STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
ラボの電気は消えていた。室内にはダルと真帆、そしてフェイリスがいて、真っ暗の部屋の中で、テレビとPCのモニタだけが光を放っていた。
「オカリン!」
「岡部さんっ!よく無事で……」
「って、ひどいケガしてる……!」
「大丈夫なの⁉」
「戦闘に巻き込まれたん⁉」
「急いで手当しないと!」
俺は3人の言葉に応えていられるほど、心の余裕がなかった。
テレビに映る映像に目を遣る。臨時ニュースのレポーターが必死で声を枯らしていた。自衛隊と思しき男に、邪魔だと怒鳴られていて、その直後に激しい爆発音とともに映像が途切れた。
「ここも、危ないわね……」
「お家には……帰れない」
「ネットの情報も大混乱中なんだよ!」
3人が絶望を顔に滲ませている。
「なあオカリン。鈴羽は⁉あと、まゆ氏は見つかったん⁉」
「す……鈴羽と、まゆり、は………鈴羽とまゆりは、過去へ跳んだのか、死んだのか、どっちかだ……」
「……え?」
俺の曖昧な言葉に、ダルが苛立たしげに詰め寄って来た。
「どういう事だよ⁉もっとちゃんと教えてくれ!」
「戦闘ヘリが、タイムマシンにロケットランチャーを……」
「っ!」
「タイムマシンは、破壊されて……。それに鈴羽とまゆりが乗ってて……過去へ跳ぶ、直前だったんだ……。マシンの残骸は残ってたけど、全部じゃなくて。なぁ、ダル。鈴羽もまゆりも、どれだけ捜しても、死体が見つからなかったんだ……。体の一部さえ、残ってなかった。まるで、跡形もなく消えたみたいに……。あの2人、ちゃんと、過去に跳べたのかな……」
堪えていた涙が、ボタボタとこぼれ落ちる。
「っ!」
ダルが、俺の話を聞いて、床に膝から崩れ落ちた。
フェイリスと真帆も、肩を寄せ合って目を見開いている。
「ちくしょう!ちくしょう、ちくしょうっっ!」
ダルが拳で床を激しく叩いた。
「そんなバカな事ってあるかよ⁉あるのかよぉぉーっ!」
「………っ」
俺は涙を拭こうとして、ようやく自分の右手にきつく握られている物に気付いた。
まゆりが渡してきたスマホだ。メールを読んでくれと言っていた。
ロックはされていなかった。メールフォルダを開いてみる。そこには、家族や友達に宛てたいくつかのメールが、未送信のまま残っていて。その中に、俺に宛てたものもあった。
これを読めと……あいつは、言っていたのか?震える指で画面をタップし、そのメールを開いた。
オカリンへ。
トゥットゥルー♪ まゆしぃです。
本当はちゃんとお話しようと思ったけど、う
まく言えるがどうか分からないし、オカリン
に引き止められると迷っちゃいそうだから、
メールにしました。
私は、スズさんと一緒に、過去へ行って来ま
す。なんで? ってオカリンは怒るかもし
れないね。でも、これは、私がやらなきゃい
けない事なの。だって、あの時、私の彦星さ
まを……どんなに苦しい時でもいつも立ち上
がって高笑いを上げてた、強い強い彦星さま
を……暗い雲の向こうに隠しちゃったのは、
私なんだから。
私ね、勘違いしてた。みんなは、未来をオカ
リンひとりに押し付けようなんて、してな
かったんだね。
オカリンのまわりには、ダルくんがいて、ス
ズさんもいて、るかくんもいて、フェリス
ちゃんもいて、由紀さんもいて、それに真帆
さんも加わった……。だから、今度はね、私
の出番。だってこれは、ラボメンナンバー
002の、初めてのおっきな任務なんだから!
オカリンはきっと心配すると思うけど、大丈夫
だよ。それに、もしも何かあったとしても……
必ず助けに来てくれるって信じてるから。
私の大好きな鳳凰院凶真が、新しく作った
タイムマシンに乗って、必ず……。
だから、私は行って来ます。必ず戻ります。
オカリンの所へ、戻ってきます。少しだけ、
待っててね。
私は鳳凰院凶真の事が好き。でもね……
岡部倫太郎の事は、もっと好きだよ。
「う……うっ……まゆり……お前…忘れてるだろう?お前は、俺の……人質なんだぞ?いなくなったら、人質にならないじゃないか……」
「何かあったら、助けに来いだと?人質のくせに、生意気だろ……?狂気のマッドサイエンティストがお前なんかのために……お前……なんかのためにっ……」
「お前はバカだ……でも……もっとバカだったのは……この俺だ…」
心が苦しい。痛い。まるで、紅莉栖を殺してしまった直後のようで。
今すぐ倒れ込んで、そのまま死んでしまった方がずっとマシかもしれない。
この苦しみから解放されたい。
だが、俺は…涙でかすむ視界の隅で、それを、見つけたのだ。
鳳凰院凶真の最後の武器。最後の希望。
——いや、むしろ俺に何度も絶望を突きつけてきた悪夢のような“それ”を。
俺は開発室によろよろと足を踏み入れ、偽装用のダンボールを無造作に撤去していく。
そこにあったもの。
『電話レンジ(仮)弐号機』
俺に無断で、真帆とダルと鈴羽が作っていたもの。
これが完成すれば——。