STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

28 / 303
(18)

岡部がラボにやって来る少し前・池袋

 

 

『興味深いわね』

 

「なんだって?」

 

『聞こえなかったの?興味深い、と言ったの』

 

「……まさか、行きたいとか言うんじゃないだろうな?」

 

『ぜひお願い』

 

「話すべきじゃなかったな…」

 

池袋のど真ん中で、俺はスマホを片手に持ったまま天を仰いだ。最近、出来るだけ『Amadeus』の“紅莉栖”とのコミュニケーションを取るようにしていた。自分から連絡する事もあるし、向こうから連絡してくる事もある。

 

その辺の感覚は現実の友人とあまり変わらない。こうした人の多い場所でスマホ相手に会話するのはまだ少し恥ずかしかったが、かつて厨二病を演じていた頃のことを思えば、どうってことないと開き直るようにしている。

 

会話の内容は当り障りのないものを選んでいた。ただ、どうしてもかつて紅莉栖と話していた頃のことを思い出してしまい、つい、調子に乗ってしまうのだ。今もまさにそれで、うっかりラボのことを話したら、食いつかれてしまった。

 

『あんたが今話したそのラボ、オリジナルの私は行ったことが?』

 

「ああ、いや…」

 

『はっきりしないわね。どっち?』

 

「……ないよ」

 

紅莉栖がラボメンとしてラボに通っていたのは、α世界線での話だ。この世界線においては、紅莉栖はそもそもラボメンにすらならず、命を落とした。当然、ラボの場所も知らなかった。

 

「お前は勘違いしているようだから言っておく、ラボといってもラボじゃない。ただの、お遊びサークルだ。それに——」

 

今、あそこには鈴羽が住んでいる。ダルだって頻繁に出入りしてる。あの2人にこの“紅莉栖”のことを知られたら、いろいろ面倒な事になりかねない。

 

『言いかけてやめないでほしいわけだが』

 

「…なんでもない」

 

『いずれにせよ、外の世界をいろいろ見回ってみたい。今までは先輩や教授と話す時も、研究室の中ばかりだったから』

 

「だからこうして、日曜の朝っぱらから池袋を案内してやってるだろう…」

 

朝の10時。この時点でも、池袋駅前は多くの人で賑わっている。これから正午が近づくにつれて、さらに人は増えるだろう。

 

「なんなら、乙女ロードまで連れて行く覚悟はしていたんだけどな」

 

『乙女ロード?なによそれ?』

 

「お前の知らない世界が広がっている場所、だな」

 

『待って…今調べた。……ふむん。なるほどな』

 

「興味が湧いたか?」

 

まゆりなんかは好んで行っている場所だ。コスプレもそうだが、純粋にあいつはオタクだからな。しっかりと確かめたことはないが、腐女子的な趣味も持ち合わせているのだろう。そういう同人誌だって買っていたはずだ。

 

『そ、そんなわけあるか!とにかく、今日はあんたのラボに連れて行って!話して聞かせた以上、責任を取りなさい。よろしくね』

 

言うだけ言って通話が切れた。まるで俺はあいつの足代わりだな。まぁ、あいつは移動できないから必然的にそうなってしまうのだが。

 

「まったく、わがままな奴め……」

 

俺が『Amadeus』のアプリをインストールしてから、1週間ほど。最初は遠慮がちに、『岡部さん』と呼んでいたのに、気づけば『あんた』呼びに変わっている。AIになったところであいつは変わらない。かつて、敬称は不要だと言ったのは俺自身だが、真帆や教授に対する態度とはかなり違う。

 

心を開いてくれているのだと考えれば、悪い事ではない気もするが、やはり俺は牧瀬紅莉栖に振り回される人間であるようだ。言い合いをしたところで、あいつの理論は反証の余地もないほど完璧なのだから、結局俺が負ける結果になるのだが。

 

とはいえ、ずいぶんとナメられたものだ。このままだと、そのうち下僕以下の扱いにされかねない。

 

「これは、なんとかすべきかもしれん………」

 

と、一人悶々としていると——。

 

「あれ、オカリン?」

 

荷物をたくさん持ったまゆりに声をかけられた。おそらく、コスプレ衣装用の材料が入っているのだろう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。