽の首に押し付けられたのはそれだったようだ。
「な、何するの父さんっ!」
「さ、さ、さっきのおかえしだお!」
「ぼーっとしてたから、あやうく殺しちゃうとこだったよ!」
「殺……って、えええーっ⁉」
「そういう訓練受けてきたんだから、洒落じゃ済まないんだって!」
「わ、分かったから放してくだされ。痛いでござるの巻」
「まったくもう…」
鈴羽は父の身体を解放した。