STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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「くっ……」

 

俺は振り返ると、涙をぬぐい、それから暗い部屋の中で沈んでいる仲間たちを見回した。

 

 

 

「お前たち、タイムリープマシンの作り方が分からないと言ったな。俺の言う通りに……してくれるか?紅莉栖の導き出した『解』を、お前たちに伝える。それで…タイムリープマシンは起動する。」

 

記憶の圧縮方法だけが分からないと真帆は言っていた。ということはつまり、それ以外の部分は出来ているという事。そして俺は、そいつを完成させる方法を知っている。

 

ダルは、真っ先にうなずいた。

 

「ボク、やるよ!教えてくれ、オカリン」

 

「……私も手伝うわ」

 

「決まりだニャ」

 

3人が返事を迷う事はなかった。

 

俺に視線を向け、きっぱりと、そう答えてくれた。

「よし。ダルSERNにハッキングをかけてくれ。LHCを遠隔操作してブラックホールを生成する。そこで、記憶データを36バイトまで小さくする。それなら過去へ転送できる」

 

「た、たったの、36バイト……?」

 

やはり研究者だ。ケタの違う数字に、真帆の顔色が一瞬、変わった

 

「け、けどさ……なんか動作が不安定で…こいつ、ただの電子レンジになっちゃう時があって……」

 

「ブラウン管工房の42型ブラウン管。それが点灯している時に、電話レンジ(仮)は機能を発揮する」

 

「ブラウン管……?あっ、そうかっ!」

 

さすがは真帆だった。ブラウン管と聞いただけで、察してくれたようだ。

 

ついさっきまで涙に暮れていたのが嘘のように、表情に生気が蘇り始める。

 

「それなら、完成させられるかも……でも、完成したとして、いきなり使うつもり!?なんの実証もせずに、人体実験まがいのことをするなんて……!」

 

「自分の作った物に、自信が持てないのか?」

 

「……で、でもっ」

 

「別の世界線で、紅莉栖はやってみせたぞ?」

 

「そ、それは……紅莉栖だからよ。私は、あの子には、なれないわ……」

 

「@ちゃんねるに書かれた、紅莉栖のメッセージを見ただろう」

 

「え……?」

 

 

 

最後に最も尊敬する人にこう伝えてほしい。私は自分を凡庸なる人々の

代表だと考えていた。そして、貴女が常に私にとっての目標であり

貴女こそがまさにアマデウスその人だったと。

 

 

 

「紅莉栖にあそこまで言わせたんだ。なのに逃げる気か?」

 

「……っ。逃げたりなんか……しないわよ。見くびらないでっ」

 

俺はうなずきを返し、爆風でボサボサに乱れてしまっていた自分の前髪を、ぐいっと手でかき上げた。

 

「凶真、これ!」

 

フェイリスが長い間開発室の壁に吊り下げられていたままの白衣を持って来てくれた。

 

俺はきつく唇を噛み、もう一度、涙を拭くと、その白衣を受け取り、袖を通した。

 

バッと袖を翻して、ラボの中心に、かつてのように仁王立ちをして。

 

そして高らかに宣言する。

 

 

「これより、『電話レンジ(仮)弐号機』を完成させ、タイムリープを行う!俺に力を貸してくれ。今度こそ、俺は絶対に諦めない……!」

 

ダルに、フェイリスに、そして最後に真帆に視線を向けて。

 

「たとえ、何回、何十回、何百回ダメだったとしても……何千回、何万回、何億回と跳んで、何もかもすべて救ってみせる。鈴羽もまゆりも。そして、紅莉栖もだ!これはその最初の一歩となる!」

 

 

 

久々にそんな『厨二病』丸出しの号令を出した気がする。

 

心強い仲間である3人は、俺を見て、決意を秘めた力強い表情でうなずいてくれた。

 

 

 

 

電話レンジ(仮)弐号機を完成させるまでに、徹夜で作業してほぼ2日を要した。

 

その間、秋葉原の騒乱は断続的に続き、うかつに外出もままならなかった。

 

戦闘に巻き込まれるのではないか、どこかの組織の襲撃者がラボを襲ってくるのではないか。

 

そんな恐怖と戦いながらの作業は全員の神経をすり減らしていく苦行だった。

 

それでもなんとかマシンは完成し、俺は跳んだ。

 

