STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「岡部さんっ!」
真帆の声に振り返る。
「シュタインズゲートは、実在すると思う?」
俺は拳を握りしめる。
「まゆりさんが死ぬ事なく、そして、紅莉栖も犠牲にならない、そんな狭間の世界線が、あると思う?」
「…………」
握った拳が震える。
「それを目指した俺の顛末を知りたいなら、鈴羽に聞くといい。結局、運命には逆らえなかった。あんなのは、下らない妄想だよ」
「そう言い切ってしまって、本当にいいの?無いと証明されたわけではないのよ?」
「そんなの、まさに悪魔の証明じゃないか。そんな証明、誰にも出来るわけがない」
「そうよ。あるのかないのかも証明されていないのに、あなたは……たった一度失敗したくらいで諦めた」
「っ……」
「呆れてしまうわ」
「な、にっ……?」
その一言に、自制を失って、すんでのところで真帆の肩をつかんでしまいそうになった。
「さっきも言っただろう?それ以前に、俺は何回も、何十回も、何百回も挑んで——」
「私も言ったはずよ?それは“神”の摂理でもなんでもないって。世界線もタイムマシンも、シュタインズゲートなんてものも——どれも、世界を構築するためのただの数式に過ぎない。何回も、何十回も、何百回も失敗した?だから何だと言うの?そんなの、科学の世界では当たり前のことよ。それで失敗したのなら、何千回も、何万回も、何億回も挑戦すればいい。そうすれば、必ずそこに解法は見つかる」
「君は……!君は、何も知らないし、経験していないから、そんな無責任な事が言えるんだ……っ!」
「いいえ。嫌というほど経験してきたわ。失敗も挫折も後悔もその痛みも。牧瀬紅莉栖という天才のせいで……」
「数式に感情はないだろう!」
「数式を解くのは人間よ。結局のところね」
真帆と間近で睨み合う。
「…………」
「…………」
真帆の、苛烈とも言えるその眼差し。なぜだか俺は、その眼差しを正面から受け止める事に、負い目のようなものを感じて。たまらず視線を逸らした。
黙って踵を返し、ドアを開けて出て行こうとした。が、服の裾を掴まれ、引き留められる。
そうされたのは意外だった。
「……まだ、何か用か?」
不機嫌な声を出しながら、振り返ってしまう。
「………」
直前まで、あれだけ苛烈に俺を睨みつけていた真帆が、悲し気な笑みを浮かべていた。
まるで、今の一瞬で別の世界線に移動したんじゃないかと錯覚してしまったほどで。
「……あなたこそ、嘘が下手ね」
「……嘘?」
俺が、嘘をついているって?
「嘘って……なんだ?俺は嘘なんてついていない」
「橋田さんに聞いたんだけど……1年前のあなたは、タイムマシンに関しては、取り付く島もなかったんですってね。シュタインズゲートの話なんて、それこそ論外。口にするのも憚られるほどだったって」
「い、いったい何を言って……」
「でも、今は違うわ。だって、あなたのその顔……私が以前、よくしていた顔と同じだもの」
「……?」
「紅莉栖に実証実験で負けて、論文の評価でも負けて、名声でも負け続けて。落ち込んで、もうダメだって思って……」
「…………」
「でも、いつも最後は、鏡を見て自分を叱りつけたのよ」
真帆は自分の心臓——心のあたりを、人差し指でスッと指差した。
「挑戦するのを諦めたら終わり。そうしたら永遠に勝つ事は出来ない、ってね」
その指を、今度は俺の左胸へと向けてくる。
「今のあなたは、その時の私と同じ顔よ……。心の奥の奥では、まだリベンジする気でいる。自分をこんな惨めな男へと貶めたシュタインズゲートに」
俺が、まだ内心では諦めていない?
「違う。そんなことは……」
「違わない。あなたはほんと、私そっくりだもの。まるで鏡像みたい。強情で、一度言い出したら聞かなくて、自分が間違ったと分かっても、それを絶対に認めたくなくて子どもみたいに拗ねて、誰かに心配や迷惑ばかりかける」
「…………」
「って、そんなことないって、少しくらいはフォローしてもらえないと、ちょっと傷づくわね。……けどね、だからこそ分かるのよ」
「分かる…?」
「私もあなたも……最後は、絶対に自分の足で立ち上がるの。——そうでしょう?岡部倫太郎……いいえ。鳳凰院凶真さん?」
「っ……!」
「もう一度言うわ。あらゆる世界の摂理は、ただの数式であり、その解法は必ず存在する。私はなんとしても見つけてやるわ。“神”なんて存在しない、ただの数式を解く鍵を。そうして、まゆりさんが死なない……紅莉栖も生きている。狭間の世界線に続く道へと、辿り着いてやる」
一気に言い切ったせいか、真帆は少し息を切らしていた。
こんな小さな体なのに、なんていうバイタリティなんだろう。
そんな彼女の姿に、その言葉に、俺は圧倒されてしまっていた。
「で、あなたはどうするの?岡部所長。ここはあなたのラボなのでしょう?いつまでも所長不在では、話にならないのだけれど」
「俺は……俺は……っ!」