STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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フェイリスたちが空港に行く前に買ってあったお菓子やジュースを広げて、ラボは軽い宴会になっていた。

 

「鈴羽さんも変わりないようでよかったわ」

 

ソファに腰掛けた真帆が、鈴羽に切り出した。ビデオチャットではよく話しているが、こうして直接顔を合わせるのは半年ぶりだ。

 

もうすぐタイムマシンに乗って行ってしまうということも聞いていた。最後に顔を見れて安心していたのだ。

 

「比屋定さんこそ。……目のクマがひどいのは相変わらずだね」

 

「……どうしても、ね。でも、せっかくこうして日本に来たのだから、ゆっくりさせてもらうわ」

 

と、岡部たちの方を見ながら、真帆はわざとらしく呟いた。

 

沖縄に行くというのは真っ赤な嘘だが、岡部には信じ込ませなければならない。

 

「…………」

 

「ん?鈴羽さん?」

 

急に鈴羽が黙り込んだ。

 

「そんなにも私の顔をマジマジと見つめて……何かついているのかしら?」

 

「…………」

 

「あの、えっと……」

 

鈴羽がジッと真帆の顔を見つめている。呼びかけても返事がなく、さすがに真帆も気まずくなってきた。

 

「だから鈴羽さん。私の顔に——」

 

「あぁぁぁああああっ!」

 

「ひゃうっ!」

 

途端、鈴羽が響き渡るような大声で叫んだ。

 

「す、鈴羽!どどど、どうしたん⁉」

 

「ビックリしたニャ―!危うくジュースをこぼすところだったのニャ……」

 

「スズさん、大丈夫?」

 

各々が心配そうに鈴羽を見つめる。

 

だが、鈴羽はそんなものを気にした様子もなく、ソファから身を乗り出し、真帆の顔にキスできるほどに自分の顔を寄せた。

 

「や、やっぱりそうだ!そうだったんだ!」

 

近くで大声を出され、鼓膜に穴が空くかと思った真帆は、困惑しながら鈴羽を引き離そうと両手で押し返している。

 

「きゅ、急に大きな声を出さないでちょうだい!心臓が止まるかと思ったじゃない!」

 

力を込めているが、体格の差もあって、鈴羽は一向に真帆の傍から離れない。

 

最後の一押しと、思いっきり押そうとした瞬間、鈴羽は勢いよく立ち上がった。

 

ピンと伸ばした真帆の腕が空を切り、真帆は勢いそのままにソファから前につんのめる。

 

「ひゃっ!」

 

「ちょ、大丈夫か⁉」

 

近くにいた岡部が、ソファから転げ落ちようとしている真帆をとっさに支えた。

 

「ちょっ!鈴羽!何してるんだお!」

 

大事に至らなかった真帆を前にして、謝る事もせずに、鈴羽はその場で飛び跳ねている。

 

「間違ってなかった!間違ってなかった!あたしは間違ってなかった!」

 

「す、スズさん……?」

 

見たことのないハイテンションな鈴羽に皆が困惑している。真帆もその様子に怒る気にもなれず、呆然としている。

 

「鈴羽、ちょっと来るお!」

 

おかしくなった娘に耐え切れなくなった至が、鈴羽の手を取ってラボから出て行く。溶けるような日差しの中、屋上まで連れて行く。

 

 

 

「落ち着けって鈴羽。どうしたんだお?」

 

「父さん!あたしは間違ってなかったんだ!」

 

「だから何のことか分かんねえって……」

 

鈴羽は満面の笑みだ。至がデートに失敗したことなど忘れてしまったかのような笑顔。至としては橋田家の絶望的な未来に鈴羽がおかしくなってしまったのかと思ったが。

 

「ちょっと鈴羽。いい加減説明してくれよ。真帆たんの顔をじっと見つめたかと思ったら急に叫び出して……。真帆たん、ソファから落ちかけてたじゃん」

 

「そうだよ!比屋定さんだよ!」

 

「だから真帆たんがどうしたんだよ……」

 

「さっきようやく気付いたんだ!比屋定さんは未来でもあたしたち『ワルキューレ』のメンバーなんだよ!」

 

「え、マジ?」

 

ついこの間は、未来のメンバーに比屋定真帆という人物はいない、と言っていたはずだ。

 

「父さんみたいに偽名を使ってたんだよ!比屋定さんが未来で使ってた名前は……あっ!」

 

至は、真帆が未来で仲間になることを喜んだのもつかの間、鈴羽がピタリと動きを止めたことで再び何かが起こったのかと不安になった。

 

「こ、今度は何だお?」

 

「…………」

 

途端に、鈴羽は顔を真っ赤にした。

 

「す、鈴羽?」

 

「……ごめん」

 

「いや、急に冷静になられても困るんだけど……。真帆たんが未来でボクらに合流するっているのは本当なん?」

 

至の質問に、鈴羽は小さく頷く。

 

「それはよかったけどさ。あんなにテンション高かったのに、どうして急に静かになったん?」

 

真帆の偽名がどうとか言っていた。

 

「い、いや……使ってた名前が違うから、今まで気づかなかったんだよね。恥ずかしながら、ク……比屋定さんがあの人だって気づいて嬉しくなっちゃって……」

 

「ク……?」

 

「だ、ダメだよ!未来のことは話しちゃダメなんだ!本当は比屋定さんが仲間になることだって、言っちゃいけなかったんだけど……」

 

もう、後の祭りである。使っていた偽名を隠したところで今さらだとは思う至だが。

 

「ま、気になるけどそれはいいお。真帆たんが仲間になってくれるってだけでも嬉しいし」

 

「……比屋定さんには、まだ言わないでおいて。もちろん、オカリンおじさんにも」

 

「分かってるって。鈴羽こそ、変な態度をとっちゃだめだお。それと真帆たんには謝るべき」

 

「う、うん。そうするよ」

 

やらかしてしまったことにしょんぼりとする鈴羽だが、その内心では興奮が収まっていなかった。

 

鈴羽はずっと、ロシアがタイムマシン実験を始めたことや、至と由季がうまくいっていないことに言い知れない不安を感じていた。あの日、岡部を過去に連れていけなかった自分は、使命を果たせないと嘆いていたのだ。もうシュタインズゲートを目指すことはできないほど、あるべき世界線からズレてしまっているのではないか、と。

 

だが、真帆が自分たちの味方だと分かったことで、これまで自分がやってきたことは間違いではなかったのだと自信を持つことができた。そしてこれからやろうとしていることについても。

 

(これでいい。これでいいんだ。橋田鈴羽。あたしはきっと間違ってない。きっと……シュタインズゲートを目指せる)

 

何はともあれ、これで比屋定真帆が未来ガジェット研究所に合流することになる。

 

岡部をあの日に連れて行く方法は見つかりそうにもないが、真帆の合流によって難航している電話レンジの開発が少しでも進むことを、鈴羽は期待していた。

 

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