STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
鈴羽はスマホに届いたムービーメールの再生ボタンを押した。かなり圧縮をしたらしい荒れた映像。その中に、その人は現れた。
鈴羽にとって、それはずっと見て来た顔であり、今も傍にいる顔であり、同時に懐かしい顔でもあった。
幼い頃の鈴羽をよく抱き上げてくれたその人は、おそらく映像の中では35歳くらいだろうと推測出来た。
『やあ、鈴羽。元気かい?父さんだよ。こちらは2025年だ。色々なことを君に託してしまって、本当に申し訳なく思う。許してくれ、頼む。このムービーメールが届いたという事は……君は、いや、君とまゆ氏は、シュタインズゲートっへの道をまた一つ、見つけてくれたという事だ。つまり、計画は次の段階に移行したわけさ。なぜ、最初から全部指示しなかったのかと、君は怒るかもしれないな。でも、指示しなかったんじゃないんだ。出来なかったんだよ。君が出発した世界線のボクは、これから話すオペレーションを計画していなかったはずだからね。もう、気づいているかもしれないが——君とまゆ氏の選択によって、世界線はまた少し、変動したんだ。つまり、ボクも君が出発した世界線とは違う、別の世界線上の橋田至という事になる。でも鈴羽。どうか勘違いしないでほしいんだ。ボクは、どんな世界線においても、娘ラブだからね。フフッ、ちなみにどうだい?比べてみて、どっちのパパの方がダンディかな?ボクは最近筋トレを始めたんだけどさ……フフン?』
『ダル!くだらないことを言ってないで、さっさと作戦内容を話せ!』
『まったくだわ。どうせまた三日坊主で終わるんだから、どうでもいい報告はしないで!』
『録画出来る時間が終わっちゃうニャ!』
『まぁまぁそう急かすなって』
鈴羽は、至の後ろから聞こえる声に、思わず笑みをこぼした。
このメールを送って来たのは、この世界線の未来の至たち。
つまり、つい数時間前に別れを告げた至と、岡部たちなのだ。
至やフェイリスはともかくとして、岡部と真帆がその場にいる事が嬉しかった。
あれだけ説得しても立ち上がってくれなかった岡部が、未来では至たちと一緒にいる。おそらく、未来では戦う事を決めたのだ。
「おじさん。せめてあたしが過去に行く前に立ち上がってほしかったな……。それに父さんが筋トレ?ふふ。どうせ2036年でも痩せてないんでしょ?」
そんなことを言いながら、ムービーの続きを見る。
『つーことで、このムービーメールの本来の目的に移ろう。『オペレーション・アークライト』の詳細を伝える。これは本当に一瞬のミスも許されない、ギリギリの闘いになる。心して聞くんだ。いいね?』
と、ここで鈴羽はムービーを一時停止した。
気持ちを切り替えなくてはならない。
やはり自分は父が大好きなのだ。未来の至からメールが来たことで、かなり興奮している。
岡部が立ち上がってくれたことも。そして、このタイミングでメールが来たという事は、自分とまゆりの考えたオペレーションは間違いではなかったということだ。
深呼吸をしようとしたところで、ふとまゆりの姿が目に入った。
まゆりはスマホに一生懸命何かを打ち込んでいる。まゆりには、今日過去へ跳ぶことは伝えてある。もともとその予定だったが、メールが来たことでそれが確定した。
「何してるの?」
「あ、スズさん。メールはどうだったの?」
「うん。作戦概要はこれから確認するよ」
「そっか。あのね、過去へ出発しちゃったら、まゆしぃは行方不明になっちゃうわけでしょ?心配かけたくないから、お父さんとお母さんと、あとお友達みんなに、メールを書いておこうと思って」
「……オカリンおじさんくらいには、直接伝えられる時間があるといいけどね」
未来では、岡部は立ち直っているようだったが、今の岡部は違う。まゆりが過去に跳ぶと知れば、是が非でも止めようとするだろう。
最後に一言くらいは話しておきたいが、止められたくないという思いもある。
「オカリンにも、メール書いたから大丈夫」
「…メールでいいの?」
「……うん」
まゆりは、はにかんでからコクリとうなずいた。その瞳にもう涙はなかったが、薄桃色の頬には、滴の通った跡がまだはっきりと残っている。
「……なんだか、恥ずかしいから」
「………」
強い人だな、と思う。
自分ひとりでは無理でも、この人がいれば、きっと過去を変えられる。
そんな確信が鈴羽の中にはあった。
(まゆねえさんが、こんな顔をしなくてもいい世界線に行かなきゃいけない……)
自分が織姫になれないと分かっていても、大好きな人のために戦おうとする優しい人。
「ん~でもね、せっかく書いたメールだけど、送れないかもしれないな~って、今ちょっと困ってたところなのです」
「…なんで?」
「電波……圏外になってるんだ。場所が悪いのかなぁ?」
「圏外……?」
鈴羽はまゆりの示したスマホの画面を見る。電波状況を示すアンテナが1本も立っていない。
「おかしい。この場所なら、いつだって電波は入ってた」
自分のスマホも確認するが、同じく電波は入っていない。自分のとまゆりのはキャリアが違うはずだが、それでも状況は同じ。
「……イヤな予感がする」
鈴羽はまゆりをタイムマシンの陰に隠れるように言うと、足音を忍ばせて、階下へ続く鉄扉へ走り、身を寄せた。音がしないように注意しながら、鉄扉を拳ひとつ分ほど開く。
気配を窺うが、いつもとなんら変化はない。
(気のせいか……?)
首を傾げつつ、鉄扉をそっと閉めようとした——。