STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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ビデオチャットを終え、一息つく。

 

鈴羽はタイムトラベラーになる前の自分の記憶をざっと思い返してみる。真帆とのビデオチャットの後には、これをするのが習慣になっている。

 

「タイムマシン開発の協力者……比屋定真帆、か」

 

真帆とタイムマシン開発について話し合ったのは、至のバイト先が襲われた翌日のこと。鈴羽としては本意ではなかった。だが、成り行き上、話さねばならなかったことは理解している。

 

これまで鈴羽は、岡部に近づく人間は敵かもしれないと疑ってかかってきた。岡部がいかに諦めていようと、岡部に接触することで得られる情報は多い。真帆に対しても、鈴羽は警戒を怠ってはいなかった。

 

秘密を明かしてしまった以上、変に態度を悪くするよりは少しくらいは親し気に話しておいた方が警戒されないだろうと考えて、鈴羽は態度を一転させたのだ。

 

これから開発を続けるという事は、未来で、真帆がワルキューレに合流するということを意味する。だが、ワルキューレ内で比屋定真帆という人間を見た記憶は鈴羽にはない。

 

「父さんの仲間に、比屋定って名前の人はいなかったんだよね」

 

「え、そうなん?」

 

「という事は、どこかのタイミングで開発メンバーから抜けるってことじゃないかな。自分の意志なのか、それ以外の外的要因なのかは分からないけど。少なくとも、開発の主要メンバーじゃなかったと思う」

 

「そうなのかー。かなり頼もしい人だけどなー」

 

あまり考えたくはないが、どこかのスパイという可能性もあるのだ。だが、至は全く警戒していない。この時代の至に、何もかもを疑えというのは無理だと分かっている。だが、あまりの危機感の無さには困っているのだ。

 

「…あらゆる可能性は考慮しておいてほしい。第三次世界大戦前の情報戦はもう始まっているんだ」

 

「うーん」

 

「どっちにしろ、マシンの秘密が無駄に漏れるのは困るよ。それだけは徹底するよう、ちゃんと注意しておいてよね」

 

「う、うん」

 

「で、この先のタイムマシン開発はどう進めていくつもり?」

 

「んー。やっぱオカリンの協力がないとなー」

 

「結局、そこなんだよね。オカリンおじさん。やっぱ無理なのかな……。こうなったら、力づくで…」

 

「前にそれしようとして失敗したのはどこの誰だっけ?」

 

「………」

 

岡部は銃を突きつけられてもタイムマシンに乗ろうとはしなかった。それだけ決意は固いということだ。

 

鈴羽は歯噛みをするが、こればかりはどうしようもない。仮に無理やり連れて行ったとしても、きっと失敗する。かつて岡部が言った通り、普通のやり方では牧瀬紅莉栖は救えないのだ。

 

鈴羽は、牧瀬紅莉栖の救出に、一度失敗することは手順として聞かされていた。その上で、二度目の救出に向かえと指示を受けていた。

 

具体的な方法については聞かされていない。

 

それもそのはずだ。鈴羽がいた未来でも、岡部は二度目の救出には出向いていない。二度目の救出に向かい、牧瀬紅莉栖を助けられたのなら、ここはすでにシュタインズゲートであるはずだからだ。

 

おそらく、未来でも答えが出せなかったのだろう。だからなにがなんでも鈴羽は岡部をもう一度過去へ連れて行かねばならなかった。

 

だが——。

 

 

 

「オカリンおじさんのことは、まぁいいや。それよりも——」

 

岡部を再起させることが現実的ではないことは理解している。だからこの一年、鈴羽は別のアプローチを考えていた。

 

「母さんとはうまくやれてる?」

 

ふと気になって由季のことを訊いてみた。

 

「んあ?」

 

しかし、至から返ってきたのは情けない返事だった。

 

「あたし、そっちの方も心配なんだ…。あたしが生まれてこなくなるような事態にならないよね?」

 

「あーなんつーの?タイムマシンよりも難題?」

 

「ちょっとー!」

 

鈴羽は至に詰め寄った。

 

「困るよ、父さん!」

 

「う、うん。パパ、頑張るからね」

 

「いっつも口ばっかり。結局、例の映画のチケットも無駄にしちゃったんでしょう?」

 

クリスマスパーティでまゆりやフェイリスが仕掛けた作戦によりお膳立てした、ペアの映画チケットの事である。

 

「あ、あれはさ、オカリンとフブキ氏が倒れちゃったじゃん!その後、お見舞いとかでバタバタしてるうちに、映画が終わっちゃってたわけで……しょうがないっつーか……」

 

「でも、その後、新しいチケットを用意しようとしたら、断ったって聞いたけど?」

 

「ちょっ、誰に⁉」

 

「まゆねえさんとルミねえさんに決まってるじゃないか!」

 

女の子に頼りきりの男はダメだとか、くだらない言い訳を至は繰り返した。

 

これは本当に難題かもしれない。

 

至が奥手なのは見ていても分かる。自分に自信がなく、積極的になれないのも理解できる。未来を知っている分、変に意識してしまうのも仕方のないことではあるが——。

 

 

「それにしたって、母さんのこと、避けてるような気がするんだけど…。もしかして、好きじゃないの?」

 

「そ、そそそ、そんなことないお!」

 

「じゃあどうして避けるのさ⁉世界線のこともあるけどさ、あたしは父さんと母さんには仲良くしていてほしいんだよね」

 

「う、うぅ……」

 

自分が焦っていることも鈴羽は理解している。

 

由季の方もまんざらでもないようだが、周囲がたきつけてしまっている感は否めない。

 

もう少し自由にさせてやりたいところではあるのだが。鈴羽は由季とは未来で死別している。

 

鈴羽の身体に消えない傷を残して。

 

自分も一晩中泣いていたが、普段は涙など見せない至もまた、泣いていた。

 

「あたし、いつまでもこうやってお説教出来ないんだからね?もうすぐ行っちゃうんだよ?」

 

タイムリミットはもう、すぐそこまで来ている。タイムマシンに残された時間はもうほとんどない。否が応でも、鈴羽は行かなければならない。だから、いなくなってしまう前に見て安心したいのだ。

 

「あ………」

 

至の目が、いきなり寂しそうに伏せられる。

 

「そういう顔しない。約束したはずだよ、もう迷うのはやめにしようって」

 

この半年、鈴羽はずっと考え続けていた。この世界線を無かった事にしてしまうのが正しいのかどうか。繰り返し迷い続けていた。しかし、そんな時、最後に背中を押してくれたのは、他ならぬ至の存在であり、言葉なのだ。

 

「ごめん……」

 

肩を落とす至を見かねて、鈴羽はその大きな背中を掌で叩いた。

 

「しょぼくれてないで、母さんにメールして。予定の空いてる日がないか訊いて。で、空いてたら映画に誘う」

 

「げー⁉いきなりハードル高杉!」

 

「高杉でもなんでもいいから誘いなさい!いい?これは命令だからね!」

 

「め、命令て…」

 

「返事は?」

 

「サー、イエス、サー!」

 

その返事に満足し、鈴羽はシャワーを浴びるべく洗面所へ向かった。

 

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