STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「あいてててて……」
至は腕を摩りつつ、床に落ちたドクペの缶を一つ拾って手渡してきた。
「悩んでたのってそれだったん?」
「え?」
ドクペを受け取りつつ、鈴羽はポカンと口を開ける。
至はため息を吐いた。
「まったく、水臭いにもほどがあるお。ボクらは親子なんだ。相談くらいしろっての」
「と、父さん…」
再び至が真剣な顔になっている。
「あきらめんの早すぎだろ?」
「でも……おじさんを過去に連れて行くのはあたしの使命なのに……」
「未来のボクは、一度失敗したからって、鈴羽に失望するような血も涙もないような父親だったん?」
「そんなことは……」
「だろ?それに鈴羽はじゅうぶん頑張ってるって。ボクは絶対鈴羽に失望したりなんかしない。未来のボクもだ。保証するお」
「…………」
「オカリンはさ、今は疲れて眠ってるだけだお。冷たいドクペでも首筋に当ててやれば、跳び起きるんじゃね?なんせほら、あのオカリンだし」
「……うん」
至が自分に失望なんてしないことくらい分かってる。使命なんかよりも、鈴羽の身の安全を優先するだろう。
でも、そんな優しい父親だからこそ、その期待には応えたいのだ。立派な父親に並んで立てるような自分でありたいと思うのだ。
「なぁ鈴羽。一つ訊きたいことが……って、あっ!」
「マズい!」
その時、階段を上ってくる足音と、調子の外れた下手くそな鼻歌がラボの中にまで聞こえてきた。
鈴羽と至は顔を見合わせた。音だけで、瞬時にそれが誰であるかを2人は理解した。
「隠れろ鈴羽!」
「オーキードーキー!」
鈴羽の動きは素早かった。足音も立てずに、ラボの最奥にある開発室、そのカーテンの向こう側にある狭いスペースに飛び込む。鈴羽がデスクの下に潜り込むのとほぼ同時に、ラボのドアがノックされた。
「こんにちは~」
2人の判断は間違いじゃなかった。
「まゆりちゃ~ん?」
「あーはいはい。今開けるお!」
至がドアを開ける。
「橋田さん。こんにちは」
「あー阿万音氏。今日はまゆ氏と待ち合わせ?」
入って来たのは、阿万音由季。鈴羽の母親だ。
「はい。お料理の特訓をすることになってるんですけど…」
「まゆ氏、まだ来てないんだよね」
「ここで待っていてもいいですか?」
「おkおk。まゆ氏もすぐ来るだろうし。ここで料理もするんでしょ?」
由季はビニール袋を手に提げている。食材が入っているのだろう。
「はい。橋田さんも是非、味見してくださいね」
「ま、まゆ氏のは……あんまり食べたくないお」
「大丈夫ですよ。まゆりちゃん、すごく上達してるんですから」
「へ、へぇ…」
至は明らかに緊張していた。女性に耐性があるタイプでないのは鈴羽も知っているが、ラボ周りの女性陣と話す時もこうはならない。
阿万音由季が自分の母——至のお嫁さんになるということを、伝えるべきではなかったか、と後悔していた。だが、伝えなければそれはそれで、両親が結婚しないという可能性も出てくるため、悩みどころだったのだ。
「あの、今日は妹さんはお留守ですか?」
「え、あ…うん」
「そうですか…」
鈴羽としては、由季と顔を合わせるつもりはなかったのだ。だが、鈴羽がラボで生活をし始めたのと同時期くらいに、由季がここに顔を出すようになった。
全く顔を合わせないというのも難しく、仕方なく至の妹だと名乗ったのだ。とはいえ、長時間話していると、ボロが出そうになるため、こうして鈴羽は隠れているのだ。
至としては、せっかくなのだから母親と話せばいいのにと思っているのだが。
「あ、そうそう。どうですこの服。前に買ったんですけど……似合ってますか?」
至に見せるために、ファッションショーのように部屋の中央でくるっと回ってみせている。
コスプレイヤーというだけあって、自分のファッションをいろんな人に見て貰いたいという意識があるのだろう。まゆりに教えてもらっていた。
「うん!いいよ。すごくいい!」
「ホントですか?」
これも鈴羽とまゆりの作戦だ。至はファッションなど分からない。鈴羽にしてもそうだが——。
とにかく、由季が服を見せてきたら、細かいことは言わずにただただ褒める事。それを徹底されていたのだ。
「うはぁ。天使ktkr!って感じ!」
「ありがとうございます!」
今の言葉で由季にも通じたのだろう。鈴羽には意味が分からなかったが。
「橋田さんもオシャレしましょうよ。ちょっとだけ痩せれば、けっこう素敵だと思うなー」
「は、ははは…」
「私、本気ですよー?」
「お、おう」