STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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第十一章 無限遠点のアルタイル
(1)


2011年7月7日(木)

 

 

「じゃあ父さん。あたしはそろそろ行くよ」

 

昼前。鈴羽は名残惜しそうにそう言った。

 

「……うん。でも、その前に」

 

鈴羽は首を傾げる。これで最後になる。鈴羽は2036年からタイムトラベルしてきたときを思い出す。

 

あの時、至は唇を突き出してキスを迫って来たのだ。まぁ、冗談だったが。

 

今になって、最後にキスくらいしてやればよかったかな、とも思う。まゆりやかがりもあの場にいたから、適当にあしらってしまったが。

 

「これ、阿万音氏のバイトしてるケーキ屋さんで買って来たんだお。一緒に食べよ?」

 

思わず拍子抜けしてしまった。今度はキスくらいしてやろうとか考えていた自分が恥ずかしかった。

 

「…………」

 

もう行くと言っているのにこんなタイミングで、とも思ったが母である由季の働くケーキ屋さんでわざわざ買ってきてくれたのだ。

 

「鈴羽の好きなケーキだからさ」

 

「……うん」

 

最後にしんみりするのだけはやめようと2人で決めていたのに、どうしてもこうなってしまう。

 

鈴羽にとっては2度目の父との別れだ。時間的には、まだもう少しラボにいてもよかったのだが、昼過ぎになると真帆がラボへやって来る。

 

こんなところを見せるわけにもいかないから、早めに行く事にしていたのだ。

 

至としては、何度も引き留めようと思っていた。タイムマシンはもう、燃料がほとんど残っていない。内部電源のバッテリーも直に切れる。鈴羽が、ここに戻って来ることはきっとない。片道切符のタイムトラベルなのだ。

 

「見送りには来なくていいからね」

 

ケーキを食べながら、鈴羽は突き放すようにそう言った。

 

至がいると、きっと決意が揺らいでしまう。シュタインズゲートを目指すのは変わらないが、この一年で、この世界線を消してしまうことに躊躇いを持つようになってしまっていたのだ。

 

かがりのこともある。結局、あれから会う事さえ出来ていない。和解する道は見つけられなかった。

 

「分かってるって。今さら引き留めたりなんかしないって」

 

先手を打たれてしまった、と悔しそうな顔をする至。自分との別れを惜しんでくれているのがありありと伝わって来る。それが鈴羽には嬉しくてたまらなかった。

 

「ねえ父さん」

 

「うん?」

 

「あたしのこと、受け入れてくれてありがとう」

 

「………」

 

「未来から来た娘だって、信じてくれてありがとう。父さんがいたから、この一年、頑張ってこられた」

 

「………」

 

「あたしはきっと大丈夫。今のあたしならきっと、あの日のオカリンおじさんと、もっと話せる気がしてるんだ」

 

「…うん」

 

「母さんや、まゆねえさんたちには父さんの方からうまく言っておいて。あたしだと、きっと何も言えないと思うからさ」

 

「分かったお。ボクからちゃんと伝えとく」

 

それから、沈黙が続く。

 

永遠の別れを前に、何を話せばいいのか分からなくなる。

 

「鈴羽……」

 

「なに?父さん」

 

「頑張って行っておいで」

 

「……うん」

 

「ボクも、絶対に完璧なタイムマシンを作ってみせるから」

 

「うん。父さんなら絶対にできるよ」

 

「…次は、シュタインズゲートで会おうな」

 

今から6年後に、鈴羽は生まれてくる。それもまぎれもない至の娘である。だが、この目の前の鈴羽とは違う鈴羽だ。

 

「あたし……絶対に、忘れないからね」

 

リーディングシュタイナーがあれば、と今ほど思った事はない。絶対に忘れないように祈りを込めて。ふたりはどちらからともなく、抱きしめ合った。

 

「おう!」

 

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