STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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目を覚ますと、鈴羽はソファの上で寝ていた。眠る前の記憶が繋がらず、頭をフル回転させる。

 

そうだ。うーぱを取りにやって来たかがりと戦ったのだ。結局は逃げられてしまって、階下で至と話してそのまま…。

 

「父さん!」

 

ガバッと身を起こす。全身に痛みが走ったが、そんなことは気にしていられない。

 

あの後、至はどうなったのだ?

 

かがりがもう一度襲撃してくる可能性もある。至の安全を確保する前に気を失ってしまうなんて、戦士失格だ。

 

そんなことを思いながら部屋を見回す。すると、床に座ったままソファに身を預け、寝息を立てている至を発見した。

 

「んあ……すずは、起きたん?」

 

気怠そうに至が目を覚ます。

 

どうやら無事のようだ。それに安心して、胸を撫でおろす。

 

「ごめん。起こしちゃった…」

 

「いいや、大丈夫だお。鈴羽の方こそ、よく寝れたん?」

 

至は目を擦りながらそう尋ねてくる。

 

「うん。身体はあちこち痛いけど、もう大丈夫」

 

「無理しないほうがいいお。なんなら父さんが全身マッサージをしてあげてもいいのだぜ?」

 

ごく自然にそう言われ、身体の痛む個所を確かめる。

 

「うん。お願いしようかな。結構揉みほぐさないと、後に響くかも…」

 

「えっ⁉mjd⁉いいん?父さんがやってもいいん⁉」

 

異様な食いつきを見せる至に、鈴羽はようやく理解する。

 

マッサージにかこつけて身体を触りたいのだ。いつものエッチなやつだったのだ。

 

「娘の身体なんて触ってどうするのさ……」

 

これみよがしにため息を吐く。

 

「それはその……娘と言ってもボクと同い年なわけで…」

 

これくらいの積極性を由季に対しても持ってほしいところだ。だが、いきなり同い年の娘が目の前に現れたら、何を思うのだろうか。至のように、すぐに受け入れられるとは思えない。事実だったとしても、目の前にいるのが娘だという実感は持てないだろう。

 

「…ずっとそんなところで寝てたの?」

 

すぐに事情を理解して受け入れてくれたことに感謝しつつ、照れ隠しのために話題を逸らした。

 

「家に帰って寝ればよかったのに…」

 

鈴羽がこの時代に来てから、至はラボに泊まる事が多くなった。それはもちろん鈴羽のためだ。

 

一人で寝れない子供ではないのだから、自分だけでも家で寝ればいいと何度も言ってきた。

 

だが、その度に、好きでやっていることだから、と言われてきたのだ。

 

「あんな状態の鈴羽をひとりで放っておくわけにいかんだろ常考。あ、それともお父さんと一緒に寝るのは嫌ぁ!とか?反抗期だなんて、お父さん悲しくて泣いちゃうっ!」

 

それは反抗期と言うよりも思春期だ。もちろん、鈴羽にはそんな思いはこれっぽっちもない。

 

「別に、一緒に寝られるならその方がいいけど…」

 

「ぬあっ⁉」

 

これまたおかしな反応を見せる。

 

「ど、どうしたの?」

 

「い、いや…お父さんと一緒に寝たいなんて、嬉しすぐるだろ常考!」

 

「………?」

 

鈴羽としては、隣で寝ていてくれた方が何かあった際に対応しやすい。だからそう言ったのだが。

 

「シュタインズゲートに行っても、このままの鈴羽が生まれてきますように…」

 

なぜか至は切実に祈っていた。

 

 

 

シャワーを浴びて戻って来ると、至はダイエットコーラを飲んでいた。本当に好きだな、と思いながら、至に同じものを手渡され、鈴羽も口を付ける。

 

「…落ち着いた?」

 

「…うん」

 

「怪我、ないみたいでよかったお」

 

全身が痛むし、筋肉痛で身体が軋んでいるが、特に目立った外傷はない。娘の柔肌に傷がついていなくて、至は心底ホッとしている。

 

「父さん…あたし……」

 

「うん?」

 

