STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「………成功だ……」
「あ……あ……」
わめき散らしていたかがりが、憎悪の目で俺を睨みつける。
「どうして……。どうしてママを行かせた!?」
かがりは俺の手を振り払うと、銃口を向けてきた。俺は、それをまっすぐに見据える。
「君の素晴らしいママは、鈴羽と一緒に、世界をダメにしたバカな男を叱りに行ったんだ。この世界のために、とっても大事な事をしてきてくれるんだ」
「う、嘘……うそだ……。ママも、鈴羽おねえちゃんも、かがりを置き去りにしていったんだ……」
「嘘じゃない。俺も、君がもっと幸せな場所でまゆりと出会えるように、これから頑張ってみる。だから、もう、やめにしよう。な?」
「そ、そんな……そんな話、信じられないっ……」
「いいや、君なら、信じてくれるはずだ。だって俺は……君が本当は誰で、どんなに優しい人か……良く知ってるから」
「……っ!」
突きつけられている銃口が、かすかに震え始めた。
「私を、知って……る?」
「知ってる。俺は、48時間後からタイムリープしてきたからな」
「………。う、ぅ………!」
と、かがりはヘルメットごと、自身の頭を抱え、苦しげに身を折った。
「神様の……声が……騙されるなって、言ってる……。お前は嘘つきな敵だって。殺して仕舞えば、ママのところへ帰れるようになるって……。世界を破壊しようとする悪い奴は、殺せって…。それで私は、元の世界へ、戻れる……」
かがりの言動は、支離滅裂だった。これが洗脳なのか。ここまで非人道的なことを、教授はやっていたのか。
「分からない分からない分からない!分からないよぉっ!」
俺は、銃を握ったまま振り回しているかがりの手を掴み、ヘルメットの奥にある瞳をしっかりと覗き込んだ。不安に怯えるその目からは、涙がこぼれ落ちていた。
「聞くんだ。ママはきっともう、戻ってこない。でも、これから俺たちが頑張れば、もしかしたら、ママも君も幸せな形で一緒に暮らせる世界線が訪れるかもしれない。君のママは、そのために、時間を跳び越えていったんだ。そのママの気持ちを、台無しにしちゃダメだ。君は、今からでもやり直せる」
「ううっ……うう……。神様の声に、逆らっても……いいの?」
「……ああ」
かがりが聞く神様の声というものこそ、教授の施した洗脳だろう。それがどれほどの深度までかがりの精神を蝕んでいるのかは分からない。
だが、今の俺たちには、真帆という脳科学スペシャリストだってついてるんだ。
根気よく治療していけば、きっと……大丈夫。
「…………。ねぇ、岡部さん……」
かがりの俺への呼び方が、普段のものに戻った。
「ママに、会いたいよ…。会えるかな……?」
「会えるさ。いつか」
「……よかった」
パンっ!と、銃声が。
「!?」
「がはっ……」
ふたたび響いた突然の銃声とともに、かがりの身体が、俺の目の前で崩れ落ちた。
銃声のした方を見ると、かがりと同じように黒いライダースーツに身を包んだ女——ヘルメットをかぶっていないので、間違いなく桐生萌郁だと分かった——が、銃を構えていた。
病的なほど青白い顔で、涙を流している。
「な、なんで…なんで、お前がこんな……?なんでだよ、桐生萌郁!」
「FB……ねぇ、FB……?私、あんな女になんか、騙されなかった……こんなの、ニセモノの携帯だって分かったよ……だから、お願い。私を見捨てないで、FB……FB……」
萌郁の手から、携帯電話が落ちた。彼女の発泡によって、その携帯も粉々に破壊される。俺は、かがりを抱き起こした。彼女の胸が、みるみる血に染まっていく。
「ごほっ…」
「おい、しっかりしろ!」
「ああ……よかった……神様の言う通りにしても……間違うこと、あったんだ……。じごう……じとく……ですよ……。彼女の心を踏みにじって……利用しようと……したから。ごめんなさい……こんな子に……なるつもりじゃ……なかったの……。ねぇ、ママ……どこ?どこなの……?」
かがりの声が、か細くなっていく。
そう。俺はタイムリープ前に、かがりの死を観測してしまっている。だから………。
桐生萌郁もまた、銃を持ったまま、少し離れた場所でへたり込んでいた。目の焦点は合っておらず、ただブツブツとつぶやき続けているだけで、まともな思考ができる状態ではなさそうだった。
どこかの病院に連れていかないと、2人とも危険な状態だった。だが……
何十人という迷彩服の男たちが屋上の策を乗り越えて、いっせいに姿を現した。
「え!?」
さすがのダルと真帆でも、やはりこの短時間では、無理だったのか……?
それとも、結局、この世界線の戦争は、この場所から始まる。そのように収束するのは避けられない、ということだろうか?
いや、でも……。
「ふっ……無駄なんかじゃなかったさ…」
少なくとも、2人は時間を稼いでくれた。そのおかげで、襲撃の時刻が後ろにずれ……鈴羽とまゆりは無事に旅立つことができた。
そう、今、この瞬間、俺たちにできる『目的』は、間違いなく達成されたはずだ。
まだ不確定ではあるけれど、シュタインズゲートへと到る道は、間違いなく俺の行く先につなぎ止められたのだから。
「目標1、ロスト。目標2、目標3もロスト!どうなってる!」
リーダーの男が、無線で状況を報告している。空には戦闘ヘリが飛び回っている。また、あのサイレンがなった。
『ゲリラ攻撃情報。ゲリラ攻撃情報。当地域にゲリラ攻撃の可能性があります。屋内に避難し、テレビ・ラジオをつけてください』
戦争が、始まりつつある。
やはり、タイムリープしても、それだけは変わらなかった。
「リンターロじゃないか」
レスキネンが、迷彩服の男たちの後から現れた。
そう……こいつは、迷彩服の男たちと同じように、ストラトフォーの裏のメンバーなんだ。
「なぜ、ここに……?カガリは、死んだのかい?」
「…………」
まゆりと鈴羽はあの日へと跳んだ。
これまでうじうじと悩んで腐っていた自分を笑いたくなるほどに清々しい。
この世界を、その運命を自分一人で背負っているなど、思い上がりも甚だしい。
だが、おそらく。いや、間違いなく。二人の任務、オペレーション・アークライトは失敗するだろう。
まゆりがどれだけ必死に声をかけようと、俺のことを蹴っ飛ばしたとしてもだ。
一時的に鳳凰院凶真は復活するかもしれない。だが、辛い現実——紅莉栖を救えないという運命を前に臆病風に吹かれてしまうかもしれない。
未だに世界線が変わる様子もない。
一時の蘇生などでは話にならない。
ただの気まぐれだとこの世界はみなすかもしれない。Dメールによる過去改変は、まだ完遂されていない。
ならば、鳳凰院凶真の復活…否。鳳凰院凶真が一度たりとも死んでいないと証明するには何が必要だ?
俺はどうやってα世界線からこのβ世界線へと戻って来た?
ダルがハッキングして暴いた最初のDメール。それを俺がエンターキーを押すことで消し去った。
必要なのは象徴。それを確定させる象徴的な行動。
今、この瞬間に、エンターキーを押さなければならないんじゃないのか?
α世界線でのエンターキーに代わるそれは何だ?
「聞かせてくれ、リンターロ。タイムマシンはどこに?」