STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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「………声。神様の、声……聞こえる」

「ダメだよ。……ダメなんだよ、鈴羽とおねーちゃん。そんな事、しちゃいけないんだ」

「世界を変えちゃいけないんだ!おねーちゃんはおかしいコト言ってる!」

「かがりは元の世界に戻りたいだけだもんっ」

「うるさいうるさいうるさい!かがりはママを絶対助けるんだぁぁっ!」

「この世界を消すなんてダメだよっ!絶対にやらせないからっ!」

 

 

 

 

かがりの事を思い出さない夜は一度もなかった。この時代に来てからもしばらくはかがりの事を捜していたが、結局手掛かりは見つからなった。

 

だが、今はおそらく22歳に成長した椎名かがりは、確実に、この秋葉原にいる。鈴羽はそれを確信していた。

 

「おう、真帆たん、オッスオッス」

 

鈴羽の横でPCに向かっていた至が、モニタに向かって声をかけた。

 

「…………おはよう」

 

画面には、眠たそうな気怠そうな、みすぼらしい少女——いや、立派な成人女性が映っている。

 

ここ、秋葉原、未来ガジェット研究所の時計は午後8時30分を指している。一方で、サマータイム中のヴィクトルコンドリア大学は通常よりも一時間ズレて、午前7時30分である。

 

「比屋定さん、大丈夫…?」

 

「この時間だし寝起きっしょ」

 

真帆はひどい姿だった。髪の毛がグシャグシャなのはいつもの事として、真っ赤に充血している目の焦点は合っておらず、視線はあらぬ方向をさまよっている。

 

目の下のクマはちょっと化粧をしたくらいでは誤魔化せないほどに濃くなってしまっていた。まるでゾンビか何かのように生気がまるでない。

 

「低血圧真帆たんも萌えるお」

 

「…………」

 

反応がない。至のふざけた呼び方に対して、以前なら怒っていたのだが、慣れてしまったのか特に何の反応も示さなくなっていた。

 

「…そっちの進展はどう?」

 

「なんとか、オカリンが分解しちゃう前の状態に組み立て直したお。機能はほぼ再現出来てると思われ」

 

至はラボの奥にある開発室のカーテンの奥へと視線を向けた。真帆協力のもと、タイムリープマシンを再度制作中なのだ。

 

「…うまくいかないの?」

 

「うん、なんか安定しないっつーか。普通の電子レンジになっちゃうんだよね」

 

「そう。何がいけないのかしらね…」

 

「オカリンに、そこんところの話を訊ければ、違ってくるんだけどなぁ」

 

「無理だよ……。あたしたちがこんな事しているって知っただけで、怒鳴り込んでくるよ。おじさんは恐れているんだ。世界線が収束する力というものを。あの人を説得するのは容易じゃない」

 

事実、鈴羽は岡部を説得出来ないまま、あと少しで一年が経とうとしている。

 

「うーん」

 

しばらく沈黙が続く。

 

「…………」

 

「って、真帆たん!もしかして寝てんじゃね⁉」

 

「ふぁっ⁉」

 

モニタの中の真帆が、ビクンと身を震わせて、椅子ごとひっくり返りそうになっている。

 

「……あっ、危なかったわっ。出勤前なのに、二度寝してしまうところだった」

 

「つーか、頑張りすぎだお。無理して身体壊したら、意味なくね?」

 

「このくらい平気よ。というか、これだけやっても、まだ“天才”にはかなわないんだから」

 

「そんなことないと思うけどな。ボクは真帆たんだってじゅうぶん天才だと——」

 

「気休めなら不要よ」

 

本心だけど、と至は口ごもる。牧瀬紅莉栖を前に、真帆はどんな褒め言葉も皮肉にしか受け取らない。気難しい研究者の気質に、至は苦笑いを隠せなかった。

 

「岡部さんの言っていたタイムリープ、こんなにヒントはあるのに、いまだに“解”を見つけられないんだもの。記憶データなんて膨大なものを、どうやって圧縮して過去へ送る事が出来たのか。紅莉栖はそれをやってのけたっていうのに……」

 

真帆は苛立ちを隠せていない。画面越しにもそれが伝わってきた。

 

「あ、ごめんなさい。愚痴をこぼしている場合じゃなかったわね。今日の報告、他に何かあるかしら?なければ、そろそろ出勤しようと思うのだけれど」

 

「もうひとつある」

 

鈴羽はそう言って至を見た。

 

「前から調べてほしいって言われてた件について」

 

「何か分かったの?」

 

「はっきりとしたことはまだ」

 

「そう……」

 

「あちこちのネットワークに侵入したりとか、ギリギリまではいろいろやってみたんだお」

 

「…責めたりしないわ。今分かっていることを教えてちょうだい」

 

「いやむしろ激しく罵倒とかしてくれておkなわけだが」

 

「父さん!」

 

「早くして。時間が来ちゃうから」

 

「ほいほい…」

 

2人ともすごく冷たくなった。

 

「えっと、まず、真帆たんたちがホテルの地下駐車場で襲われた事件」

 

