STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「鈴羽、お前はこれを……知っていたのか?」
「…………」
「さっきの、2025年からのDメールは、誰が送ってきたんだ?」
“テレビを見ろ”というのが、このドクター中鉢に関するニュースであることは明白だ。
「ごめん……」
なにが“ごめん”なのか。
「ちゃんと説明しなくて、ごめん。でもさ、どうしてもオカリンおじさんには一度、牧瀬紅莉栖の命を救うのを“失敗”してもらわなくちゃいけなかったんだ」
「俺を、騙したのか……?」
「騙したわけじゃない。段取りとして必要なことらしいの。そう指示された」
指示って…誰に?
「オカリンおじさんに辛い思いさせちゃったことは、謝る」
「…どういうことか説明しろ……」
「その必要はないよ。聞けば分かる」
「聞くって……何を?」
「そのケータイに、“もうすでに”入っているはずだよ。2025年のオカリンおじさん自身からの伝言が」
「……え?」
「ムービーメール。そのケータイに、受信してるよね?」
「あ………!」
確かに受信した。7月28日。あの日。
紅莉栖と初めて会った直後。
まゆりに連絡を取ろうとしたそのときに、謎のムービーメールを受信した。
送信者は見たことのないアドレス。
「だが、なにも映っていなかった。ノイズしか入っていなかった……」
「今なら————。“牧瀬紅莉栖の命を救うのに一度失敗した”今なら————見ることができるはずだよ」
……ウソだろ?
そんなこと、有り得るのか?
半信半疑のままケータイを操作し、調べてみる。
1通だけ保存されている、ムービーメール。2025年と言えば、鈴羽の話によると俺が“殺される”年ということになる。
死の直前の俺が、2010年、今の俺に残した伝言……。
『シュタインズゲート』と呼ばれる未知の世界線へ到達するための“計画”。
その答えが、このムービーメールにある……?
「…………」
「鈴羽。これはどういうことだ?」
ムービーメールは、ノイズまみれで見れなかった。
「そ、そんなはず……っ!今この瞬間なら、見られるはずだって……!」
狼狽する鈴羽にわざとらしさはない。嘘は、ついていない。
予定にない事態であるようだった。
「騙したわけじゃ……ないのか?」
何がなんだか分からない。
一度失敗することが必要な段取りだと言った。その通りに俺は騙されて、紅莉栖の救出に失敗した。
そうすれば見られるようになるはずのムービーメールも見れない。
……やはり、シュタインズゲートを目指すことは不可能だということか?
俺には、紅莉栖を救うことなどできないということか?
だったらなぜ希望を持たせた?
第3次世界大戦なんて知らない。何億人が死のうが関係ない。
俺はまゆりを、紅莉栖を救いたかっただけだ…!
ただ生きていてほしかっただけなんだよっ!
それなのに…
「もういい…。もう、いいよ……。もう、疲れた」
「オカリン…」
まゆりの声だって、届かない。
世界線の収束には、抗えない。
「電話…あったの。未来の、まゆしぃから……」
「……?」
電話…?未来の、まゆり…から?
「まゆねえさん。それはいったいいつの未来から!?」
まゆりは首を横に振る。鈴羽も知らないことのようだ。
「鈴羽さんも、一緒にいたみたいだった。オカリンたちが消えちゃった、ほんの1分くらいの間に、もう1台のタイムマシンがやってきたの」
もう1台のタイムマシン…。
「そ、そのまゆりは……未来のまゆりは何て言っていたんだ!?」
「鳳凰院凶真の思い出がなくなっちゃわないように、蹴っ飛ばしてでも、呼び覚ましてくれって…」
鳳凰院…凶真が……。
シュタインズゲートへの到達方法ではなく、俺を呼び覚ますため…?
「そ、そんなの聞いてない。でも…」
鈴羽さえも知らない、未来からのコンタクト。それが意味するのは…
「……あるのか?シュタインズゲートは……あるのか?」
ムービーメールは見れなかった。紅莉栖の救出に一度失敗した今なら見られると言った、今でも見れなかった。
それでもなお、シュタインズゲートを目指すことができるのか?
「未来のまゆしぃは、あるって言ってた。きっとあるって……。そう、言ってた。だから…」
「諦めちゃ…だめ、だよ。オカリンは…鳳凰院凶真は……絶対に最後までやり遂げる人だから…!」
様々な思いが頭の中をめぐる。
シュタインズゲートは存在すると、無条件にそう思えているわけではない。俺に一度失敗させた理由も分からない。
だが、俺の中にある、この思いだけは疑うことができない。
紅莉栖を救いたい。
まゆりか紅莉栖か。そのどちらかしか選べない運命なんてごめんだ。そんな残酷でクソッタレな未来なんて認められない。
「俺は……」
「だいじょうぶだよ!シュタインズゲートはぜったいにあるよ!」
幼い声が聞こえた。
声の方に目をやると、声と違わぬ幼い少女が立っていた。
「うん?君は……誰だ?」
見たことのない少女。どこか紅莉栖に似ている気がする。…綯の友達か?
「あ、かがりっ!出てきちゃダメだって言っただろう!」
この少女はかがりというらしい。鈴羽が知っているということは、俺たちに関係する誰かなのか?
「だって…鳳凰院凶真にはやく会いたかったし、ママにも会ってみたかったんだもん!鈴羽おねーちゃんばっかりずるいよ!」
俺に…。いや、それよりも、ママ?
「おい鈴羽。その子は誰だ?それにママとは…」
「この子はかがり。椎名かがりだ。まゆねえさんの、娘だよ」
「ええーっ⁉まゆしぃの娘⁉ま、まゆしぃ、赤ちゃんなんて産んだことないよ……?」
「この時代のママはすっごく若いんだね!未来のママもきれいだったけど、こっちのママもきれいだな~」
さきほどまでの張りつめた空気が一気に弛緩する。
「お、おい……鈴羽」
「ごめん。オカリンおじさん。あたしにも、どうなっているのか分からない。そのムービーメールに全てが記されているはずだったんだ」
「ムービーメールは見れなかった。だが、未来の俺は、紅莉栖を救う方法に、辿りついていたのか?シュタインズゲートは、本当に存在するのか?」
「…ある。きっとある。父さんは、それを信じてあたしとかがりを送り出してくれたんだ」
「なぁオカリン。よく分からんけど、2025年になれば、ボクらもその方法に辿りつくんじゃね?あとは技術的な問題を解決すれば……」
確かにそうだ。今は分からなくても、その時になれば答えは出る。
「オカリン……」
「まゆり。俺は……」
未来のまゆりが、俺を目覚めさせるために、タイムトラベルしてきた。
きっと、俺がここで諦めてしまえば、全ては無駄になる。
だったら…。
「鈴羽、俺は……やるぞ」
「おじさん…」
「どうやら、世界はこの俺が変えてやれねばならんらしい」
「オカリンおじさん。改めて、あたしの手を取ってくれる?一緒に、シュタインズゲートを目指してくれる?」
「望むところだっ!この俺、狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真は絶対に諦めない!必ず紅莉栖を救ってみせる!」