STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
やはり偶発的な事故だった。
「ねえ、スズさん。お話……聞いてもいい?2036年の、まゆしぃと、オカリンのこと」
正直なところ、それを話したくなかった。まゆりにとって、決して救いのある話ではない。
「未来の事は、知らない方が幸せだよ」
まゆりの頬を、また一筋の涙が伝い落ちていく。
「まゆしぃなんてね、この世界にいても、何の役にも立たないよ。だったら、紅莉栖さんの方が、世界のためにも、オカリンのためにも、ずっとずっと必要なんだよ」
「………」
この目の前のまゆりが、鈴羽の知る未来のまゆりに収束するのだと考えると、まゆりの頼みを断れなくなった。
「あたしの知ってる未来のまゆねえさんも……時々そう言ってた。そんな時は決まって、ぼんやりと空を眺めてるんだ。すごく寂しそうで、切なそうだったよ。あたしもかがりも、そんなまゆねえさんを見てるのが辛かった」
「かがり?」
そこで鈴羽は、かがりの事もまゆりには内緒にしていたのを思い出した。
「……かがりっていう名前の女の子がいたんだ。戦災孤児でさ、まゆねえさんが引き取ったんだ。だから、まゆねえさんの……娘っていう事になる」
「まゆしぃの……娘」
「優しくて、でも、強い子でさ。まだこんなに小さいうちから、いつも言ってた。ママを護るのは自分だって……。そんな子だから、母親であるまゆねえさんが寂しそうにしているのは、かなり堪えてたはず……」
それでも、未来のまゆりは、鈴羽やかがりを心配させるまいと、いつも無理をして笑っていた。
鈴羽がそれを理解できる年齢になってからは、まゆりの笑顔を見ることも辛かった。
そんな想いをさせたくないと思ったのが、過去へのタイムトラベルを決意した理由でもあった。
「そういえば、7月7日……今日って、『七夕』っていうんだってね」
「え?う、うん」
「あたしは子供の頃に、まゆねえさんから教わったんだ。織姫と彦星が年に一度、会うことが出来る日だって。大気汚染がひどくて、星なんて見られる時代じゃなかったけど、それでもまゆねえさんは言ってたよ」
『雲が夜空を覆っていても、星は、世界から消えちゃうわけじゃない。雲の向こうで、変わらずに輝き続けてるの。だから一緒にお祈りしようね』
「そんなまゆねえさんの言葉が、あたしやかがりには希望になったんだ。それだけは、知っておいてほしい。少なくとも、あたしやかがりにとっては、まゆねえさんが必要だった。それに、オカリンおじさんだって、死ぬまでまゆねえさんの事を大事にしてたんだ。まゆねえさんの幸せの事ばかり考えていたんだ」
「死ぬ……まで?」
「あっ…」
その事実もまた、まゆりにとっては残酷な事実なのかもしれない。
だが鈴羽は、こうなったら全て包み隠さず話すと覚悟を決めていた。
「そう、だよ。オカリンおじさんは、今から15年後までしか生きられない」
「え……」
「まゆねえさんを庇って死ぬんだ。」
「う、そ……」
「オカリンおじさんは最期にこう言ってたって——父さんに後から聞いた」
『まゆりの命を助けることが出来て本当によかった。自分はまゆりを守るために生きてきたんだから』
「……そ、そんな」
まゆりは両の手のひらで口を覆った。
「でも、まゆねえさんはその事をずっと引きずっていたんだろうな。あたしたちには見えないところで、こっそり、七夕の空を見上げて、つぶやいてた」
『あの日、私の彦星さまが復活していたら、全てが変わっていたのかな?』
「あの日……?私の、彦星さま……。私……?」
まゆりはその言葉を口の中で反芻している。その瞳からは、まだ涙がボロボロと落ち続けている。しかし、悲痛な慟哭はいつしかおさまり始め、まだ悲しみに震えてはいたが、声音は静かなものに変わりつつあった。
「どういう事なの……かなぁ」
「あたし、今なら分かる気がする」