STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
ダルたちが『Amadeus』を消去してくれれば、かなり時間を稼ぐことが出来るはずだ。
というのも、レスキネンは『Amadeus』の秘密の日記をこじ開ける術を手に入れてしまったのだ。
@ちゃんねるでの“紅莉栖”からのメッセージ。あいつは“サリエリの隣人”が俺だと気づき、こちらの味方になってくれた。
おそらく、“真帆”の中にはタイムマシンの場所が、“紅莉栖”の中にはタイムマシン理論が入っているはずだ。
それもこれも、秘密の日記をこじ開けられたことで、α世界線の紅莉栖がリーディングシュタイナーを発動したからだろう。でなければ、俺がサリエリの隣人だとは気づけなかったはずだ。
それともう一つ。タイムリープ前、かがりはレスキネンを裏切った。
かがりは洗脳されながらも、レスキネンにタイムマシンの場所をずっと黙っていた。
おそらくは、自分がタイムマシンを手に入れるためだろう。
かがりがレスキネンに教えない限り、『Amadeus』を削除できればタイムマシンが狙われることもなくなるはずだ。
とはいえ、秋葉原にあることは知られているだろうから、時間の問題ではあるはずだが。
「鈴羽!まゆり!」
ラジ館の屋上へ辿り着くと、俺の姿を見たまゆりが慌てた様子でタイムマシンの陰に隠れた。
「オカリン……」
まゆりは俺の顔をはっきり見ようとしない。その目はずっと泣いていたのか、少し赤く腫れていた。α世界線での紅莉栖の犠牲について、俺が話しているのを聞いてしまったんだ。
まゆりをこんなに苦しめてしまった事に、改めて胸が痛んだ。
「まゆり……タイムマシンで過去へ戻るつもりか?」
「えっ……どうして……?」
「俺は48時間後からタイムリープしてきた。全部知ってる」
「なっ……それ、ホント?」
俺は2人に向かって頷いた。
「ここはあと30分もしないうちに戦場になる」
「えっ?」
「まさか、タイムマシンの事が、どこかから漏れるの?」
「ああ」
「まずい。だったら今すぐに跳ぶしかない」
鈴羽がマシンのコクピットに飛び乗ろうとした。
「いや、ちょっとだけ待ってくれ。ダルと比屋定さんが、今、先手を打っているところだ。優秀な2人だ。必ずうまくいくだろう。でも、もし仮に……思い通りに行かなかったら……」
「いかなかったら……?」
「………お前たちは、死ぬかもしれない」
「かもしれないって、どういうこと?オカリンおじさんがタイムリープする前の世界で、あたしたちはどうなったの?……というか、おじさんがタイムリープしてきたってことは、なにか致命的な“失敗”があった。そうなんだね?」
「…………」
それをこの2人に面と向かって言うべきかどうか……。いや、迷っている暇はない。
「鈴羽とまゆりが乗っていたタイムマシンは、時間跳躍直前に、ロケットランチャーの直撃を受けた……」
「……っ!」
「……っ!」
「でも、乗っていたお前たち2人の死体は、マシンの残骸の中からは見つからなかったんだ……」
「なるほど。だから、かもしれない……か」
そう。鈴羽の言うとおり。
「それなら未来は確定していない。まだ成功の可能性は残されている。
俺は2人の死を、観測していない。
「鈴羽なら、そう言うと思った」
「止めないでよ、おじさん」
その目は決意に満ちていた。止めるならば、どんな実力行使も辞さない……そう言いたげな目だ。
もちろん、もとより俺は、鈴羽の時間跳躍を止めようと思っているわけじゃない。彼女はその使命のために来たのだし、決心を変える事は出来ないだろう。俺はむしろ、ストラトフォーの妨害なしに鈴羽をちゃんと跳躍させるため、この時間までタイムリープしてきたと言っていい。
けれどまゆりは……。
まゆりのメールを読んでから、俺の中で生まれては消え、消えては生まれ続けた迷いが、また首をもたげてきた。
「…なぁ、まゆり。本当に行ってしまうのか?」
「………」
「お前に隠し事をしていたのは、謝る。でも、俺も、紅莉栖も、みんなが…お前の事を、大好きなんだ。そんなお前を助けたくて、この世界線に、辿り着いたんだ。なのに、お前が行ってしまったら…俺は……俺たちは……」
「オカリン……」
「いや、お前の気持ちは痛いほど分かってる。けど…」
「ねぇ、オカリンおじさん?」
そこで鈴羽が静かに口を開いた。
「『オペレーション・アークライト』が発動したんだよ」
「オペレーション……アークライト?」
「あたしが聞かされていた当初の計画とは違う。戻るのは去年の7月28日じゃなくて、8月21日なった」
「8月21日!?」
その日は、鈴羽がタイムマシンに乗ってやって来た日であり、俺がすべてを諦めてしまった日じゃないか。
「そのオペレーションには、まゆねえさんも必要なんだ。未来の父さんから、あたしはそう指示を受けた。ついさっき」
「なん……だって……?」
未来のダルたちの——俺の知らないオペレーション?そのためにはまゆりが必要?鈴羽の思わぬ言葉に、心が千々に乱れる。
やはり、あのとき感じた立ち眩みは、リーディングシュタイナーだったのだ。あの瞬間に未来からDメールが来た、ということだ。
「オカリン……」
と、まゆりが抱き着けるほどに近づいて来て、優しく俺の手を握りしめてきた。
その表情は少しだけ泣きそうで。それなのにどこか晴れ晴れとしているようで。
「まゆり……」
「行かせて。……ね?」
「………」
「まゆしぃも、ラボメンなんだよ?落ち込んじゃってる彦星さんを、まゆしぃが。ひっぱたいてきてあげるから」
「………」
「お願い」
あのメールの内容を、思い出す。まゆりが、どんな気持ちで跳ぼうとしているのかを、強く強く思い出す。首をもたげかけていた、最後の迷いが、ゆっくりと溶けて消えていく。
「……俺、は…。俺ひとりで、何もかも背負っていると、勘違いしていたんだな……。周りのことが、見えてなかったんだな…。まゆりだけじゃない、俺の近くには、たくさんのラボメンたちが、いるのにな」
「オカリン……」