STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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「はぁ……はぁ……」

 

まだ時間はある。焦るな。鈴羽は無事だし、まゆりもそのうちひょっこり、ラボに戻って来る。自分に何度もそう言い聞かせながら、なんとかラジ館に着いた。

 

そこで俺は通行人が携帯電話をかざしたまま、空を見上げている人がかなりいる事に気付いた。駅前でも電波は繋がらないらしい。息を整えながら、ラジ館を見上げる。

 

その時、炸裂音のようなものが遠くで聞こえた。しかも1発じゃない。音は連続で鳴り響く。聞きなれない異様な音に、周囲の人たちも何事かと不安げに辺りを見回している。

 

俺はそこで気づいてしまった。

 

これは、銃撃戦だ。

 

以前、SERNのラウンダーとロシアの部隊との間で交わされた激しい音を思い出す。

 

音の出どころはラジ館の屋上から。

 

間に合わなかったのか⁉

 

「鈴羽……っ!」

 

俺はラジ館の中に飛び込んだ。

 

 

 

エレベーターはなぜか点検中になっていて止まっていた。

 

やむを得ず階段を駆け上がる。心臓が破裂しそうなほどにバクバクと鼓動を早め、焦りのために足がもつれる。

 

俺はいったい、何度こんな気持ちでこの階段を駆け上がっただろう?

 

まるで呪縛のようだと感じながら、自分の体力の無さを呪いつつ、上階を目指す。

 

銃撃戦を繰り広げているのは誰なのか。

 

『Amadeus』の裏から支配している連中であるのは間違いない。思い浮かぶ組織はSERNかロシア。

 

だが、『父なる神』という言葉が頭をよぎる。

 

(あいつら、『Amadeus』の父と言えばやはり……)

 

そんなはずがないと、その可能性を打ち消す。あの人が、そんなことをするはずがない。

 

答えが出ないまま、俺は7階まで辿りついた。

 

そして——。

 

 

 

 

 

「レスキネン……“教授”……!」

 

会いたくない人と、会うことになってしまった。

 

「やぁ、リンターロ。まさか、こんなに早く君が来るとは思わなかったよ」

 

俺の顔を見るなり、困ったような顔をした。

 

「はぁ……はぁ……どうして、ここに……っ⁉」

 

「少し落ち着きなさい。そんなに息が切れていたのでは、話も出来ないよ?」

 

「……どうして、ここにいるんですっ!『Amadeus』はどうなったんです⁉」

 

「……君に頼んだサンプリングテストは半年前に終わっている。話すことはできないな」

 

それが答えだった。

 

「“紅莉栖”が俺に送って来たメッセージの内容は、本当だったんですね?」

 

あそこに書かれていた“父”は、やはりレスキネンを指していたのだ。

 

「“紅莉栖”や“真帆”をどうしたんです⁉あいつらの記憶データを解析して、タイムマシンに関するデータを取り出すつもりですか⁉」

 

「驚いたな……。“クリス”はそこまで君に話してしまったのか。監視していたつもりだったが、いつの間にそんな真似を……」

 

こいつは本気で驚いているようだった。ということは、@ちゃんねらー“紅莉栖”のことも、そこで俺とあいつがやり取りをしていたことも、気づいていないらしい。

 

と、レスキネンはおもむろに懐から銃を取り出し、俺に向けた。

 

「君は少し踏み込み過ぎたようだ」

 

「あなたは………お前は……何者なんだ?」

 

「科学者だよ。だが、科学者も慈善事業ではないのでね。君は“STRATEGIC・FOCUS”社という、アメリカの民間情報機関を知っているかな?」

 

「ストラテジック・フォーカス社?アメリカの…………ストラトフォーかっ⁉」

 

以前、陰謀論を扱ったサイトで見たことがある。

 

CIAですら入手困難だったロシアの弾道ミサイルに関する最高機密情報を、いともたやすく手に入れて売買し、CIAのメンツを丸つぶれにした。

 

しかもその結果、ロシア軍の戦略をも根底から揺さぶったという。湾岸戦争やイラク戦争でも、どこよりも早く全ての戦争参加国の軍事情報を手にし、必要に応じて、それを各国にバラまいたという噂もある。

 

「世界から、“影のCIA”などと呼ばれているのが私たちだよ」

 

じゃあ、『Amadeus』も軍事利用するつもりなのか⁉あのセミナーで話していた事は、全部キレイ事の嘘っぱちだったのか⁉

 

「ま、私のことはどうでもいいだろう?それよりリンターロ。カツミから聞いたのだが——君も、例の新型脳炎を発症しているそうだね。それどころか、新型脳炎そのもののメカニズムについて、何か知っているらしいじゃないか。実に興味深い。君の持つその除法を、ぜひ、提供してくれないか?なに、簡単な施術を受けてくれるだけでいいんだ。そうすれば、私は君を助手として迎え入れてもいい」

 

施術、と聞いてなぜか全身に鳥肌が立った。俺に親切にしてくれた、子供みたいなイタズラ心と好奇心を持つ尊敬すべきレスキネン教授は、そこにはいなかった。

 

いや、こっちが本性だったのだろう。

 

「どうかな?」

 

レスキネンが1歩、俺の方へ詰め寄ろうとした。

 

そのとき——。

 

 

 

上の階から、またも激しい銃撃戦の音が響いた。レスキネンがその音に反応し、舌打ちした。階段の上へと視線を向ける。

 

「なぜ銃撃戦になっているんだ?穏便に済ませろとあれほど——」

 

その隙を、俺は見逃さなかった。

 

「うおおおお!」

 

「——⁉」

 

階段の途中だったことが幸いした。レスキネンの両足にぶつかるようにして、思いきりタックルをする。バランスを崩したレスキネンは勢いよく転倒した。

 

「ぐっ……!」

 

段差に後頭部を激しくぶつけたらしく、一瞬だけうめいた後、ピクリとも動かなくなった。

 

……死んだ、かもしれない。

 

だが、もう悔いたりはしない。俺はすでに、過去に何度も、人殺しになっているんだから。

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