「かがりのこと……」

 

言いたいことがまとまらなかったのか、言葉はそこで途切れた。至は少し待ってから、二の句を続ける。

 

「かがりたんが、無事に生きていたってだけでもよかったじゃん。鈴羽がかがりたんを捜してるって聞いたときは、最悪の場合だって考えてたしさ」

 

わずか10歳の少女が一人で生きていけるほど、この時代の日本も優しくはない。

 

「それは……」

 

かがりが生きていて、ラボにやって来たという事は、タイムマシンを狙っている勢力があることを至たちに確信させる。昨年末の一件で、タイムマシンの位置もバレているのは確実だろう。

 

かがりを利用しているのか、かがりが利用しているのか。

 

かがりはラボの中をよく知っていた。もしかすると、岡部やまゆりたちの関係者の中にスパイがいるのかもしれない。

 

だが、至はそのことを口にしなかった。それについてはこれから調べていけばいいことだ。

 

「これで一歩前進だ。自分を責めてばっかりいないで、鈴羽は前を向くべき!これは父さんからの命令なのだぜ!」

 

至がビシッと敬礼をする。鈴羽もそれにつられて反射的に敬礼を返す。軍属時代の名残だ。

 

「さ、こんなときは気分を変えて、ご飯でも食べに行くお!」

 

至は意気揚々と立ち上がってそう言った。

 

「ちょ、ちょっと!いつ襲われるか分からないのに、安易に外に出るのは…」

 

鈴羽の言葉を遮るように、手を突き出して待ったをかける。

 

「鈴羽の大好きなゴーゴーカレーに連れて行ってあげるお!今ならなんとトッピングも乗せ放題!」

 

「なっ……」

 

ゴーゴーカレーは鈴羽の月に一度の楽しみだ。この時代には遊びに来ているわけではないのだから、と至からお小遣いをもらっても使わないままのことが多い鈴羽。

 

だが、そんな鈴羽の唯一の楽しみが、ゴーゴーカレーなのだ。

 

戦時中に育った鈴羽にとって、食べられるときに食べておくのが常識だ。気づけば至と同じく大食漢になっていた。その中でもメジャーカレーというメニューが至高だ。

 

巨大な銀の皿いっぱいにライスとカレーが盛られ、その上にこれまた巨大なカツが2枚とエビフライとソーセージ、ゆで卵と山盛りのキャベツがトッピングされてる。通常メニューの2倍から3倍のカレーにトッピング全部乗せ的な怪物メニューだ。食べ盛りの若い男性でも完食するのは容易ではない。

 

「お、目が揺らいでるお!カツを追加してもいいし、エビフライだって奮発するお!さぁさぁ、食べたくなってきたっしょ?」

 

鈴羽はそこに、さらなるトッピングをする。店員はいつも呆れ顔だ。女性には到底食べきれないはずのカレーを、まるで飲み物を飲むかのようにさらりと流し込むのだ。

 

「べ、別にそんな…」

 

「あぁ~。行きたくないんなら、ボクひとりで行ってくるお。じゃあ鈴羽は昨日買ってきたアイスでも食べてるといいのだぜ」

 

至は鈴羽を寝かせた後、コンビニで大量に買ってきた高級アイスを冷凍庫に入れておいた。

 

「ば、バニラ…」

 

それはそれでそそられるものがある。一度高級な味を覚えてしまうと、もう元には戻れなくなってしまう。

 

「一緒に行こう鈴羽。な?」

 

そんな風に言われてしまっては、ダメだとも言えなくなる。

 

「…うん」

 

痩せさせようとしているのに、ゴーゴーカレーなんて行かせてしまってはまた太ってしまうが、今日ばかりは大目に見ておくことにした。

 

「…ありがとう。父さん」

 

「ボクたち親子だろ?気にするなって」

 

 

かがりの事が頭に浮かぶ。

 

この世界線をなかったことにしたくない。かがりのその想いが、痛いほどに理解できてしまう。この時代の、至との想い出が消えてしまうことが、寂しくて仕方がない。

 

(あたしにも、リーディングシュタイナーがあればいいのに…)

 

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