STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
パンッ!と銃声が響く。
「ぐぁっ!」
いきなり足に激痛が走り、その衝撃で俺は数メートルほど弾かれて倒れた。
「オカリンっ⁉」
「オカリンおじさんっ⁉」
火のついたような痛みに自分の足を見下ろすと、パンツのふくらはぎあたりが赤く染まっていくのが見えた。
心臓の鼓動に合わせるかのように、ズキズキと激痛が走り、立ち上がれない。
撃たれた、らしい。
「お前……かがり……!」
視線の先にライダースーツの女が立っていた。かがりは右手に拳銃、左手には、それが脅しであるかのように爆弾らしきものをぶら下げていた。彼女の仲間であるはずの迷彩服の男たちや教授は一緒ではないようだ。
やはり、かがりはレスキネンを裏切っていた。それは救いだが、かがりが現れるのが少しだけ早い。
やや計算外だが、どうやらここが、タイムリミットなんだろう!
「鈴羽、マシンに乗るんだ!今すぐ跳べ!」
「え!?」
「くだらないことを言って悪かった!お前を護るためなら、ダルはどんなことでもやってのける!“失敗”なんて、するわけないよな!」
「オカリンおじさん……!」
「だから、マシンは無事に跳べる!だろ!?」
「もちろん!」
事実、ここにかがり以外の部隊や教授が現れていない。それはダルや真帆の工作がうまくいって、タイムマシンの秘密をストラトフォーから守り抜いた証拠のように思われた。
「まゆりも行け!早く!」
「で、でもオカリンは!?」
まゆりは、負傷した俺の足を見ながらオロオロしている。
「俺のことなら心配ない。14年後までは、絶対に死なないからな」
「………っ」
かがりがまた発砲してくる。弾は俺が倒れこんでいる場所から30センチと離れていないところに着弾した。
「誰も動いちゃダメ!じゃないと、その人を殺しちゃうよ!マシンに乗らないで!それはかがりが、未来へ帰るのに使うんだから!」
「………」
「構うな!ここは俺がなんとかする!早くしろ!鈴羽もだ!かがりのことは俺に任せてくれていい!」
「分かった!まゆねえさん!中へ!」
「え!?あ!?待っ……!」
まゆりが鈴羽に押し込まれるようにして、マシンの中に消えた。
「オカリンおじさん!かがりのこと、頼んだよ!」
「了解だ!」
鈴羽もまゆりに続いてマシンの中に消える。と、同時にハッチが閉まり始める。
「ダメだって言ってるのに!降りてよっ!」
かがりが動揺し、駆け寄ってくる。俺は脳まで突き上げてくるような足の激痛をこらえ、強引に立ち上がると、彼女の前に立ちふさがった。
「邪魔はさせない!」
「うるさい、どけ!」
「断る!」
「どけよぉ!」
「ぐあぁっ!」
かがりの強烈な蹴りを、負傷した方の足にまともに食らった。あまりの痛みにグラグラとめまいがし、その場にくずおれてしまいそうになる。
一方、かがりは俺の横をすり抜け、タイムマシンにすがりつこうとした。このままだと、手に持っている爆弾を使われる。
そうなったら、結果は前と同じだ!タイムリープしてきたのが水の泡になる!
「降りろっ!じゃないと、この爆弾でマシンを壊す!」
「やめろっ!」
背後からほとんど覆いかぶさるようにして、かがりを羽交い締めにする。足の痛みをこらえながら、マシンから引き剥がす。
「分かってるのか!?そんなことをすれば、お前の大事なママが死ぬんだぞ!!」
「……っ!で、でも、私はっ…。私はぁっ!」
「おとなしくしてくれ!頼むから!」
と、今にも閉まりかけているハッチから、まゆりが何かを放り投げてきた。
「オカリン!これ!」
床に落ちたそれは、真帆から預かった紅莉栖の遺産——ハードディスクだった。
「こ、これは、紅莉栖の!?どうしてここに!?」
確かロシアに破壊されたはず…。
「父さんを怒らないでやって。これからのタイムマシン研究に必要なものだと思うから」
マシンの中から、鈴羽の声がかすかに聞こえた。そう、か。タイムマシンに、ダルが隠していたってことか……。
「それじゃあ、オカリン!行ってくるね!」
ドアの細い隙間からこちらを見ているまゆりと、視線が交わる。そう、これは、一時的な別れ。きっと、また会える。そうだろ、まゆり?だから、勇敢なるラボメンナンバー002を、胸を張って送り出そう。
「頼んだぞ、ラボメンナンバー002、椎名まゆり!『オペレーション・アークライト』を完遂しろ!情けないこの俺を……ひっぱたいてきてくれ!」
「うん、任せて!オカリン、私ね!オカリンのこと…大好き!」
「……ああ」
俺が笑顔で見送る中、ハッチが完全に閉まった。タイムマシンが徐々にうなり出す。
遠くから、ヘリコプターらしきローター音が聞こえてくる気がする。
信じているとはいえ……今の所、ダルたちがこんな短時間で『Amadeus』のような複雑なシステムをクラックし、データを完全に消去できたかどうかの確証が何もない。
もしかしたら、まさに今、各国の特殊部隊がこの街に続々と集まっている最中かもしれない。
それを想像すると、焦燥感が増していく。
早く…。早く行ってくれ……。俺は祈るような気持ちで、青白い燐光に包まれるタイムマシンを見つめた。
「行かないで!ママ!鈴羽おねえちゃん!」
かがりの懇願にも似た叫びが、虚しく響く中……。
タイムマシンは、まばゆい光に包まれて、この時空間から完全に消滅した。