STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「オカリンおじさん!かがりは無事っ⁉」
鈴羽からの呼びかけに、俺は我に返った。ここでかがりの死を伝えれば、鈴羽は大きく動揺するだろう。
それは得策じゃない。今は一刻も早く、タイムマシンをなんとかしなければ。
「大丈夫だ!この子は俺が病院へ連れて行く!」
俺は血まみれのかがりの遺体を肩に担ぎ、立ち上がった。
「鈴羽は急いでタイムマシンを停止させて偽装しろ!もうじき警察がここへ——」
「もう遅いよ」
「な……?」
俺が開けようとした目の前で、階下へ続く鉄扉が先に開き、向こう側から巨大な影がヌッと現れた。
「レスキネン……っ!」
死んでいなかったのか?しかし、頭に負ったダメージはかなり大きかったようで、顔は土気色になり、片方の目の焦点があっていない。
「すぐにここは戦場になる……。アメリカもロシアも日本も動き出してしまった。一度回りだした歯車は、もう止められない。カガリがもっと早く我々に報告していれば、ここまで事態は悪化する事もなかったものを……」
こいつがかがりを知っている?ということはやはり——。
しかし、俺よりも先に鈴羽が反応した。
「そうか、お前が……“教授”か!」
鈴羽はレスキネンに銃を向けた。
「かがりを洗脳したのはお前だな⁉」
「…………」
「そう、なのか?あんたは……お前は、そんな奴だったのか⁉」
レスキネンはニヤリと笑う。
「別に、この私が何かをしたわけじゃない」
俺の問いかけを否定しようとはしなかった。
「むしろ、10年ほど前、路頭に迷っていた彼女を助けて、ここまで育つよう援助してあげたんだよ」
「援助って……普通に生活していたら、かがりがこんな風になるはずないだろうっ!」
「そんなに、怒鳴らないでくれないか?頭が割れるように痛むんだ」
俺は拳を握りしめる。
「嘘じゃ……ない。彼女は、自分の方から私に接触して来た。整形までして、この街に潜り込んだのも、彼女のプランだよ。なんでも、頭の中の“神様”が全て教えてくれるんだそうだ。最初、私はホームレスの子供が食べ物欲しさに下らない作り話をしているんだと思ったんだがね。彼女の脳や記憶を調べてみると、非常に興味深く、素晴らしい事が分かった」
レスキネンは両手を広げる。
「その神様というのはね——」
激痛に顔を歪めつつも、レスキネンは誇らしげに笑ったのだ。
「なんと、未来の——2036年の私だったんだよ」
「っ!」
かがりは、未来で洗脳されていた⁉
「あ、あんたは……本当の、マッドサイエンティストだ………」
唐突に、街にサイレンが鳴り響いた。聞いているだけで不安になってくる、そんな音。今までに訊いた事のないようなサイレンだ。
「なんだ?これ……」
『ゲリラ攻撃情報。ゲリラ攻撃情報。当地域にゲリラ攻撃の可能性があります。屋内に避難し、テレビ・ラジオをつけてください』
街頭スピーカーから、そんなアナウンスが流れる。
ゲリラ攻撃……?
いつの間にか上空には、何機ものヘリコプターの旋回する音がしていた。
それは、報道用の民間ヘリなどとは明らかに違う、獰猛なエンジン音を響かせて飛行していた。
かつて、悪夢のような戦時中の背愛泉で聞いた戦闘ヘリと同じ音だった。
「言っただろう?ここは間もなく、タイムマシンを奪い合う戦場と化すんだ……」
「第三次世界大戦が……始まるのか……!」
「まさかこの街の住民も、自分たちの都市の中心から世界戦争が始まるとは、夢にも思っていないだろうね……」
そしてレスキネンはそのまま壁にもたれかかるようにして地面に座り込み、動かなくなった。その安否を確かめている余裕はなかった。街全体の空気が、ずしりと重くなったような、そんな感覚。背筋がゾワリとする。
兆候は、半年前からあった。日本の、東京の、秋葉原というこの街に。あまりにも場違いな各国の諜報員や、軍人たちが暗躍していた。
……だから、分かっていた事だったんだ。鈴羽の頼みを断り、まゆりが生きているこの世界線を望むことで訪れる、50億人以上が死ぬ未来。
これを選んだのは俺だ。
俺なんだ……。