至はモニタに別のウインドウを開いた。テキストファイルを表示させる。そこにはこれまで集めた情報のメモが書かれてあった。

 

「警察の発表だと、新興カルト教団の男が違法薬物を使った末に…って話になってるけど、あれ、間違いなくウソだわ」

 

「嘘……?」

 

「犯人の身元は警察発表通り、某大学の准教授。これはいいんだけどさ、そいつが宗教団体に所属してたっつー事実がこれっぽっちも出てこないんだよね。公安が隠し持ってる教団員のデータにもアクセスしてみたから、確定」

 

「捏造…ということなのね」

 

「@ちゃんねるとか見てるとさ、信者っぽい人がときどきカキコするんだよね。“教団は無実だ”とか“陰謀だ”とか。そうすると、一瞬でものすごい数の教団アンチが湧いてきて、フルボッコなわけ。しかもそのアンチども、もっともらしいニセの証拠とかガンガン出してくるんだよ。画像付きとかで。いくらなんでもあれはちょっと異常」

 

「そうなの?私、その@ちゃんねるというのをあまりよく知らないから……」

 

「@ちゃん含めてさ、たいていの大手サイトには、工作員が張り付いてるもんなんだよ。しかもビジネスとしてバイト代もらってね。朝から晩まで24時間ぶっ通しで」

 

「情報操作。プロパガンダだね…」

 

「政治家や官僚なんかも、ネット世論の誘導に利用してるし、それを専門にしてる会社もあるくらいだお」

 

「なるほど。それなら分かるわ。そのあたりはアメリカも日本も同じね」

 

「でも工作員なんて、ボクからしたらIPバレバレなんで。それでチェックしてみたら、あの事件、すごい人数の工作員が投入されてるっぽい。どこからそんなに金が出てるんだよってレベル」

 

「そう…」

 

「父さんのバイト先が襲われた事件は?」

 

「そっちも同じ」

 

警察の発表では日本にテリトリーを広げようとしている外国人マフィア組織同士の抗争という事にされていた。マスコミも素直すぎるほどその通りに報じていたし、普段ならマスコミの報道には絶対に従わないはずの@ちゃんねる上ですら、不自然なくらいその情報だけが正しいとされていた。

 

もちろん、ロシアの事もSERNの事も話題にすらなっていない。

 

「でさ、試しに目撃者を装って、ロシアの特殊部隊を見たってスレ立ててみたんだよね。そしたらまぁ、すごいのなんの。炎上しすぎてビックリしたお。あん時は、思わず工作員の本名から会社名まで、全部晒してやろうかと思ったっつーの」

 

至がそんな風に憤ることは珍し……くはないな、と鈴羽は考え直した。@ちゃんねるを見ては、よくPCデスクを叩いている。エッチな画像を見ながら。

 

「つまり、どこかから圧力がかかっていて、幕引きにされたって事ね。さすがは自由の国ニッポンなだけの事はあるわ」

 

「アメリカも似たようなもんじゃね?」

 

「違いないわね」

 

ふたりは皮肉な笑いを顔に浮かべた。

 

「つーわけで、ボクとしてはお手上げ」

 

「そう。それで十分よ。調べてくれてありがとう」

 

「比屋定さん。研究所から来日の許可は降りそうなの?」

 

「……それが、レスキネン教授の助手として連れて行ってもらえるよう、何回も申請しているのだけれど、却下の連続なのよ」

 

「レスキネン教授は今、こっちに来てるんだっけ?」

 

「ええ。新型脳炎の調査でね」

 

人工知能に関する事ではないため、真帆は同行出来なかったそうだ。

 

「いいわ。どうしてもダメというなら、こっちにも考えがあるもの」

 

「…どうする気?」

 

「まさか!上官の命令を無視してでも正義を貫くとか⁉そして悪に捕まってしまうんですね分かります。ねえねえ真帆たん。『くっ、殺せ』って言ってみて?出来ればすごく悔しそうな顔で」

 

「はぁ!?」

 

「…父さん」

 

鈴羽が尻ポケットあたりに手をかける素振りを見せると——。

 

 

「サ、サーセン」

 

至はすぐに首をすくめて謝った。最近はこうするだけで、至の下らない冗談を遮ることが出来る。

 

扱い方に慣れてきたのは、いい事なのか悲しい事なのか。未来の父はもっと格好良かった。鈴羽がこんなことをする必要がないほどに。

 

「まぁ、とにかく近々そっちへ行くわ」

 

「分かった。日程が決まったら連絡を。それと比屋定さん。出勤するなら、もう一度鏡を見てからにした方がいい」

 

ビデオチャットを切る寸前の真帆に、鈴羽はそう忠告した。

 

「……?」

 

真帆はビデオチャットを切らずに席を立つと、クローゼットへと歩いて行った。画面からは消えたがやがて——。

 

 

「ひぎゃー!」

 

自分のひどい姿を見たのだろう。女性らしからぬ悲鳴が響いた。

 

「はぁ~危なかった。鈴羽の母さんが真帆たんになるところだったお」

 

至が後頭部に銃を突き付けられたのは言うまでもない。

 

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