STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
ちょっと間の抜けた爆発音とともに、部屋の中が煙に包まれた。
「けほけほっ!窓!窓開けてっ!」
「げほげほげほ!オ、オーキー……げほっ、ドーキー……」
真帆は開発室から這うようにしてリビングに脱出した。
至が慌てて窓を開けると、階下からオーナーの男性と思われる怒鳴り声が聞こえてきた。
「おい、橋田!今の音はなんだっ⁉おめえ、テロでも起こす気か!通報するぞ!」
「サーセン!電子レンジが爆発したんですお!」
至が窓から顔を出し、下に向かってペコペコしている。
「今時の電子レンジが爆発するかよっ!どんんだけ古いの使ってんだ!」
「いまだにブラウン管を愛用してるブラウン氏に言われたくないお……」
「なんか言ったか橋田ぁ!」
「な、なんでもないですお!」
しばらくやり取りした後、オーナーが納得したらしく、窓越しの口論は終わった。
「はー、それにしてもビビったぁ」
そう言って額の汗を拭う至の顔も服も、ススで黒く汚れていた。
「ビビったじゃないわよ!」
真帆の方のそれは同様だ。髪の毛先はところどころチリチリになってしまったし、せっかく用意した白衣も、真っ黒になってしまった。
「どういうことか説明して。なぜいきなり煙を噴いたの⁉」
「電子レンジが原因だと思われ。粗大ゴミで捨てられてたのを拾ってきたヤツだから、どこかショートしたのかも」
「拾って来たって———あなたねぇっ!私たちが作ろうとしているものは、人類史に名を残す大発明なのよ!なのになんで、粗大ゴミを部品に使っているの⁉」
「業務用の電子レンジは高いのだぜ……」
「信じられない……。私のクレジットカードを使ってもいいから、なんとかしなさい!」
真帆としてもそれほどたくさん貯金があるわけではなかったが、背に腹は代えられなかった。
「それは助かるお!」
「はぁ……」
真帆は汗とススにまみれた顔をタオルで拭った。真っ白だったタオルは、たちまち真っ黒になった。
「もう我慢できないわ。エアコンを入れるわよ」
「それは無理!電話レンジ(仮)弐号機と一緒に稼働させると、ブレーカーが落ちるんで。つーかそのエアコン、電気代がとんでもない事になるから、1日1時間しか使うの禁止って言ったっしょ?」
「…………」
なんという、劣悪な環境なのだろう。紅莉栖はこんな環境でタイムリープマシンを作り上げたのだろうか。それを考えただけでも、真帆は紅莉栖の事を尊敬しなおした。
「わかったわよ。でも髪までススまみれだから、シャワーを借りたいのだけれど」
「どうぞどうぞ」
「もしちょっとでも覗くような真似をしたら……すぐに鈴羽さんに連絡するから、そのつもりで」
「そんなことしないって……」
真帆の警告に対し、至はなぜかしょんぼりして肩を落とした。
「つーかボクは今、そういう冗談に付き合っていられるほど心の余裕はないお……」
真帆としては別に冗談で言ったつもりではなく、いたって真面目なのだが。
「傷心のボクは、今週はエロゲすら断ってる状態なんで……はぁ……」
真帆が来日した日に、デートで大きな失敗をやらかしたらしい事は鈴羽から聞いていた。それ以降、至は普段に比べるとおとなしくなっているのは事実だ。
まゆりなんかは、ダルくんがえっちなゲームをやろうとしないなんて、てんぺいちいの前触れだよぉ!などと言っていた。
エロゲなるものを断つ意味は真帆には理解できなかったが。そんなゲームをしている至に、デート相手がいるということの方が不思議だった。
お相手の阿万音由季は真帆も会ったことがある。あんな美人が、この野獣のような見た目の至と、将来結婚するなど、想像もつかなかった。
(私だって、異性と交際どころか、デートなんてしたこともないのに……)
幼いまま育つ見込みのない自分の身体を見下ろして、きつく拳を握りしめた。