STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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至はスマホを取り出し、メールのアプリアイコンをタップする。

 

(避けてるってわけじゃないんだけどな…)

 

照れているというのはある。未来のお嫁さんになる人だと思うと、緊張してしまって逃げ出したくなることもある。

 

だが、それ以上に気が進まない理由があるのだ。

 

(巻き込んじゃうのが分かってるからなぁ…)

 

第三次世界大戦。タイムマシン開発。そして、鈴羽を庇って死ぬ未来。

 

由季にはそんな運命を背負わせなければならない。

 

そして、2人の間に生まれてくる鈴羽にも、酷な使命を背負わせてしまう。

 

シュタインズゲートに到達するため、と自分に言い聞かせてなんとか踏ん張ってはいるが、やはり気は進まない。

 

それに——。

 

 

 

(阿万音氏。何かを抱えてるような気がするんだよね)

 

言い知れぬ、何か予感めいたものを由季に感じていた。

 

「あ、でもその前に、ちょっとだけコンビニに行ってくる…」

 

「……何しに?」

 

至の声に反応して、服を脱ぎかけの鈴羽が洗面所から顔を出す。

 

「ちょっ!なんつーエロい格好をしてるんだお!はぁはぁ…全くけしからんっ!」

 

「娘相手に何言ってんのさっ!」

 

手に持っていた上着を勢いよく投げつけた。

 

 

 

「それで、何しにコンビニに行くの?」

 

「あ、いや…実は夕食がまだっつーか……。今夜も徹夜になりそうだし、遅くならないうちに買い出しを、と——」

 

至は鈴羽に怯えながら、開発室の方を指さした。その指の先には、組み立ては終わったもののいまだ試行錯誤中の『電話レンジ(仮)弐号機』が見えた。

 

「…………」

 

「ひいっ!にらまないでっ!なるべく太らないようなモノを食べますんで、なにとぞお許しをっ!」

 

これではまるで鬼かなにかのようじゃないか。実の娘に怯える父親とは、なんと情けないことか。

 

「……バニラ」

 

「はい?」

 

「あたし、シャワー出たら、アイス食べたい。バニラ」

 

「うん、分かった!庶民がなかなか口に出来ない高級なヤツを、いっぱい買ってきてあげるお!」

 

「いっぱいはいらないよ。ひとつでいい」

 

「サー、イエス、サー!」

 

至は急に元気を取り戻し、財布を持ってラボを飛び出していった。

 

「まったく…」

 

自分から言い出しておいてなんだが、至は鈴羽に対して財布の紐が緩い。

 

いらないといっているのに、鈴羽が好きなものをこれでもかというほど買ってくる。好きに使えと言って、お小遣いもくれる。

 

バイトで稼いでいるお金なのだろうが、自分に使う分があるのなら、タイムマシン開発に少しでも充てるべきだ。

 

とはいえ、まだ結婚すらしていない至が、父親としての自覚を持ち、自分を甘やかしてくれることに、言葉とは裏腹に鈴羽は喜びを隠せていない。

 

自分の頬がだらしなくにやけてしまっているのに気づいて、パンッと喝を入れる。

 

「ありがとう。父さん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今度こそシャワーを浴びようと洗面所に戻ると——。

 

 

「鈴羽~」

 

ガチャリとドアが開いた。

 

出ていったはずの至がすぐに戻って来た。

 

「どうかした?」

 

「階段のところにさ、こんなの落ちてたんだよね」

 

至は手に持ったキーホルダーを見せてきた。くすんだ緑色をした丸いキャラクター。それは……。

 

「うーぱ…」

 

「誰のか分かる?」

 

「まゆねえさんじゃないの?」

 

顔を近づけてよく観察しようとする。その瞬間、まるでデジャヴのような感覚を味わった。

 

「このうーぱ、どこかで…」

 

見たことがあるような気がする。

 

誰のものか、いつ見たのかは思い出せない。

 

だが——。

 

 

鈴羽の本能が警鐘を鳴らしていた。このキーホルダーはとても重大な意味を持つものだと。

 

くすんではいるが、汚れてはいない。古い物なのかもしれないが、持ち主がかなり大切にしてきたものだと分かる。

 

チェーン部分が経年劣化を起こし、ぽっきりと折れている部分がある。そのせいで落としたのだろう。

 

「どこだっただろう…。どこかで見た」

 

「まゆ氏に見せてもらったとか?」

 

まゆりが持っているにしては、古すぎる気がする。1年や2年ではない。製造から10年以上は経っているような劣化具合。そこで、鈴羽の脳裏に啓示のようにある言葉がよぎった。

 

 

 

『ママがずっと大切にしてきた“うーぱ”のキーホルダーだよ。かがりちゃんにあげる。大事にしてね』

 

 

 

「……っ!」

 

鈴羽は思わず息を呑んだ。背筋に名状しがたい戦慄が走る。

 

「ま、まさか…これ……」

 

「え、どうしたん?」

 

「か、かがりの…か?」

 

あのときだ。2036年8月13日。鈴羽がタイムマシンに乗り込んだあの日。そこでこのうーぱを見た。

 

「かがり…って、もしかして未来のまゆ氏の娘?」

 

「…うん」

 

「まだ見つけられてなかったはずだけど…」

 

「うん。でも、向こうはこっちを認識しているんだ」

 

「つ、つまりどういうことだってばよ」

 

「あいつ…このラボを監視してるんだよ」

 

2010年12月5日。ラジ館の屋上でタイムマシンの監視をしていたライダースーツの人物。鈴羽が気づいて追ったものの、逃げられてしまったあの人物。鈴羽はそれをかがりだと確信していた。

 

だからこそずっと捜していた。

 

タイムマシンを狙っていると思い、ラジ館の周辺を見張っていたのだ。だが、まさかラボの方を監視しているとは思っていなかった。

 

「でも、考えれば当たり前の事だったんだ。あいつは、あたしたちがシュタインズゲートに到達するのを阻止しようとしてる。この世界を、なかったことにしたくないと思ってる。ということは、あたしだけじゃなくて、父さんもマークされてる…?」

 

「えー、ボク?」

 

「まだ、父さんの命に危険はない…とは思うんだ。世界線の摂理を信じるなら、父さんは、少なくとも2036年までは生きるはずだし。それよりも、研究の邪魔をしてくるかもしれない」

 

鈴羽、至、真帆、岡部。その周辺ではなにかと物騒な事が連続して起こっている。その標的が至であった可能性だってある。

 

鈴羽は至に、用心するよう促して、うーぱのキーホルダーを預かった。

 

「なー鈴羽。かがりたんって、血は繋がってないけど、まゆ氏の娘なんだよね?」

 

「そうだよ」

 

「あのまゆ氏に育ててもらった子が、人を襲うような恐ろしい人間になるんかな…?」

 

それは、確かにそうだ。

 

「なんか、鈴羽の話とイメージが重ならないっつーか。…もっと優しくて、ほわほわしてて、かわいい女の子になってるんじゃないかなーとか思ったり」

 

「うん。あたしも前はそうなると思ってた。けど、今のかがりはたぶん…」

 

ラジ館の屋上から逃走するかがりを追ったときの雰囲気で理解した。間違いなくプロの戦闘訓練を受けている。

 

子供の頃に鈴羽が教えた程度の護身術ではなく、もっと年齢を重ねた後、冷酷な殺人の技術を教えられ、それを身に着けているはずだ。

 

そうなるまでの経緯は分からないが。

 

1998年からもう13年。どうしてこうなってしまったのかと、悔やんでも悔やみきれなかった。

 

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