STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
結局、そのあと由季と鈴羽の2人でメジャーカレーの早食い対決をして、驚くべきことに両者とも完璧に完食した。
ほんのわずかの差で鈴羽が勝利をおさめたが、店内の客のみならず、店員からも拍手が起こるほどの白熱した試合展開だった。もちろん至も完食していた。
だが、その間も終始無言で、これではデートどころか会話にもならないので、至だけ先に帰らせた。
出来れば、至の不甲斐なさを今すぐにでも本人に問いただしたかったのだが、ふと考え直して、由季と2人きりで話しておくことにしたのだ。
今までは正体がバレることを恐れて露骨に避けていたが、今はすでに7月。あと少しで鈴羽はこの時代からいなくなる。
由季と——母とゆっくり話せるのは、これが最後のチャンスかもしれなかった。
「ふぅ。鈴羽さんがいてくれて助かりました……」
至を見送った後、由季が小さくため息をついた。
「私、もしかしたら気に障るようなことしちゃったのかもしれません…。橋田さん。私といてもあんまり楽しくないみたいだったから……」
「単に……緊張してただけ、じゃないかな?」
女性に対して免疫のない至だ。初デートがこんな美人とあっては、緊張するのも納得ではある。
「でも、映画を観る前は、楽しそうにお話してくれてたんですよ?それが、映画の後はすっかりよそよそしくなってしまって……。私、何か間違っちゃったのかなぁ…」
確かに、至の動きがぎこちなくなったのは映画館から出てきたあとからだった。さすがに映画館には入らなかった。適当に外で時間を潰していたのだが、そのときに何かあったのだろうか?
「カレー屋さんに連れて行ってもらったのも、私のリクエストだったんですけど……ずっとあの調子だったから、さすがにちょっと困ってしまって……。それで、偶然お店にいた鈴羽さんに助けを求めたというわけなんです」
「…………」
至の方がつれない態度をとっているという事が腹立たしい。一世一代の大勝負の日だったのだ。うまく立ち回ってくれればと、今さら思っても後の祭りだが…。
「あのさ」
由季の方は、至に少しは気があるように思えた。だから言ってしまった。
「……由紀さんは、なんで兄さんの事、好きになったの?」
「え?ええっ⁉」
「いや、あたしが言うのもなんだけど、あんまりモテるタイプじゃないじゃん、兄さんって」
「……鈴羽さんは、お兄さんのこと、どう思います?」
「あたし?」
「好きですか?嫌いですか?」
「あ………」
「好き、ですよね。見ていれば分かります」
「まぁ……うん」
気に入らない事は多々あるが、もちろん鈴羽は父の事が大好きだった。
「って、あたしの事は別にどうでもいいじゃないか」
「ふふふ」
「それで、由紀さんは?」
「…私は、まだ……好きかどうかも、よく分からないです」
「…そ、そっか」
未来を知っているから、先走ってしまったのだ。
だが、そこで鈴羽は考える。
確かに至は由季に告白するどころか、今日が初デートだったぐらいだ。
そこまで頻繁に会って話しているわけでもない。まだ、異性として認識してもらえる段階にもたどり着けていないということだろう。まゆりとフェイリスの助けもあって、2人をくっつけようとあれこれやってきたが、大した進展は見られない。
そのことに、言い知れぬ不安を覚えた。
自分の父さんが父さんじゃなくなって。自分の母さんが母さんじゃなくなって。父さんと母さんが一緒にいない。
そんな未来を想像して——。
(そんなの、嫌だ……)
この最低の世界線で、2人が仲睦まじく暮らしていることだけが救いだったのだ。娘の幸せを心の底から願ってくれる両親に囲まれて暮らす、温かな空間。
それを支えにして、維持するために、シュタインズゲートを目指してきたのだから。
鈴羽は真正面から由季の目を見つめた。
「あたしさ、もうすぐここからいなくなるんだ」
「え?」
「ちょっと、遠いところに引っ越すんだよね」
「そ、そうなんですか⁉」
「たぶん、戻ってこないと思う。…心配なんだ。父さ……兄さんの事。だからさ、由季さん。こんな事、あたしが頼むのもおかしな話なんだけど——」
そこで鈴羽は深々と頭を下げた。
「橋田至を、よろしくお願いします!」
由季の返事はない。鈴羽は恐る恐る顔を上げ、由季の表情をうかがった。
「…………」
その表情はどこか寂し気で、どこか悲しげで。
「私は、どうしたいんでしょうね……」
由季がポツリとつぶやいた言葉に鈴羽は——。