STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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その時、俺のスマホにラインの着信があった。

 

ルカ子からだった。

 

『大変です!僕、いったいどうしたら⁉』

 

『まゆりちゃんが!今、偶然すれ違ったんですけど!』

 

『泣きながら走って行っちゃったんです!』

 

『あんな悲しそうなまゆりちゃんを見たの、僕、はじめてで』

 

 

 

「……え?」

 

まゆりが泣きながら?

 

文面から、ただならぬ事態だという事が伝わって来る。俺が絶句したのを見て、真帆も何事かとスマホの画面を覗き込んできた。

 

『泣いてた⁉何があったんだ⁉』

 

『わからないんです!』

 

『自分のせいで、くりすさんが死んだとか、それで岡部さんが苦しんでるとか』

 

『自分がいなくなればよかったとか』

 

 

なん、だって……?

 

俺は真帆と顔を見合わせた。

 

「まさか……聞かれてたのか、今の話……」

 

「そう言えば……」

 

いつの間にかシャワールームから出てきていたダルが後ろから声を出した。

 

「オカリンがラボに来るって連絡くれたの、まゆ氏だ…。まゆ氏もここに向かってくる途中だって言ってた…」

 

じゃあタイミング的には……じゅうぶん可能性があるっていう事じゃないか。

 

「そ、そんな……」

 

ガラガラと足許が崩れていくような錯覚を覚える。紅莉栖の犠牲の元にまゆりが存在するこの世界線。その事実だけは、絶対にまゆりに知られるわけにいかなかったのに。

 

捜さないと。まゆりを捜さないと。今のあいつを一人にしておけない。

 

「くそぉ!」

 

俺はラボを飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふー。まだ暑いな」

 

時刻はそろそろ18時。夏至を過ぎている太陽はようやくビルの彼方へと姿を隠そうとしているが、依然、夏空は一部だけが茜色で、あとはやや汚れた青色を保っていた。

 

鈴羽はこの数日、ラジ館屋上にあるタイムマシンの整備を念入りに行っていた。

 

今日、過去へと跳ぶことになる。マシンの整備にもおのずから力が入るというものだ。

 

本来なら少しくらい汚れていても構わないパーツ類までピカピカに磨き上げてしまうほどだった。

 

(気負い過ぎてるかな。……やっぱり不安なのか)

 

整備を終えて工具類の入ったボックスを片付けると、鈴羽はそれをタイムマシンのコクピットの中へ収納した。そのままマシンの操縦席に座って、バッテリーの残量を改めて確認する。

 

残りの燃料では、あと1か月ほどもすると、2010年7月28日には戻れなくなる。

 

それが鈴羽が、この時代に残っていられるタイムリミットだ。だが、岡部をあの日へ連れて行くことはもう、出来そうにない。だから予定を切り替えて、別のミッションに鈴羽が1人で挑む事に決めた。

 

「……それにしたって父さんってば、これはないよなぁ」

 

鈴羽は軽く苦笑いをして、コンピューターコアの奥に手を突っ込んだ。

 

そこには、どう見ても2036年のものではなく、今——つまり2011年のものである外付けハードディスクが置かれていた。

 

鈴羽の目を盗んで至がこっそりと置いたのだろう。

 

この時代の至でも、タイムマシンの生体認証をパスすることができる。

 

だが、『コクピット内に異物が検知されました』という表示が出ている。この程度の工作はすぐに見抜かれてしまうのだ。

 

とはいえ、モニタリングやデータの取得が目的でないのは、明らかだ。純粋に、このハードディスクを誰にも見つからないように、ここに隠しておいたのだろう。

 

 

 

 

そんな事を考えていると、外から思い鉄扉を開ける音が聞こえた。

 

「っ⁉」

 

誰かが来た。鈴羽は素早くホルスターから拳銃を抜くと、コクピットから鉄扉の方を窺った。先日のかがりの件もある。

 

タイムトラベルを早めたのも、それを警戒してのこと。誰かに見つけられる前に、飛び立ってしまおうという算段だった。

 

 

 

「まゆねえさん。珍しいね。ここへ来るなんて…」

 

現れたのがまゆりであったため、鈴羽はすぐに警戒を解いた。

 

まゆりにも、今日飛び立つことは知らせていなかった。知らせれば、悲しむことが分かっているからだ。

 

「……スズさん」

 

「…………泣いてるの?何があった?」

 

いつも笑顔を浮かべているまゆりが、涙に暮れている理由が分からず、鈴羽は困惑した。

 

「……どうして、みんなは教えてくれなかったのかなぁ」

 

「……え?」

 

「紅莉栖さんっていう人と、まゆしぃとの……本当の事……教えてくれなかったのかなぁ」

 

「っ!」

 

思わず、ぐっ……と言葉に詰まった。誰から聞いてしまったのだろう。

 

まゆりの生存のためには、牧瀬紅莉栖の犠牲が必要だったという残酷な事実を——。

 

 

 

それを知ってしまった時のまゆりの顔を、鈴羽は何よりも見たくなかったというのに。

 

「……誰に、聞いたの?」

 

と言っても、その事実を知っている人物は限られる。鈴羽以外では、岡部、至、フェイリス、そして真帆。誰もまゆりに、あえて真実を話すような人間ではない。むしろ、まゆりのためにその事実を隠してきた。

 

「オカリンと……真帆さんが話してるのを、聞いちゃった……」

 

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