STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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(母さん。可愛いな……)

 

未来の由季も可愛らしい人だったが、それよりもずっと若い今の由季は、母親というフィルターを通さずに見れる分、より可愛く美しく映る。

 

戦時中でも、由季は鈴羽に目一杯のおしゃれをさせようとしてくれていた。至の服も、全部由季が選んでいた。鈴羽が軍属になってからは、自分のファッションになど気を配る余裕もなかったため、由季が残念そうにしていたのを覚えている。

 

(あたしも、ああいう服着たら、似合うって言ってもらえるのかな…)

 

そんなことを考えて、鈴羽は首をぶんぶんと横に振る。ファッションなんてどうだっていいのだ。今はシュタインズゲートに辿り着く方法を考えなければならないのだから。

 

それからも、至と由季のぎこちない会話は続いた。

 

そんな中、鈴羽は父との最後の別れの瞬間を思い出していた。

 

 

 

 

2036年8月13日

 

 

「父さん、治安部隊が万世橋まで来てる」

 

「ということは、ここが発見されるのも時間の問題かな。あらかじめ流しておいたニセの情報も効果なかったか」

 

「急ごう」

 

「ああ。開けるぞ」

 

至は密閉されていたドアを開けた。

 

「すご~い。こんなところに扉があったなんて。これなら誰にも見つからないね」

 

まゆりが感心したように感想を漏らした。

 

「さぁ、中へ」

 

 

 

「ここって…」

 

鈴羽たちが足を踏み入れたのは、天井から床まで全て防音材に囲まれた殺風景な部屋だった。窓はもちろんのこと、廊下に通じるドアすらない。

 

この部屋のあるビルは、外観こそ第三次世界大戦末期の大空襲で焼かれ、無残な姿をさらしてしまっているが、かつて秋葉原駅前のシンボル的存在のひとつとして人々に親しまれていた。

 

ラジオ会館。

 

このビル内に、このような隠し部屋がある事を知っている人間はほとんどいない。

 

ここを秘密にしている最大の理由。

 

それが、部屋の一角に鎮座している、あたかも人工衛星のようなシルエットの物体だった。

 

「あ、これ……タイムマシン、だよね?」

 

懐かしいものを見た、という顔でまゆりはそれを見上げている。

 

「これが、タイムマシン?」

 

「かがり、危ないからあまり近づくな」

 

鈴羽が声をかけたのは、まゆりとずっと手を繋いでいる少女だ。この時代の少年少女なら、放射性物質を大量に含んだ雨による皮膚炎に身体のどこかを蝕まれているはずだが、彼女にそれはない。

 

名を、椎名かがりという。

 

戸籍上の年齢は10歳ということになっているが、本当にそうなのかは不明だ。なぜなら彼女は乳児期に、東京大空襲で両親を失った戦災孤児であり、生年月日すらハッキリしていないのだ。

 

“かがり”という名前は、児童養護施設に保護されたときに、施設の職員だったまゆりが名付けた。こんな暗黒の時代でも、みんなを照らす篝火であってほしいという願いからだ。

 

その後、まゆりが養女として引き取り、戸籍上の名前が椎名かがりとなって、すでに4年が経つ。

 

「きれいだね、ママ」

 

「……そう、ね」

 

鈴羽は椎名親子を下がらせると、タイムマシンのセンサーに右手と右目をかざした。生体認証が通り、ハッチが滑るように開く。

 

そのまま機内に乗り込んで、シートに身体を固定した。

 

「これほど長時間の有人ジャンプは初めてだが、技術的には全く問題ない。これまでのテストジャンプ通りやればいいからな」

 

「オーキードーキー」

 

鈴羽は答えながら、機器のスイッチを段取り通りにひとつずつ入れていく。この日が来ることを見越して、すでに何百回と起動順序を体に叩きこんであった。

 

かすかだった機体の唸りがだんだんと大きく力強くなっていく。

 

「データによれば、昔のラジ館はちょうどこの場所が屋上になってる。ただし、高さが1メートルほどズレてるからな。着地するときに衝撃があると思う」

 

「了解」

 

このタイムマシンは時間を跳躍することは出来ても、空間は移動できない。60年以上前のラジ館屋上に到着するためには、この座標から出発せざるを得ないのだ。

 

「トラブルが起きても冷静にな。トレーニングを思い出せばいい」

 

「大丈夫だよ。あたしは父さんのマシンを信じてるから」

 

その言葉に感動したのか、父が唇を突き出してきたので、鈴羽はそれを手でベシャリと押し返した。

 

「悲しいな…鈴羽は父さんが嫌いかい?」

 

「父さんがやると、なんか下心があるみたいだから」

 

そう言いつつも、これで最後になるのだし、キスくらいしてやればよかったかな、とも思う。

 

「いくらなんでも、娘相手に下心なんてねーよ」

 

「最近、母さんに似てきたハスハス……とか言ってたけど?」

 

母はこの場にはいなかった。この戦いの犠牲になって、治安部隊の手で無残に殺された。

 

「冗談を真に受けないでくれたまえ」

 

「なんだ、冗談だったの?」

 

あの美しく強い母に似てきたと言われ、喜んでいた鈴羽だったが、冗談だと言われ少し残念そうな顔をした。こんなやりとりをしつつも、到達時座標を1975年の8月13日にセットした。まずはそこで任務の一つをこなさなければならない。

 

「これでよし。それじゃあ父さん。まゆねえさん——」

 

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