STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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2011年6月25日(土)

 

 

季節はもうすぐ7月を迎えようとしている。

 

「夏、か……」

 

つまり、あの出来事があってから、もう1年になろうとしているんだ。

 

 

 

家にいると親父が手伝えとうるさいので、俺は近くのカフェで数時間居座り、勉強をするのが日課になっている。

 

俺はすっかりラボには行かなくなっていた。鈴羽がラボで暮らしている。やはり顔を合わせづらいからな。

と、まゆりからラインが来た。

 

『トゥットゥルー♪今どこ~?』

 

カフェのスタンプを返す。

 

『ああ、いつものカフェだね。今オカリンの家に行ったらいなかったから』

 

『行ったのか?親父がまた迷惑かけてないか?』

 

『大丈夫だよ。麦茶ご馳走になったし。ちょっと買い物しなくちゃいけなくなったんだけど、つきあってくれる?』

 

これまたOKのスタンプを返す。

 

『じゃ、これから行くからそこで待っててね』

 

 

 

あいつ。俺の家に行ったのか。俺の実家である『岡部青果店』は古い商店街の中にあるボロい店だ。そろそろ築40年になる。本当にボロい。いい加減、建て替えてほしいところだ。

 

そこで俺は勉強の手を止めた。最近の自分の真面目さには、我ながら少し驚く。目標があることで、やる気が湧いてきているのを実感する。少しでも早く、ヴィクトルコンドリア大学に行けるようにならないと。

 

(ヴィクトルコンドリア大学、か……)

 

真帆とは定期的にメールやチャットのやりとりはしていた。研究で忙しいようで、いつも眠たそうだ。

 

メールでも確認しようとスマホの画面を見る。

 

俺はいつものくせで、ついついとあるアイコンを探してしまう。

 

『Amadeus』。

 

半年前に自分で消去したアプリ。“紅莉栖”は元気でやっているんだろうか。…あいつの事だから、どうせ小難しい理論を振りかざしたり、真帆をからかったりしているのだろう。真帆に隠れてこっそり@ちゃんねるを見ているのかもしれない。

 

(@ちゃん…か)

 

“紅莉栖”はネットの情報を見ることも出来る。だから見ていてもおかしくはない。

 

(『Amadeus』って、ネット掲示板に書き込んだりすることもできるんだろうか?)

 

紅莉栖も、去年の夏にジョン・タイターを論破しようと、@ちゃんねるに必死な様子で書き込んでいた。あれはα世界線の話ではあるが……。

 

“紅莉栖”はその分身。同じように書き込んでいる可能性……というか絶対に書き込んでる。システム上可能なら絶対に……。

 

俺はウェブブラウザを開くと、あまり期待はせずに、忘れることのできないハンドルネーム名で検索してみた。

 

『栗悟飯とカメハメ波』。

 

そのコテハンを。

 

 

 

「うぉっ!」

 

思わず声が出てしまった。冷たい視線を向けてくる他の客に軽く頭を下げ、すぐにスマホ画面に目を戻す。

 

驚いたことに、検索してみたら何百件も引っかかったのだ。どれも@ちゃんねるの書き込みのようだ。日付を確認すると、古いものでは2008年のものもあった。

 

これは生前の紅莉栖の遺したものだ。こんなところでも紅莉栖の足跡を見つけるなんてな。

 

(それにしても、投稿しすぎだろ…)

 

ここまでヘビーな@ちゃんねらーだとは思わなかった。改めてだが、このクソコテハン…気持ち悪いな……。

 

紅莉栖が主に投稿していたのは、物理学と数学、サイエンスフィクション。そしてもちろんオカルト板だ。

 

SF関連のスレッドでは、タイムマシンについてかなり熱い議論をしていた。『タイムマシンは実現可能か?』なんて紅莉栖が開いたスレッドもある。よっぽどジョン・タイターに対抗意識を燃やしていたらしい。ただ、α世界線と違い、決してタイムマシンを完全否定してはいないようだった。意外にも、肯定派に近い意見すら書いている。

 

α世界線であそこまで否定的だったのは、過去にジョン・タイターが現れていなかったからと考えられる。

 

α世界線でジョン・タイターが現れたのは2010年になってから。こうして@ちゃんねるで議論する下地がなかったからかもしれない。

 

だが、紅莉栖は実際には、タイムマシンに肯定的だ。こうしてこっそり論文を書き上げていたくらいなんだから。

 

(いくらなんでも大人気なさすぎだろ……)

 

目にする投稿のどれもが、他の人を完全に論破し、追い詰めるような内容ばかり。少しでも理屈が通っていないものは完膚なきまでに叩き潰していた。@ちゃんねるでマジレスするなよ…。

 

 

 

そうした『栗悟飯とカメハメ波』の書き込みも、ある時期を境にして途切れてしまっていた。

 

2010年7月27日。

 

紅莉栖が亡くなる前日だ。

 

それは翌日に控えた中鉢博士のタイムマシン発表会を嘲笑するような書き込みに対して、少しムキになって反論している内容だった。

 

「…………」

 

懐かしさと寂寥感で胸が詰まる。ブラウザを閉じようかと思った。だが、次に目についた書き込みにハッとさせられた。その投稿日時を何度も確認する。

 

(2010年12月1日…だって?)

 

これが紅莉栖本人による書き込みということはあり得ない

 

。“紅莉栖”か、それとも他の誰かのなりすましか。

 

トリップがついていないから判断は難しいところだ。この日付は俺が“紅莉栖”と対面した頃でもある。

 

それ以降も『栗悟飯とカメハメ波』は週に一度くらいの割合で書き込みをしている。一番最後の書き込みは……。

 

 

 

(って、昨日の夜じゃないかっ!)

 

内容は相対性理論に関することだった。

 

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