STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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「あーもう!どうするんだよ!これじゃ破局の危機だよ!まだ始まってもいないけど!」

 

ラボに戻るなり、鈴羽は不甲斐ない至を怒鳴りつけた。

 

「うぉぉ~ん、鈴羽、ごめんな~。橋田家はもうダメなんだお~」

 

「しょぼくれてるんじゃない!シャレじゃすまないんだ!とりあえず、今日はなんであんな態度を取ったのか、しっかり説明して!今朝、出かける時はあんなに楽しそうだったじゃないか。母さんだって、映画の途中までは普通だったって言ってたし!」

 

「うん……」

 

「いったい何があったの⁉」

 

「いや、それがさ、聞いてくれよぅ…」

 

モジモジしながら至が話し出す。

 

「映画の座席って狭いじゃん?だからボク、阿万音氏の邪魔にならないようにと思って、出来るだけ椅子の端っこに寄って座ってたんだよね。そしたら、椅子がベキッっていって壊れそうになって…」

 

「えっ?」

 

映画館の椅子が壊れる?何を言っているのだろうか。

 

「で、慌てて身体を支えようとして、ひじかけを掴んだんだけど——」

 

そこまで言って至は顔を真っ赤にする。

 

「そ、それが……それがっ!ひじかけじゃなくって、阿万音氏の……その……手だったんだお~!」

 

「……うん?」

 

そんなことを由季は一言も言っていなかった。

 

「嘘じゃないお!あの柔らかい感触はひじかけのはずがない!女の子の手に決まってる!」

 

途端、興奮し出してワナワナと体を震わせる。

 

「そ、そう…」

 

「ただボク、女の子と手をつなぐなんて、二次元ならともかく、三次元じゃほとんど経験なくて……ううう……」

 

「それで?どうしたの?」

 

「阿万音氏優しいからさ……ボクを傷つけないようにと思ったのか、その手を振りほどかないんだお……。ボクってこの体型じゃん?手汗とかかきまくりじゃん?ベッタベッタになるわけじゃん?なのに阿万音氏、なんにも言わずそのままで……」

 

だからあれほど痩せろと言ったのだ。自分に自信が持てないのなら、地道に努力を重ねていくしかない。

 

「なんか、それからすっごく意識するようになっちゃって……」

 

「あー、なるほどね。それであんなにポンコツになってたのか……」

 

「阿万音氏もきっと心の中で、『キモイウザい離せHENTAI』って思ってたに違いないお……」

 

「母さんはそんな人間じゃないよ」

 

むしろ由季の言動を見ると、自分が失礼な事をして嫌われてしまったのではないかと気をもんでいたように思える。

問題はあの時の言葉だ。

 

 

 

『私は、どうしたいんでしょうね……』

 

 

 

あれはいったいどういう意味だったのか。

 

「母さんが分からない…」

 

「鈴羽~、こうなったら母さんの事はあきらめて、ボクとふたりで仲良く生きていこう~」

 

「言ってることがめちゃくちゃだよ!そもそも、あたしはどうやって生まれてくればいいんだっ!」

 

「うう……でも無理だって~」

 

「父さんが頑張らないでどうするの⁉このピンチをチャンスに変えるんだよ!」

 

鈴羽は至の胸ぐらを掴み、その巨体を揺さぶった。

 

「あう~」

 

娘にされるがままに振り回される実の父。情けなさすぎる。

 

「でないと……」

 

別れ際の少し寂し気な由季の表情。

 

「…でないと、取り返しが付かないことになるよ?」

 

「ですよね……」

 

 

 

 

 

 

 

と、その時、ラボのあるビルの前で、車の停まる音がした。

 

「到着だニャ―。お疲れさまでしたー」

 

開け放った窓の外から響いてきたのは知った声だった。

 

「お?フェイリスたんの声じゃね?」

 

鈴羽が至の胸ぐらから手を離して窓に近寄ると、階下に見慣れた一団が見えた。岡部倫太郎、椎名まゆり、フェイリス・ニャンニャン。そして比屋定真帆の姿もあった。

 

「比屋定さん。もう到着してたのか。でもなんで、オカリンおじさんたちと一緒なんだろう?」

 

そこで鈴羽はハッとして、部屋の中を振り返った。

 

「って、まずいよ!それ出しっぱなし!」

 

「え?」

 

鈴羽が指さした先——開発室のデスクの上には、開発中の『電話レンジ(仮)弐号機』が堂々と鎮座していた。

 

「あっ!やばいやばい!隠せーっ!」

 

「オーキードーキー!」

 

鈴羽は勢いよく開発室の方へ飛び込み、電話レンジ(仮)弐号機を偽装する。

 

「ダルニャン!スズニャン!まほニャンが来たのニャーっ!」

 

フェイリスが軽快にラボのドアを開ける。

 

「ふぇふぇふぇ、フェイリスたん!」

 

至が挙動不審にフェイリスを見つめると、フェイリスは何かに気付いたような顔を一瞬だけ見せた。

 

その瞬間、先頭に立っていたフェイリスは後ろを振り返り、後に続く全員にストップをかける。

 

「スズニャンがお着替え中ニャ!ストップニャーっ!」

 

すっかり失念していたフェイリスだったが、その挽回は素早かった。もっともらしい理由で全員を引き留める。

 

「ご、ごめん。もう着替え終わったよ!」

 

素早く鈴羽は偽装を終えて開発室から出てくると、申し訳なさそうに声をかけた。

 

その声にフェイリスがもう一度ドアを開け、中に入って来る。

 

「ごめんなのニャ。レディの聖域に気を遣えないニャンて、フェイリスはメイド失格なのニャ」

 

フェイリスの後ろから、真帆が心配そうな顔でラボの中を覗き込んでいる。

 

岡部がいるのは最後尾だ。まゆりは手を伸ばして岡部の目を隠している。

 

「そ、そんなにしなくても、覗いたりしないって……」

 

この場では岡部以外の全員が協力者だ。岡部がラボに近づく際には、必ず連絡を取り合っている。

 

だが、今日は真帆が来ることにテンションが上がり、すっかり失念していたのである。

 

リムジンの中でも真帆はフェイリスとまゆりにあれよあれよとお世話をされて、至に連絡をする暇もなかったのだ。

 

「お、オカリン。鈴羽の着替えを覗いたら許さないんだからね!」

 

「ダルまで何を言ってるんだよ…」

 

真帆としてはすぐにでも電話レンジの開発に着手したかったのだが、こうも人が集まってしまうと言い出すわけにもいかない。時間を無駄にしているな、と思いつつも、仕方ないと諦めていた。

 

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