STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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第十章 弾性限界のリコグナイズ
(1)


「かがりちゃん。今日から私とあなたは、正式な親子になるのよ」

 

それはかがりが6歳の頃の話だ。

 

その頃、かがりは戦災孤児用養護施設に入っていて、リンセルする専用の医療施設で治療も受けていた。そこは外界から隔離され、子供たちが安心して過ごせる牧歌的な箱庭。かがりがママと出会ったのもその施設だった。

 

ママ——椎名まゆりは、養護施設の二等養護官で、いつもかがりのことを親身に世話してくれた。

 

「ほんと?ママが、かがりのほんとのママになるの?」

 

「ええ。そうよ」

 

「やったぁ!ママ!」

 

そのときのかがりの嬉しさは、言葉では言い表せない。ママと本当の親子になるという事。それは“かがり”という名前も、仮のものから本当の名前になった事を意味する。

 

かがりは、椎名かがりに生まれ変わったのだ。

 

「あ、こら。くっつかないの。ふふふ、かがりちゃんは甘えん坊さんね」

 

「じゃあ、ここから出られるんだよね?ママと一緒に暮らせるんだよね?」

 

「………」

 

一転、かがりの顔が曇る。

 

「ごめんね。かがりちゃんには、もう少し、治療が必要みたいなの」

 

そこで、いつもかがりに優しく接してくれる先生がやって来る。かがりにはおじいちゃんのような人だ。

 

「あと半年もすれば終わるからね。それまで我慢するんだよ?」

 

「あの、半年も、ですか?この前のお話では、あと2週間くらいで大丈夫だと……」

 

「それは身体的な傷の話なんだ。東京大空襲で子供が受けた心的外傷後ストレスは、大人の比ではないからね。それに、かがりちゃんはまだ、怖い夢を見るらしい」

 

「そうなの、かがりちゃん?」

 

「そ、そんなことないもんっ!もう怖い夢なんて見ないよ。楽しい夢ばっかりだよ!楽しい楽しい!」

 

「うそはいけないよ、かがりちゃん。夜中に怖い夢を見て目が覚めることがあると、昨日教えてくれたよね?」

 

「…ぅん」

 

「まぁ…そうなの…」

 

「きちんと治療を続けておかなければ、後で取り返しのつかないことになる」

 

「そう、ですね…」

 

「というわけで、治療を続けてもよろしいかね、“お母さん”?」

 

「あ、はいっ。かがりちゃん。頑張って、悪い病気をやっつけようね!」

 

ママが頭を撫でてくれる。それだけでかがりは涙が出そうなほどに安心できた。

 

「分かった…!」

 

「うん。いい子だ」

 

「じゃあ、またあとでね、かがりちゃん」

 

 

 

 

 

連れて行かれたのはいつもの部屋。

 

ヘッドセットに繋がれた、無機質なシステムがある治療室だ。

 

(聞こえる——いつもの声)

 

 

 

『キミはママを護るんだ。この世界を護るんだ。そのために君は生まれて来たんだよ』

 

 

 

その声が、いったいいつ頃から聞こえ始めたのか、かがりはよく覚えていない。でも、6歳の時点で、かがりが迷ったり悩んだり困ったりしたときに、声はもう聞こえるようになっていた。

 

いつも優しく、そして力強く、励ましてくれたのだ。

 

かがりは子供心に、それが神様の声かもしれないと思うようになっていた。

 

誰も信じてくれなかったが、ママだけは信じてくれた。

 

(ママを護るんだ。だから、治療、頑張るんだ……!)

 

幼いかがりの心の中に会ったのは、ママであるまゆりとともに暮らせるという未来への希望だけだった。

 

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