STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
鈴羽は出発と別れの挨拶をしようとした。
が、その時——。
「きゃっ!」
銃声と爆発音が響き、建物が激しく揺さぶられた。
「屋上からだ!突入して来るぞ!」
「くそっ!思ったより早い!」
鈴羽はホルスターから銃を引き抜いた。マシンから降りようとしたが、それを父に止められた。
「ダメだ。さっさと跳べ!」
「でも、父さんたちが!」
「俺たちのことはいい。早くいけ、鈴羽!」
「そんな、だって!」
「まゆ氏、かがりちゃんを!」
「え?」
「このマシンにはもう一人乗れる!」
「…うんっ!」
呆然としているかがりを、父とまゆりが抱き上げ、マシンの中へと押し込んできた。
「スズちゃん、かがりをお願い……」
苦渋の決断だ。まゆりは涙が溢れそうになるのを必死でこらえている。
「…分かったっ!」
このままでは、間違いなくかがりは死ぬ。父もまゆりも、みんな殺されてしまうだろう。だが、鈴羽がミッションに成功し、世界線が再構成されれば、それらは全てなかったことになる。
ここでかがりを脱出させる意味はないのかもしれない。だが、そでも母は子を逃がしたいと願うものだ。鈴羽の母もそうだったのだから。
「ま、ママ…?」
ようやく事態を飲み込んだらしいかがりが、機外にいる母に呼びかける。
「や、やだ!やだよ……イヤ!」
「大丈夫だよ、かがりちゃん。スズちゃんが一緒だから、ね?」
「ダメ!ママも一緒じゃなきゃダメ!」
「過去へ行けば、昔のママがいるよ。今よりずーっと若くて、かがりちゃん、びっくりするだろうなぁ」
まゆりはかがりに向けて、小さなキーホルダーを差し出してきた。かなり古いものらしく、鮮やかな緑色をしていたはずのそれは、すっかり色あせてしまっている。
「ママがずっと大切にしてきた、うーぱのキーホルダーだよ。かがりちゃんにあげる。大事にしてね」
それをかがりの手に握らせると、まゆりは泣き笑いの表情をしたまま下がった。
「イヤ、行きたくない……ママと一緒にいる!ママ…ママっ!」
「ダメ!」
その一言に、かがりだけでなく鈴羽も至も目を見開いた。
「かがり、おとなしくしてなさい!」
まゆりの鋭い叱責。これまで怒っているところなど見たことがない。そのまゆりが、厳しい口調で娘を叱りつけた。
「うぅ……」
かがりは立ち尽くしたまま、静かに涙を流している。
「…閉めるぞ!」
ハッチが今度こそ本当に閉まり始める。機内と機外。二つの世界が、隔絶されようとしている。鈴羽のミッションが成功するか否かにかかわらず、もう二度と会うことはできない。
「スズちゃん。本当に、かがりをお願いね。あと、オカリンに伝えて!シュタインズゲートは必ずあるって!」
「絶対に諦めるな、大馬鹿野郎……ってな!」
「…オーキードーキー!」
ドアが密閉され、外の混乱する音も、至とまゆりの声も、消え去った。
「父さん………大好き」
閉じたドアに向かって、それだけ呟くと——。
「行くよ、かがり。……過去へ!」