STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

287 / 303
第十二章 交差座標のスターダスト
(1)


「因果は成立した。計画の最終段階について話そう。世界線変動率を変え、未知の世界線−−−−『シュタインズゲート』へ到達する計画だ。ちなみに『シュタインズゲート』と命名したのは俺だ。なぜ『シュタインズゲート』なのかは、お前なら分かるはず。“特に意味はない”。そうだろう?」

 

 

 

 

−−−−西暦2025年。

 

未来ガジェット研究所。通称『ラボ』

 

そして、レジスタンス組織『ワルキューレ』の本部でもある。

 

かつて秋葉原のじゃっ巨ビルの一室にあったラボも、第三次世界大戦の影響で、新しい拠点へと移転していた。

 

ラボというにはあまりにもみすぼらしい場所。

 

だが、間違いなく世界最高の頭脳たちが集まり、タイムマシン研究と、シュタインズゲートへの到達方法の検証が行われている場所でもある。

 

そのフロアの中央−−−。

 

 

 

まるで舞台俳優のようにポーズをつけながら、岡部倫太郎が、白衣をはためかせつつ語っていた。

 

 

 

 

「お前が立っているその場所は、俺たちが“紅莉栖を助けたい”と願ったからこそ到達できた瞬間なんだ……!」

 

「俺の計画の下準備は完了した。あとはお前次第だ。」

 

「……最終ミッション『未来を司る女神』作戦(オぺレーション・スクルド)の概要を説明する。“確定した過去を変えずに、結果を変えろ”。」

 

 

 

そんな岡部の様子を、少し離れたところで眺めながら、“クリス”こと比屋定真帆はうんざりしたようにため息をついた。

 

“クリス”は『ワルキューレ』において真帆が使っているコードネームである。

 

「はぁ…」

 

真帆は、すぐ横にいる橋田至に声をかけた。

 

「ねぇ?アレは、あれでいいの?」

 

「うん。たぶんね」

 

その至はと言えば、実に楽しそうに薄笑いを浮かべている。

 

この史上最強のスーパーハッカーと評される人物は、鳳凰院凶真のことが大好き過ぎるのだ。

 

「みんなと一緒にアレを見る事になる2010年の倫太郎は、恥ずかしくないのかしら?」

 

「大丈夫。その頃は、もっとすごかったから」

 

「あー、そう…」

 

真帆は、なおもうんざりしたような顔で、首を左右に振った。とはいえ、そんな表情をしながらも、内心では寂しくて胸が締め付けられそうな感情と必死に戦っていた。

 

おそらく、そんな感情を抱いているのは真帆だけではないだろう。至も、漆原るかも、撮影を担当している秋葉留未穂も、この後に待っていることを考えて、どこか名残惜しそうな雰囲気を滲ませている。

 

 

 

「“最初のお前” を騙せ。世界を、騙せ。それが、『シュタインズゲート』に到達するための選択だ。」

 

 

 

そこで岡部が、留未穂が構えているカメラの方へと歩み寄っていった。それっぽい雰囲気を醸し出すために、あえて引きの絵で、しかも背中を向けた状態で撮影したいと言っていたのに、自分から近づいてどうするの?と真帆は内心で呆れた。

 

岡部はフェイリスからごく自然にカメラを受け取り、自分の顔にそのレンズを寄せる。

 

そして、最後の決めゼリフを口にした。

 

 

 

「健闘を祈るぞ、狂気のマッドサイエンティストよ。エル・プサイ・コングルゥ」

 

 

 

言い終わって、岡部は録画を停止した。かくして、過去へのメッセージを乗せたムービーの撮影は終了した。

 

あの日から、ここまで来るのに15年。あまりにも長く。同時に、短くも感じた15年だった。

 

 

 

 

「はい、これでバッチリだニャ」

 

「よし。後は、Dメールと一緒に過去へ送信。ルカ子、送り先とタイミングを間違えるなよ?」

 

「はい!今のは2010年の凶真さんの携帯アドレスへ。さっき撮った至さんのムービーメールは、2011年の鈴羽ちゃんへ、ですね」

「ああ。よろしく頼む」

 

 

 

撮影を終えた岡部は、白衣をなびかせながら、真帆たちのところへ歩み寄ってきた。

 

「お疲れ様」

 

「これでシュタインズゲートへの道筋はついた。今の俺にできるのはここまでだ。あとは、2010年の俺次第といったところだな」

 

「おう」

 

「………」

 

「なんだ?ずいぶん暗いじゃないか」

 

「だって……。やっぱりみんな、不安だもの。タイムマシンの試作機で、いきなり有人実験なんて……」

 

真帆は、後方に鎮座している巨大なタイムマシン−−−−型番は『FG—C193』−−−を見上げた。それは、かつて2010年の秋葉原に現れたC204型とほぼ同じ形だが、機能的にはまだまだ不安な部分も多く、試作機の域を出ていなかった。

 

「大丈夫だ。俺は、有能な右腕たちを信用しているからな。絶対に成功する」

 

「あなたが死ぬのは2025年。この世界線では、それが確定している。だからって、自分から死にに行くような真似は、感心しないわ」

 

この議論は、すでに何百回と真帆たちの間で繰り返されてきたものだ。真帆自身、この日を迎えるまでに自分を納得させていたはずだというのに、ついつい、話を蒸し返してしまう。

 

「………確かに、俺はかつて、鈴羽からそう言われた。2025年に死ぬと。あいつの話じゃ、まゆりをかばって暴漢に刺されるんだったかな。今この場にまゆりはいないが、世界線は収束する。だから俺は、今年で死ぬものだとずっと思い込んで来た。けどな…」

 

岡部はそこでバッと白衣を少々オーバーに刎ねあげると、自分の胸に手を当てた。

 

「それは、必ずしも『死の必然』とは限らないんじゃないか?この俺が、2025年にこの世界線から消えるという選択もまた−−−−死と同じ意味に解釈出来るはずだろ?」

 

「……それは、そうだけど」

 

この仮説についても、何度も話し合った。

 

2025年に俺がこの世を去るというのは、別に岡部が死ぬわけではなく、記念すべきタイムマシン初号機に乗り、別の時空間へと無事に旅立つこと。それでもこの世界線における事象として矛盾しない。

 

世界は欺ける

 

可能性を繋げ

 

世界を騙せ

 

「“世界は騙せる”。別の世界線から届いたそのメッセージが、俺に勇気を与えてくれた。これから俺がやろうとしているのは、『未来を司る女神』作戦(オペレーション・スクルド)の実証実験みたいなものでもあるんだ。悲しむようなことじゃない」

 

「………そう。……確かにそう、ね」

 

 

『オペレーション・アークライト』のために旅立った、まゆりと鈴羽を迎えに行く事。そのためのミッションだと理解はしている。まゆりには、この時代に戻って来てもらわなければならない。今から7年後に、戦災孤児のかがりの母親になってもらわなければならない。

 

だが、2025年以降、岡部倫太郎は此処に存在できない。たとえ死んでいなくても、真帆たちにとってそれは、死んでいるのと変わらない。

 

 

岡部倫太郎は、二度と此処へは帰ってこない。その事を、岡部も口にしないだけで、分かっているのだろう。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。