 

 

 

 

 

2011/07/09 17:45   →   2011/07/07 17:45

 

 

 

 

 

 

「………っ」

 

タイムリープを敢行してふと気付くと、俺は秋葉原の路地の真ん中に立っていた。手にはスマホを握りしめている。

 

激しい頭痛と、頬のあたりにヒリヒリした痛みを感じた。ちょうど偏頭痛の発作が起きた時のように片側の頭と、あと、顔の左半分が痛み、目の前がチカチカして視界がはっきりしない。

 

咄嗟に周囲を見回す。秋葉原の路地はまだ平穏なままだ。爆発音も銃撃戦の音も聞こえない。

 

男女問わずオタクたちが買い物を楽しみ、メイド服を着た女の子たちが呼び込みをしている。

 

それを見ただけで俺は確信した。タイムリープは成功した、と。

 

スマホの時間を確かめる。7月7日17時45分。戦争開始まであと40~50分ほどの猶予があった。

 

それでも、時間は全然足りないが……。

 

48時間というタイムリープの跳躍制限があって、ここまで戻って来るのが精一杯だったんだ。

 

いや、ネガティブに考えるな。後少しでもマシンの完成が遅れていたら、すべてが手遅れになっていたんだ。間に合っただけでもマシだろう。

 

この時間の俺が、何をしていたのかは把握している。

 

失踪したまゆりを捜して、秋葉原を走り回っていたのだ。

 

まずは真帆に電話だ。

 

『もしもし、見つかった⁉』

 

「いや。だが場所は分かった。急いでラボに戻って来てくれ」

 

真帆の返事まで聞かずに電話を切り、俺もラボへと引き返した。

 

 

 

 

ラボに戻ると、既に真帆も到着していた。

 

「まゆりさん、見つかったのよね。迎えに行かなくていいの?」

 

「………」

 

ダルが少しバツの悪そうな顔をしているのは、直前に俺を殴ったせいだろう。

 

「比屋定さん、よくやってくれた!」

 

「…はい?」

 

俺は真帆の両手をつかみ、がっちりと握手した。

 

真帆もダルも状況をつかめていないようで、困惑顔をしている。

 

「俺は、48時間後の未来からタイムリープしてきたんだ!」

 

「え?」

 

「マジっ⁉」

 

「……完成、させたの?最低でもあと48時間以内に?」

 

「ああ」

 

「いったい、どうやって…」

 

「説明は後だ!いいか、時間がない。よく聞いてくれ!何人もの命がかかっている」

 

ミッション内容は、電話レンジ(仮)弐号機が完成するまでの時間で何度もシミュレーションしてきた。

 

何を伝えるべきか、すべて考えてあった。

 

「比屋定さん、すぐに『Amadeus』にアクセスして、“紅莉栖”と“真帆”をバックアップごと全部消去しろ。レスキネンは、あれを平和利用するつもりなんてない」

 

「な、何を……そんな滅茶苦茶な……」

 

「タイムリープしてきたって言っただろう?あと一時間もしないうちに、秋葉原が戦場になるんだ!タイムマシンが狙われるんだよ!それが第三次世界大戦の始まりになる。阻止しないと、鈴羽もまゆりも死ぬ!」

 

その瞬間、ダルの表情が変わった。

 

「マジ……なんだよな」

 

「ああ。だから俺の言うとおりにしてほしい」

 

「……っ!データにはアクセスできるけど、外部からいじるには教授の持っている管理者権限が必要よ」

 

「そこから先はダルの仕事だ。クラックして、データを完全に破壊しろ。それと、ヴィクトルコンドリア大学のサーバー内から『Amadeus』が移されている可能性がある。アクセス出来なければ、ストラトフォーをハッキングしろ!レスキネンは、ストラトフォーの人間だ!」

 

「オーキードーキー!任せろっ!」

 

ダルが猛然とPCに取り付いた。なにしろ娘の危機なのだから当然だろう。真帆もダルの横に付いて、自分のIDやパスを打ち込み、『Amadeus』にアクセスを開始する。

 

「俺はラジ館に行く。ここは任せたぞ!」

 

「オカリン!鈴羽を、頼む……!」

 

「ああ!——任せろ!」

 

PCを見たままそう声をかけてきたダルに、俺は力強く応えを返した。

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